毒に抗って九回巻き戻った令嬢は、十回目こそ幸せになりたい。

にのまえ

プロローグ ???

 大雨の中、男は傘も差さず、ひとつの墓の前に立ち尽くしていた。

 その手には、水色に淡く脈打つ光を宿した球体が握られている。


「……うっ、……どうして……」


 つまらせた嗚咽は、激しい雨音にかき消されていく。


「ほんの少しでも、僕に勇気があれば……」


 男は首を振り、言葉を否定するように続けた。


「いや、違う。たとえ君が俺を想っていなくても、たとえ誰かのものだったとしても……君さえ、生きていてくれたなら。それで、よかったんだ」


 独り言のような呟きとともに、男はゆっくりと顔を上げる。

 雨に滲む灰色の空は、何ひとつとして答えを返さない。


「……あぁ。君のいない世界なんて、絶望しかない」


 視線を落とし、男は足元の小さな墓石を見つめた。


「君を殺した奴らは、僕がこの手で消した。でも……君は帰ってこない」


 震える指先に呼応するように、掌の中の球体が淡く光を強める。


「だからね……もう一度、始めることにしたんだ」


 男は球体を見つめ、囁く。


「――会いたい」

 

 男の願いは、ただそれだけだった。

 あの日と同じ、笑顔の君に会いたい。


「愛している。狂おしいほどに君だけを愛している。他のものなんて、いらない……君がいれば、それでいい」


 その想いを噛みしめるように、男は球体を強く握りしめた。


 次の瞬間、光は砕け散り、水色の破片が雨に混じって足元へと落ちる。同時に地面に時計の文字盤のような、魔法陣が浮かび上がった。


 その魔法陣は静かに、しかし確実に広がり、雨も、大地も、墓石さえも無へと還していく。


「戻ってきてくれ……この世界に、僕がいるここに」


 祈るように呟いたその声も、光に飲み込まれていく。


 すべてを消し去る眩い輝きの中、男は最後に大粒の涙を流し――


「君だけを、愛している」


 そう呟き、完全に姿を消した。

 

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