第22話
A班の生徒たちは耳を疑った。
『カン・ジェヒョク?ヤチャの息子?』
B班の生徒ごときが戦闘で役に立っただと?
笑わせるような戯言だった。
『カン・ジェヒョクの評判を上げるために無理を通そうとするなんて、キム・ジンミョンもヤチャ崇拝者だったのか?』
年配者たちの中には、かつてのヤチャが成し遂げた功績を持ち上げる者も少なくなかった。
ヤチャの息子に好意的な教師がいても不思議ではなかった。
『ヤチャなんて何だって言うんだ。どうせテロリストの親玉に過ぎないというのに。』
過去の残像に執着するジンミョンを内心嘲笑しながら、A班の生徒たちは説明を始めた。
「訓練中に誰かがヒルの王を目覚めさせたんです。それで先生が学生たちを統率してレイドに向かったんです。」
「ヒルの王だと!」
周囲がざわめいた。
C級ボスモンスター。
新入生が対処できる存在ではなかった。
「支援を待たずに自分たちでレイドに向かったって?」
「ボスモンスターといっても所詮C級です。支援が必要だなんて思いません。A班の平均レベルは20を超えていますし、国宝候補も2人いますから。」
伝統的にA班の誇りは天を突き抜けるほどだった。
1年生の担任教師を軽視するほどの勢いだった。
A班の生徒が2年に進級する頃には、担任教師の実力を追い越すことが常だったからだ。
高度な教育を担当する教授たちはA級プレイヤーであるのに対し、担任教師はB級プレイヤーに過ぎないことがその要因だった。
さらに、今年の1年生A班には国宝候補が2人も所属していた。
A班の生徒たちは、自分たちをほぼ現役プレイヤーの集団と見なしていた。
黙って状況を見守っていたカン・ジェヒョクが鼻で笑った。
「お前らが国宝候補だって聞こえそうだな?」
「...その態度を見るに、お前がカン・ジェヒョクか。」
「ああ。お前らの顔は腐ってるな。腐ったのを隠すために鉄板でも張ったか?」
「?」
「まず謝罪しろよ。大騒ぎを起こしたくせに、どこでそんなに偉そうに頭を上げてるんだ?」
ジェヒョクは目線でB班とC班の生徒たちを指し示した。
「お前らのせいであいつらがこんな悲惨な目にあったのが見えないのか?」
生徒たちが悲惨な姿をしている理由は湿地で転げ回ったからだが、いずれにせよ…
疲弊した状態で数十匹のヒルに襲われたのは、笑い飛ばせるような話ではなかった。
大惨事になってもおかしくなかった。
しかし、A班の生徒たちは状況の深刻さを理解していなかった。
「噂以上に口の悪いやつだな。無理を言うな。」
「誰が聞いても高名な公爵家のご子息とでも言いそうだ。教師を信じて調子に乗っているのか?教師が24時間お前のそばについているわけでもあるまいに。」
彼らはジェヒョクの非難を理解しなかった。
教師が二人もいる状況。
E級モンスターごときが何匹か集まったとしても、教師たちがきっちり処理してくれるはずで、生徒たちは安全だっただろう。
にもかかわらず、揚げ足を取ろうとするかのように騒ぐカン・ジェヒョクが気に入らなかった。
雰囲気が険悪になりかけたその瞬間だった。
「お前たちに罰点10点を与える。」
突然、キム・ジンミョンが口を挟んだ。
「…え?僕たちが何を間違えたって言うんですか?」
「生徒を脅しただろう?それも教師たちが見ている前でだ。それは校則と教師への尊敬を欠いた態度であり、罰点を与える十分な理由だ。ク先生、そうではありませんか?」
「あ…そ、そうですね。」
いろいろと後ろめたい部分があったC班担任が仕方なく賛同した。
ギリッ!
いきなり罰点を食らったA班の生徒たちは歯ぎしりした。
彼らは知らなかった。
キム・ジンミョンが彼らの頭を守ってくれたことを。
その時だった。
ドカァァァァン!!
森の奥深くで大爆発が起こった。
ヒルの王の攻略に支障が生じたことを意味していた。
「なんてことだ…!お前たちはすぐに本館に戻って支援を要請しろ!ク先生、行きましょう!」
どれだけ国宝候補であろうと、スタートはレベル1からだ。
彼らにも初心者時代があり、新入生時代がまさにそれだった。
キム・ジンミョンとC班担任は急いで森へと駆け出していった。
ジェヒョクとA班の生徒たちもその後を追った。
「え…?あいつ、なんであっちについていくんだ?」
「おい!カン・ジェヒョク!くっそ、あのイカれたやつ!」
C班と一緒に現場を離れようとしていたB班の生徒たちは、ジェヒョクを見て足を止めた。
日々の厳しい訓練を通じて芽生えた戦友意識は、彼らが思っていた以上に深かった。
B班全員がカン・ジェヒョクを連れ戻すため、森へと飛び込んだのだった。
* * *
『爆発した!』
ヒルの王の攻略法は単純だ。
爆発のタイミングごとに一定量以上のダメージを与えて爆発を阻止すること。
全長10メートルに達する巨大なモンスターは、戦闘に突入すると同時に体内に毒を蓄積し始める。
そして、徐々に体を膨らませ、限界に達するとバンッと爆発して、自身の肉片と酸性液を撒き散らすのだ。
今のように。
「うわあああああ!!」
A班担任が凄まじい悲鳴を上げた。
ヒルの王の爆発範囲から逃げ遅れた生徒たちを守ろうとし、自分が酸性液を浴びたのだ。
急速に溶けていく肌。
その惨状に、生徒たちの顔が真っ青になった。
担任のおかげで命拾いした生徒たちでさえ、彼を支えることができず、吐き気を催していた。
「先生!!」
混乱する状況の中、唯一チェ・ダヒだけが素早く行動した。
レイピアを突き刺してヒルの王を追い払い、担任を救出した。
しかし、ヒルの王は執念深いモンスターだ。獲物を簡単に逃がしはしなかった。
システムメッセージ:
「<ヒルの王>の肉片が<毒に満ちた沼地>を生成します。」
「<ヒルの王>が‘獲物’に付着した酸性液を伝染させます。」
「<ヒルの王>が二度目の爆発を準備中です!」
ズボッ!
ダヒが踏みしめた地面が瞬時に沼地へと変わった。
通常の沼とは異なり、中毒状態を引き起こす特別な沼だった。
さらに、担任が浴びた酸性液が生き物のように動き、ダヒの肌に移りついた。
ジュウゥゥ!
ダヒの手首が溶け始め、不快な臭いと煙が立ち上がった。
しかし、彼女は一切の呻き声を漏らさず、酸性液が付着した部分の肉を丸ごと切り落とした。
普段の性格からは想像もつかないほどの決断力だった。
「ポーションを!先生に!」
青ざめる生徒たちに担任を投げ渡したダヒは、沼地を蹴り飛んで跳躍した。
一度目の爆発を起こした代償で目に見えて小さくなったヒルの王。
奴はその場の人間たちを取るに足らない獲物と見なしていた。
ぬかるむ地面のせいで高く跳べなかったダヒにわざわざ頭を突き出し、距離を与えるような動きを見せた。
ズブッ!
宙を舞いながら身をひねり、ヒルの王の突進をいなしたダヒが、奴の鼻先をレイピアで連続して突いた。
寸分の狂いもなく同じ箇所を重ねて攻撃し、[弱点露出]状態を誘発した。
「キャアアアアア!!」
ヒルの王が初めて苦しげな声を上げた。
[同じ部位を5回以上攻撃しました。]
[<ヒルの王>の弱点が露出されます。弱点を攻撃するたびに必ずクリティカルが発生します。]
レイピアは精密さに重点を置いた武器。
鎧の隙間を狙うために進化した剣だった。
さらに軽く、素早い突きが可能な形状であるため、使い手の熟練度次第で弱点の露出を誘導しやすかった。
「何してるの?早くダヒを援護して!」
首席の剣技に感嘆する生徒たちの中からユジンが飛び出した。
放置すれば急速に増殖するヒルたちを処理して現場に遅れて到着した彼女は、状況の深刻さを一目で理解した。
シン・ラギョンとロレン。
本来なら最前線でヒルの王に立ち向かっているはずの二人が見当たらない。
『担任は彼らを信じてレイドを強行したに違いないのに…』
なぜ姿がないのか?
『まさか…。』
ユジンはシン・ラギョンとロレンの普段の態度を思い返した。
授業に全く興味を示さなかった二人。
まさか、この緊急事態すら彼らにはただの授業の一環にしか映らなかったのだろうか?
わざわざ気にかける価値のないものとして?
その時、ある程度回復した担任が辛うじて口を開いた。
「ラギョンとロレンは…まだか…?」
「探しに行った子たちが戻ってきませんが…」
ある少年が躊躇いながら答えた。
その瞬間、担任と生徒たちはユジンと同じ考えに行き着いた。
「くそっ!」
ユジンはシン・ラギョンとロレンを罵る暇すら惜しむようにハンマーを掴んで投げつけた。
もの凄い力。
ヒルの王がダヒを振り払うために呼び出したヒルの群れが、回転するハンマーに巻き込まれて次々と砕け散った。
他の生徒たちも次々と援護に加わった。
「風の加護!」
「シールド!」
誰かがダヒにバフを与え、誰かがダヒのそばに付き添い防御スキルを展開した。
そのおかげで、ダヒはヒルの王の攻撃をかわし、突進しながら数十回の攻撃を命中させた。
ヒルの王が一瞬ひるむ隙に、ハンマーを回収したユジンや他の生徒たちも攻撃スキルを連発した。
周囲の地形はほとんどが沼地に変わってしまったが、Aクラスの生徒たちは以前の訓練を通じて沼地に適応していた。
ヒルの王の攻撃をかわす程度の敏捷性は発揮できた。
しかし、ヒルの王が生成した沼地には毒性があった。
沼地にいる時間が長くなるほど、生徒たちは中毒状態に陥り弱体化していった。
相手はCランクボスモンスター。
いくらAクラスといえども対応は不可能だ。
レイドを試みた理由は、ただひたすらシン・ラギョンとロレンの力を信じたからだった。
『このままでは負ける…。』
そう直感した生徒たちは次第に絶望し始めた。
集中力が切れてヒルの王の攻撃を受ける生徒が続出した。
「マナ切れの子たちは木でも切ってきて!沼を踏まなくてもいいように足場を作って!いい?」
ヒルの王のヘイトを引き付けるために必死だったダヒを代わりに、生徒たちを統率していたユジンが驚いた。
「うちのダヒ、なんでポーション使わないの?」
ダヒの手首の状態は悲惨だった。
一見すると骨が露出するほど肉が削ぎ落とされていた。
肌に付着した酸性液を取り除こうとして、自ら作り出した傷だった。
「ジェヒョク...いや、ドジン先輩に貸したんです。」
「それが話になるか?どうするつもりで唯一の補給品を他人に貸したんだ?」
ため息が出るばかりだ。
カン・ジェヒョク。
短い付き合いではあったが、あいつの性格は大体掴んでいた。
言葉で人を揺さぶるタイプ。
覚醒していないだのと、明らかな嘘を平気でつくやつ。
純粋なダヒを騙して、肝臓も胆嚢も根こそぎ奪おうとするやつだ。
「これでも使って。」
ユジンが自分のポーションをダヒに投げ渡した。
この危機を乗り越えるには、ダヒの役割が重要だった。
あれだけの痛みに耐えながら連続攻撃と弱点攻撃を成功させた子ではないか。
国宝候補たちがいないこの状況で頼れるのは、彼女と担任だけだった。
「全員、沼地から後退しろ!ダヒを中心に連携して退路を開け!」
担任の決断は速かった。
シン・ラギョンとロレンの協力が得られないと判断したのだ。
「俺がヒルの王の目を引く。」
覚悟の上だった。
教師が生徒を守るのは当然の義務。
それにこの状況は、彼の判断ミスで起きたもの。
当然、責任を取るべきだった。
だが、チェ・ダヒは変数だった。
「私は最後まで一緒に戦います!」
あの有名なパジュ・ゲートブレイク事件の時、ダヒはカン・ジェヒョク公爵のおかげで生き延びた。
たった一人の偉大なプレイヤーが都市全体を救う光景を間近で目撃したのだ。
泣き叫んでいた市民が家族や友人と再会し、喜び合う姿が今も鮮明に思い出される。
私もあのようになるんだ、と。
チェ・ダヒはその一念だけでプレイヤーになった。
だが危機に陥った人を見捨てる?
それは彼女が目指すプレイヤーではなかった。
誰かを救うために誰かを犠牲にしなければならない?
それならいっそ、自分が犠牲になればいい。
正義感で固められた少女。
チェ・ダヒは窮屈なほど頑固な性格であり、
「だからこそ、私は君が好きだ。」
だからこそ、周囲を巻き込んだ。
ユジンをはじめ、普段からダヒと親しくしていた生徒たちがヒルの王に猛攻を仕掛けた。
もちろん、すべての生徒がそうではなかった。
半数以上の生徒は振り返りもせずに撤退を開始した。
時間を稼ぐ人が増えたおかげで逃げるのは容易だった。
担任にとっては最悪の展開だった。
自分一人を犠牲にして全員の命を救おうとしたのに、10人近くの生徒が生き延びる機会を永遠に失うことになったのだから。
「申し訳ない...」
いっそ、支援が到着するまで全員で協力して耐えようと提案すべきだった。
だが後悔しても遅い状況。
担任と残った生徒たちが戦闘に集中したが...
『これは無理だ。』
『勝算がない。』
勇気だけで危機を乗り越えることは不可能だった。
残った生徒たちはすぐに顔を曇らせた。
ヒルの王はボスモンスターらしく、容易には倒れず、自分たちの傷だけが増えていく。
ポーションはすでに底をついていた。
最も深刻な問題はマナが枯渇してしまったことだ。スキルを使うことができなかった。
しかも、
「あ。」
ヒルの王の体が再び膨れ上がり始めていた。
2回目の爆発の予兆だった。
また酸性液が降り注ぐだろう。
終わった。
死を覚悟した生徒たちの頭が真っ白になった瞬間だった。
「覚醒すべきか。」
見知らぬ少年が目の前に現れた。
聞き慣れない言葉を呟きながら、上体をぐっと前に傾けた彼が、
スパアン-!
刀を抜く光景は、美しいほど鮮やかで、驚くほど速かった。
チャプッ!
少年の体からぽろぽろと落ちた数十個の鉛のようなものが沼に沈む様子は、誰も気づかなかった。
ダヒが作った小さな弱点を正確に突き、切り裂いた黒色の剣光に心を奪われていたからだ。
「無双の貴公子」(むそうのきこうし) MAYA&MARU @mayamarujp
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