第7話
朦朧とした意識の中、何か体を締め付けられているような感覚にいつの間にか閉じていたらしい目を薄っすらと開ける。
震える唇を軽く開き鼻から息を吸い口から吐き出す。
その際、顔の右側は何やら柔らかくて温かいものに包まれているがそれが何なのかわからない。
「大丈夫。大丈夫だから。そう……ゆっくり……ゆっくり」
何やら声も聞こえてくる。しかし脳が考えることを拒否しているのか何を言っているのか理解できない。
今はとにかく呼吸を繰り返す。何度も何度も。
少しずつ意識がクリアになっていく。それに合わせて異変を感じ取る。
―――寒い。
少しだけはっきりしてきた意識。それによりなぜか体が冷え切っていることに気が付く。
おかしい……確か生徒会室に入ったときは暖かかったはずだ。それに少し熱めの紅茶だって飲んだ。なのにすごく寒い。
手足の先が冷たくて震える。
どうしてこんなに寒いんだろう……温かいもの……とにかくこの冷えた体と手足を温めたかった。
すると顔に当たっているものが何やらとても温かいと気付く。
(あぁ温かい……もっと……もっと……)
ただ本能のまま彼は冷え切った体を温めるためにより全身を密着させようと強く抱きしめる。
その温かさといい香りに瞼が徐々に下がっていく。
そして彼はゆっくりと眠りに落ちた。
壁に掛けられた時計が一定のリズムで針を刻む。
遠くの方からは野球部だろうか。何やらかけ声が微かに聞こえてくる。
微睡んでいた意識が少しずつ覚めていく。
ゆっくりと瞼を開けていくと濃い夕焼けの色が室内を照らしていた。
(あれ俺……何してたんだっけ……?)
まだ脳が覚醒していないのか何も考えることが出来ず、ただぼーっと天井を見つめるていた。すると少しずつ覚醒してきたのか自分が何をしていたのかを思い出し始める。
(たしか彼女に連れられて、一緒に生徒会室へ来て……それで……そうだあの人は!?)
ハッとした俺は、彼女の存在を思い出し確認しようと勢いよく起きようとした。しかし体が動かない。
(えっ?なんで動かないんだ?あれ?)
これが噂に聞く金縛りかと思ったが、とりあえず視線だけでもと周囲を確認しようとしたところで違和感に気付いた。
(そういえばさっきからなんか温かくていい香りが……っ!?)
顔の位置には女子生徒の胸と思われる大きな膨らみがあり、少し視線を上げると生徒会長である彼女が俺を優しく抱きしめた状態で眠りについていた。
(なんで!?どうして!?どういうこと!?)
パニックである。今まで生きて来た中で断トツでパニックである。女性慣れしていない彼にとって、綺麗な女性に目が覚めたら抱きしめられていたらそうなるだろう。逆もしかり。
(えっいや、なんで!?あれっ!?俺は何をした!?)
「……んっ」
彼がパニックになっている間に彼女も心地のいい眠りから目を覚ましたようだった。
薄っすらと目を開けその視線が交わる。少しの間その時間が続くと彼女も完全に覚醒したのか突然彼女は焦った表情で矢継ぎ早に聞いてきた。
「彼方くん!大丈夫!?寒くない?痛い所は?私がわかる!?」
俺の顔を両手で挟み込むようにしてむにむにしたり手をにぎにぎしたりおでこをくっつけてきたり。
あなたのせいで寒いどころか熱くなってやばいですとは言えず、無難に大丈夫ですと答える。
「あの、大丈夫なのでとりあえず一旦離れ―――わぷっ」
俺の顔が彼女の胸に埋まる。どうやら頭を思いっきり胸にぎゅっとされているらしい。焦りと驚きと心地よさがごちゃ混ぜになって俺を襲ってくる。
そんな状態でなので俺は苦しくないように、あくまで呼吸をするためであって匂いを嗅ぎたいわけじゃないんですよと、心で言い訳ををする。
彼女の近くで薄っすらと香っていた匂いは、胸に抱きしめられていることでより強くなっているはずなのに、なぜか安心するとてもいい匂いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます