遠き鯨の国

短いなかに、深く重く普遍的なテーマと、人間の愚かさや醜さが詰まっています。展開や構成も、考え抜かれていることがよくわかるものです。
また、ファンタスティックな世界観、幻の海の美しい描写、一縷の希望の見えるラストなどのおかげで、ただ重いだけの物語とはなっていません。
これから、二つの国にはどんな未来が待っているのだろう。そして、現実世界の私たちは争いをやめられるのだろうか。
余韻に浸りつつ考えずにはいられません。

小競り合いを続ける隣り合った二国。
ようやく休戦に至った二国のうち片方の国で、今まさに国王が崩御しようとしていた。
彼は隣国の民の命を多く奪ったことに罪の意識を感じている。
それではなぜ戦を始めたのかと問う者に、王は答える。
隣国の者に妻子を殺されたからだと。

大切な家族を奪われたら復讐をするのは人間のごく自然な感情だと思います。
でも現実の世界を見ても、戦争が無くならないのは報復に次ぐ報復を繰り返しているから。
復讐の連鎖はどこかで終わらせなければならない。

でも、復讐心の根底にあるのが、家族や近しい人への愛である以上、人間は戦を続ける生き物なのだろうと思わずにはいられません。

ファ…続きを読む

二つの国が対立し、戦となり、休戦に至る。そこから始まる物語は、壮大で重厚です。
どちらの国が善で悪か、という簡単なことではなく、それぞれの立場や考えがあります。

傷つけあい、大切な人の命が奪われる。
「苦知らずの世」が存在することが救いでしょうか。

対立の後、どんな選択ができるのか。皆が幸せになる、争いの無い世界はないのでしょうか。

是非、多くの方に読んで頂きたい作品です。
強くおススメします！

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（97文字）