光の純度

@himagari

第1話


 空から舞い降りる月光の柱。


 雲の隙間をすり抜けて、たった一人の少女を照らす夜空からのスポットライト。


 それはほんの一瞬の偶然で、君がその場にいたことも全く運命なんかじゃない。


 君は世界の主人公じゃないし、きっとヒロインでもないだろう。


 それでも、光が差したほんの一瞬、僕の足音で振り返った君はまるで月夜の天使のようだった。




 高校生活も二年の春が終わり夏の初めに差し掛かった頃、真夏暑さを先取りしたような猛暑日だった。


 朝礼も始まらないうちから登って燦々と、爛々と輝く太陽の熱に室内ですら汗ばむ。


 気温だけなら昨日も同じようなものだったが、今日の熱気の原因はどうやら気温だけではないらしい。


 時間が進むごとに人も増え、さらに増した熱気の中、鳴り響いたチャイムの音と共に教室の扉が開く。


 ざわついていた教室が一瞬で静まり、教室に扉を開けた本人である担任の宮野先生が入ってきた。


 宮野先生は教卓の前まで歩き、手に持っていた出席簿を教卓に置いて生徒全員の顔を見渡した。


「はい、全員出席していますね。皆さんおはようございます」


 いつも通りの挨拶に生徒も挨拶を返す。


「それでは体調が悪い人はいますか?」


 今度の言葉には誰一人反応する事なく数秒ほど沈黙の時間が流れる。


 それが全員が健康である証であり、それを確認した先生は出席簿に何かを書き込んでパタンと閉じた。


「さて、皆さん随分とそわそわしていますね」


 出席簿を閉じた先生が少し口角を上げて全員にそう言う。

 確かに今日は誰から見てもみんながそわそわと落ち着かないように見えるだろう。


「気持ちはわかりますよ。随分と噂が回っているようなので早めに紹介に入りましょうか。灯さん、入ってください」

 

 宮野先生がそう言うと先程閉じた扉がもう一度開き、全員の視線がその扉へと向かった。


 全員の視線の先に、この場の主人公である一人の女子生徒の姿があった。

 

 堂々とした態度のその子は自分を見つめる生徒達の顔を確認しながら先生の隣に立つ。


「皆さん、こちら転校生の三雲 灯さんです。灯さん、自己紹介をお願いします」


「はい、わかりました」


 先生の声に堂々とした態度の灯さんはチョークを一本手に取り、黒板にさらさらと名前を書いた。


「皆さん初めまして、私は三雲 灯です。父の転勤でこの町に引っ越して来ました。よろしくお願いします」


 随分と慣れた様子の自己紹介を聞いて僕はどうしようもなく灯さんに目が釘付けになった。

 

 それはきっと、物語では随分と使い古されたベタな展開で、フィクションにありがちな出会いで、漫画のような反応だった。


 そんな僕にどうやら彼女も気がついたらしい。


「あっ、すごい偶然。光哉さんは昨日ぶりですね」


 転校生に一足先に出会ってほんの少し特別な出会い。

 運命のような偶然で始まる。

 必然なんて言うほど劇的じゃない。

 普通じゃ無いのに普通な出会いで、僕と三雲灯の関係が始まった。


 

 







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