蛇足話② バジリスクと魔石

太古の巣窟:最下層


 俺はデーモン。悪魔として魔族に貢献していた。

第4次人魔戦争にて俺は南方の魔の森から人族に侵攻していた。

進行を妨害したエルフも人も俺を殺すことはできない。

頭や胴体が吹っ飛んでも元通りになる驚異的な再生能力と複数の個体に分裂することができほぼ不死に近い存在であった。


 あたりを火の海にしながら前進していた。

ファイア・ウルフやその他にもあらゆる魔物を引き連れていた。

悪魔はあらゆる魔物の血が混じっていると聞いている。

だからこそ切り込みの急先鋒として私が任せられたのだ。

特にファイア・ウルフみたいな燃えながら生きている魔物を管理できるのは私くらいなものだ。

「魔王様が言っております。この地に人類への進行のかなめとなる要塞を作れとおっしゃっています。

完成したのちに、援軍をよこすとのことです」

 

 私は忠実にその命令を守り洞窟に要塞を作っていたが、他の魔族はエルフがいるため魔の森を通過するのに苦労しているだの、帝国軍の援軍の規模が予想以上に大きかっただの言ってとうとう魔族の援軍は来なかった。


 とはいえ自分のことをだれも殺すことはできないと高をくくっていたが、勇者たちが到着し何回も攻撃をされた。

極めつけは龍使いの引き連れたバジリスクという見ただけで石化する龍だ。


 いくら複数体用意しても一体だけ残して石化されてしまった。

「悪魔とはいえそろそろ魔力が消えてきたんじゃないか。

少し俺たちの話を聞いてくれないか。お前と取引がしたい」

「人類から英雄だと言われている勇者様が悪魔と取引?笑わせるな」


たちどころに再び攻撃を食らう。

個体数も増やすこともできずいたずらにダメージを食らうだけ。

全ての個体を石化することで完全に俺を殺すことができるだろうに。

「このままじゃお前を殺すしかなくなる。お前は見捨てられたんだ。

魔王にも魔族たちにも、そんなやつらに忠誠を誓って何になるんだ」


「うるさい。おまえらに協力するつもりはない。人を殺すことが存在意義であり、人類にこき使われるくらいなら…」

「別にある程度はこの要塞内で人を殺しても構わない。条件付きではあるが」

「お前は何を言っている?」


「その代わり要塞内での魔物の管理をしてほしい。魔物を全滅させず生息させるんだ。

特にファイア・ウルフだ」

「なぜだ。そんなことをして何になる」

「石化してばらばらにするんだ。ファイア・ウルフの魔力はほぼ炎でできているから、微小の火属性の魔力に共鳴して石化が解かれる。

その瞬間ファイア・ウルフ特有のデスファイアが起こり炎を起こせるんだよ。

ようするに微小な火属性の魔力で任意の時に炎を楽に引き起こせる火の魔石ができるんだよ」


「お前たちのためにそんなことするわけが…」

「魔物を使って要塞に入る者たちを殺しても構わない。

そうすれば多くの人たちが魔物たちと戦闘経験を積める訓練場としても機能する。

最近は戦線が動かずほとんど停滞しているからね。貴重な体験を引き起こすことができる」


「お前は人類に希望をもたらす勇者じゃないのか?」

「大局を見るんだよ。長い目で見ればこちらが得する。

お前も人をたくさん殺すことができるだろう」


「…ふん。いいだろう。これはお前たちのためでも、俺を捨てた魔族軍のためでもない。

俺の欲求を満たすための取引だ」

「取引成立だな。お前は比較的強い魔族だから自分の魔力を使って複数体を生成する。

それを石化することで定期的に魔力を消費させて弱体化させる。

そうしないといくら何でも君を信用することはできないからね。

石化した物は弱い人を奥へ進ませないような防衛装置として働いてもらうさ」


「徹底的に俺をこき使うつもりか」

「利用できるものはとことん利用しないと」


 あれからずっといまは太古の巣窟と呼ばれている元要塞の最下層で鎮座している。

「なぜあんな表層に近い階層まで出てきたんだ」

 俺は隣にいるバジリスクに聞く。


「気になる客人がいたからだ」

「大魔導士のエルフ族のジョセーヌか?それとも剣士のランドールか?」

「いや、そいつらではない。

話をすればあちらからお出ましだぞ」

私が座っていた玉座に向かってゆっくりと歩いてくる女性の姿が見える。

ぱっと見は人間だが…


「はじめまして、デーモン。私は吸血鬼のサミエラだ。よろしく」

 笑顔で二つの大きな八重歯を見せながらそういった。

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