第34話 心


 昨日あんなことがあったから早く起きてしまった。

今この部屋にいるサミエラも、ジョセーヌもしっかり寝ている。

少なくとも私にはそう見える。

 だが今ジョセーヌに攻撃を仕掛ける勇気はない。


 宿の外を出た。

戒厳中だったが昨日のことで森の消火やツインコーンの後始末で、帝国兵は出払っている。

 外には任務を共にしたバンがいた。


「シャミ―ニア、昨日はすまなかった」

「何回謝るの。こう何度もされるのはくどいし、鬱陶しい。

男ならもっと堂々としていたら」


「そうだな。俺はいつだって後悔しっぱなしだ」

「そういえばバンはここの近くにの出身だったよね。

でも狼男なんていないよ。

しいて言うなら獣人が近いかもしれないけど」


「俺は元々人間だったんだ。

不運の事故で相棒の狼と一緒に瀕死になってね。

信じられないかもしれないがそこで女神さんが現れて俺たちを一つの魂にして生き返らせてくれたんだ」

「へえ、そうだったんだ」


「まあ、あの死は私の好奇心によって導かれた結果のようなものだ。

自業自得だったが、その後で両親に会った際に化け物と言われてね。

結局みんな姿を見て判断しているんだ。

その人自身の内面を見ていないだよ」


「でもちょっと分かる気がする。

私も小さいころ、大きい女の半人半魔族が自分のことを育ててくれた理由が分からなかった。

いつ自分がおいてかれるかとか妄想して不安だったんだ。

でも、ほかの魔族に母親と似ているねと言われたんだ。

そっか『似ているから私を育てているんだって』全然頭では理解はできなかったけど、気持ちで納得できたんだ」


 バンがこちらを見て先を促している。

「何が言いたいかというとね。

みんな自分に似ている人たちだったら安心して、少しだけ違うかったら怖いっていう感情が体に染みついていると思うんだ。

でも君みたいに心は人間なのに化け物扱いされるなんてひどいよ。

そういう生まれたてから備わっている感情じゃなくて、

同じ痛みを、怒りや悲しみを心が持っているんだって他者と共感する心をどこかで学ばなければならないんだと思うんだ」


「君は俺なんかよりよっぽどできた人間だよ。

少なくとも今君と話せて俺は楽になった」

「そう?でもそういった他者との共感や愛情って、エルフの集落にあった学校だったり、ギルドの依頼でみんなとチームワークを合わせたり、

ジョセーヌとランみたいに家族と過ごす時間ではぐくまれていくと思うの。

私は母親からお勉強や食事を共にしたことがあるが、他は何もない。

何も知らないの」


「…なあ、もしかして君だけでなく魔族も人間と一緒なんじゃないか」

「どういうこと?」

「魔族は個体数は少ないが、大量の自分の種族に属している魔物を操ることができる。そのため魔族同士が集まって協力して戦ったり物事に取り組む機会が非常に少ないんだ。とは言っても私たちは半端ものだから例外ではあるが」


「でも、私は二年間ぐらいリザードマンのリュグと一緒にいたけど彼の子供たちに対する反応はとても冷たいというか、私のお母さんみたいに義務的に魔族としての戦い方とか魔物の操り方を教えてただけの印象だったよ。

あんなジョセーヌやランみたいな間柄じゃなっかように見えるけど」


「それは魔族の個体数が少なくて人手不足だったからだよ。

短い時間で自分の子供たちを一人前にしなければならなかった。

だから家族との団らんというか、愛情をはぐくむ時間的余裕がなくて仕方がなかったんじゃないか。

本当は魔族にも人間ぐらい豊かな心があって、それを魔族の生態系や社会制度、文化的な違いによって感情が押し殺されてしまっているんだとしたら…」


「シャミ―ニアにバン、こんなところで何しているの?」

 そこにいたのはサミエラだった。


「いえ、少し風にあたっていただけです。

すぐに戻ります」


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