第23話 回復魔法

 ロルグと共に太古の巣窟まで歩いていた時にランが話しかけてきた。

「ソラ、どうしてあんなに人の心を傷つけるような言い方をしたの?」

「別にただ私たちの、彼の時間が無駄に過ぎていくのが良くないから

手っ取り早く思ったことを言っただけ」


「もう少し相手の気持ちを考えていった方がいいよ」

「それで何かが変わるの?君もグルグを助けたいんでしょ?」

「…ソラちゃんちょっと冷たいよ」

 そう言ってランは少し私から離れていった。


「ソラちゃん。どう考えてあんな話し方をしたの」

 今度はサミエラが私を真正面から見て小声で聞いてきた。

「どう考えたっていうか、グルグを助けてもらうため率直に思ったことを口にしただけだよ」

「ソラちゃんってもしかして天然なところあるのかな。

妙に人間っぽい時と全然そうじゃないときが激しいんだよね。

まあ今回に限ってはうまくいったし。

結果オーライか」



 ロルグのギルド証の登録をすまし、全員で入り口に入っていった。

まだ一階層だからか弱いスライムかスケルトンぐらいしかいない。

私たちが攻撃する前にロルグが前に出て剣を振るい倒している。


「すごいですね。ロルグさん。あっという間にすべての敵を倒している」

「いつも武器を作っていますからね。どういう風に使うべきかは心得ています。

もっともあなたのような大魔法使いとは違い一切魔法は使えないですが」

 あっという間に三階層のガーゴイルたちが並んだ道まで来ていた。


 石像が動く?今にして思えば少し違和感を感じる。

こいつらもまるで石化されたグルグみたいに感じるというか。だとしたら…

「全員戦闘準備!」


 ガーゴイルは数が多く侵入者に関しては激しく攻撃を仕掛けてくるから、このダンジョンの最初の難関として立ち塞がっている。ここから急激に負傷者が多くなる。

ギルドからダンジョンの構造を変えうる行為はあまり推奨されないから前回と違い今回は正面突破だ。


 とはいえ連携は完璧だ。

前衛でロルグやバン、サミエラが攻撃を防ぎ魔法を使う私、ジョセーヌ、ランが遠距離で補助的に攻撃、負傷者はシズクが治療する。

 ロルグはガタイがよく、かなり大きく太い剣で構えてくれるおかげで数が多くても容易に私たちを襲うことはできていない。

とても安定感があるパーティだった。


 その後の4階層のマグマだらけの場所もかなり熱く体力は消耗したが、数回ファイア・ウルフと鉢合わせただけで難なく突破した。

前回来た時とは違い拍子抜けだった。

 

 5階層の最初の付近まで来た。今回は数十人の人たちが休憩していた。

ここは休憩場所として最適だから当然のことだが、それにしては数が多い。

「こんなに大人数でどうしたの」

「ああ、ジョセーヌさん。増えすぎたファイア・ウルフを討伐しててね。

ある程度倒したから休憩後に帰るとこだよ」


「意識のない人たちもたくさんいますね。私も治療してきます」

「シズクちゃんほどじゃないけど私もある程度治療できるから、いってくるよ

ソラちゃんとランちゃんもやってみない?」

 そう言って私たちは治療しに行った。


 私の目の前には軽い擦り傷を負った人がいた。

あいにく魔法って破壊的で相手を攻撃、妨害する時でしか使ったことないから、回復魔法のイメージは全くない。


「回復する魔法は水魔法が得な人が多い。

水は人の体で多くの割合を占めていて、生物の生まれた源でもある。

形が移り変わり、癒しのもとでもある水は他の魔法に比べて攻撃的なイメージはないかもしれないけど、一番再生するイメージに近い物なんだ」


 ジョセーヌに言われたことを想像したが全くできなかった。

あれだけ魔物だけでなく魔族を殺してきた人からこんなセリフが出てくるものなのか。

「魔力自体を出せているけど、ちゃんと相手のけがを直す現象へ変換できていない。

相手の傷の痛みを理解できるほど共感し、治してあげたいと思う気持ちが強いほど発揮すると思うよ。

親しい人がけがをしている時を想像してごらん」


 見ず知らずの相手にそこまでの感情を抱くことができるのだろうか?

私にとって大切な人はあんたらに殺された。生き返るイメージも全くない。

私にとってそれは起きてしまった悲劇で変えようのない事実でしかない。

だが確かに戦闘して腕や足が使い物にならなくなると困る。

「ああ!」


 負傷者が悲鳴を上げた。その傷が見る見るうちに塞がっていく。

ただそれはやけどで塞がったような跡だった。

「…ロルグの鍛冶屋で金属を火で溶接してたところを見たからかしら?

確かに傷は塞がったけれど、痛みを伴うわ」


「機能としては問題ないんじゃない?

現にほかの回復魔法より早く完了できてる」

「それは壊れるイメージは一瞬かもしれないけど再生していくイメージは時間をかけているような感じがするでしょう。

それを強引に直そうとすると完全に元通りにはならないわ」


「すみません、ジョセーヌさん。この子に対してはさみしい思いをさせたのが大半だからこんな少し抜けている所というか、かけている所があるから少しずつ教えてあげてくれないかな」

「そうだったんですね、ハンヌさん。

大丈夫ですよ。ソラさんにはたくさんのことをこれから学んでもらいますから」

 サミエラのかばい方も腹立つが、ジョセーヌが偉そうに聖職者のような笑みをしているのが気に食わない。


 「他のみんなはどう?」

「シズクとハンヌさんが大方の人に回復魔法を使ってくれたわ、ハンヌさん回復魔法はとてもうまくできてたわ。

私も軽症の人なら回復させることができたけど、残念ながら一人治療できなかった人がいたわ」


 ランの声は最初は威勢が良かったが途中から元気がなかった。

そこには顔の右半分と体中を包帯で巻いているくらいの寝たきりの人がいたが、やむを得なかった。

「残念だが仕方ない。そろそろ私たちもグルグのところに行くぞ」

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