幸福と不幸の関連なき連鎖が即ち人生の全てである

 さあ親愛なる吾が読者よ。ひとまず活字から離れ現在の空を見上げ天候に左右されぬ雲より高き五千メートル上空を漂う蜘蛛の生態に瞠目せよ。彼らはそこに住んでいるのではなく上昇気流に巻き込まれた憐れな被害者であるという説が浮上しているらしいがこの際それはどうでもいいことだ。我々を形成する創生プログラムに例外なく脈々と受け継がれてきた太古の野性的感覚を呼び覚まし今ここで起きているリアルタイムの出来事のみを丸ごと享受せよ。いつもに増して足が長いそれはきっと窒息寸前の密室世界の終末を告げるべき予兆であろう。秋晴れの黄昏に開け放たれた窓辺より吹き抜ける微風のせせらぎにも似た感触に耳をすませば。その僅かな繋がりによってのみ不確かな私の一生がカタチを整える。耳を塞ぐ。途端に闇が押し寄せる。飲み込まれまいと必死に抗う術もなく朝になっている。幸福と不幸の関連なき連鎖が即ち人生の全てである。私が鏡を見れば世界は創り物のようではないか。(以下消失)

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