第22話 少年の思い出
俺は足を怪我してから、ずっと鍛冶屋で働いている。
当時は自分も弟のグルグもよく鉱山で珍しい鉱石を見つけたり、川で砂金などを集めていた。
俺たちドワーフは手先が器用で土を手にする感触である程度物質が何なのかわかったり、武器や道具を火を用いて作る際とても精密に出来ると言われる。
ずっと物心つく頃から、全く同じ場所で同じ作業をしてきた。
自分が何のために生まれたのかよく考えされた。
そんな時、鉱石を取りに来る商人から話を聞いた。
この世界にはたくさんの大きな国があり、このドワーフ鉱山に一番近く大きな国としてギルド連合王国の話をしていた。
何でもそれぞれの能力を用いて多くの依頼をこなす冒険者になることで人々に認められ、多くの人に頼られる存在となり中には伝説にすらなった人もいるという。
俺は自分のしたいことを見つけ最大限実力を見せたかった。
そんな思ったことを父に話しても
「少ししたら、武器の作り方を教える。お前はそんな危ないことをする必要はない」
不純な動機なのかもしれない。
だけれどこのままただ何も変わらず、作られたレール上に生きていくんだと思うとたまらなく不自由に感じた。
川で砂金とりを弟としている時だった。
「決めた。武器を自分で作れるようになったら、ギルド連合国に行って冒険者になって伝説になるんだ」
「へえすごいね。兄ちゃんならなれるよ」
川に視線を落としている時、影になっていた。
大きな雲が来ただけだと思った。
だけどその形をよく見ると大きな翼がバタバタ動いているように見えた。
ワイバーンだった。
小さい体だが鋭利で鋭い口が自分の左足を嚙みちぎられてしまった。
痛かった。さっきまで希望に満ち溢れていた心も、何も変わらない日々を過ごすことの恐怖も今、目の前にいる死の恐怖で上書きされていた。
結局その時は騒ぎを聞きつけた父が剣でワイバーンを追い払って事なきを得た。
今は自分で作った義足を付けて動いている。
あの出来事の跡からは急速に世界が怖くなり、父に最初に言われた通りの生活を続けている。
弟はその後冒険者になると言って出ていったが元気にしているだろうか。
そんな時自分の鍛冶屋に多くの客が訪れてきた。
「いらっしゃい。何を作ればいいかな」
「私たちは客としてきたわけじゃないの。
ロルグ、あなたの弟のグルグが石化した。私たちは君に協力を頼みたい。
そうすれば彼を元に戻すことができるかもしれない」
何度も来たことがあるジョセーヌが説明をしてくれた。
そこからはなぜ私が必要か、今からその太古の巣窟の5階層に行き石化を解除しようという話だった。
「弟が石化してしまったのは残念だった。でも私はこの足だ。
とてもじゃないが、5階層までついていくことはできない」
「あんたそれでも兄弟なの?グルグはあなたを誇りに思ってた。
私たちも最大限サポートするから」
「それでも無理なんだ。
少しけがをしただけでパーティの生還率がかなり下がることは分かっているんだ。
俺がいたら明らかに足手まといだ。
自分の足がなくなった瞬間俺の夢をグルグが引き継ぐと言ってくれたんだ。
その結果がこれだったが、覚悟はとっくにしていた。
最期に君たちみたいな仲間思いの人たちと一緒だったのはよかったと思ってる」
「あんたさっきからいい加減に!」
彼女は正義感が強くとても怒りっぽい子供のエルフだった。
「やめなさい、ラン。彼が言っていることも無視することはできないわ。
今回はもうあきらめましょう」
そう言ってずらずらとみんな外へ出ていこうとしていた。
たった一人を除いて。
人間の女の子で長い黒髪が印象的だった。
「なんでそんなに動かない言い訳ばかり探してるの?」
そういった後その少女は短剣を俺の方へさすような動きをした。
ちょうど手入れをしていた大剣でうまく受けた。
動きからおそらく手加減をしているような感じではあったが、何も対処をしていなかったら怪我をしていただろう。
相手の表情はほとんど動いていない。こいつ何考えているんだ。
「ちゃんと両足で踏ん張って剣を受け止めた。
あなたの父親から聞いたわ。
あなたの義足はとても卓越した技量で作られて、実際の足の動きと何ら大差がないくらいだと」
「だからって元通りってわけじゃない。戦闘も俺には無理だ。
若いころにワイバーンに足を食われてから、身体的にも精神的にも俺にはもう冒険者を目指すことができなくなったんだ!
その夢はもう弟に託したんだよ。
あの出来事さえなけりゃ、俺だって名の通るくらいの冒険者になれたんだ」
「結局弟さえ言い訳に利用して、何も変わろうとしていない。
一番自分に自信がある人ってどういう人だと思う?
それは何も行動していない人。
口だけたいそうな奴だよ」
「ふざけるな。さっきから知った口調で!」
「よかったじゃない。あなたの足も含めてグルグの死は長く語られる悲劇の物語になる」
大剣で彼女を吹っ飛ばした。
「行けないんじゃない。行かないだけだよ。君の過去のトラウマで彼は命を落とす」
目の前の少女は人じゃないと思った。こんなにも感情を逆なでするような話し方があるものか。
「一生自分を否定するだけの人生を送りたいならそうすればいい。
でもまだ少しでも、理想の自分でありたいと思うなら、自分自身を変えるしかない。
曖昧な言葉だけ言っていると自分の選択を広げているかもしれないけれど、そのまま何にもなれずに一生を終えるしかない」
少女の言葉を聞いて幼い時と同じ、ただ代わり映えのしない最低限の平和な日々を過ごしていく恐怖を思い出した。
弟を純粋に救いたいという気持ちより、自分がこのまま何も変わらないことへの恐怖やみじめさが突き動かしたのかもしれない。
それは幼いころ思っていた崇高な気持ちとはかけ離れていた。誰かのためでなく、もっと不純で自分自身のこれからを変えたいという思いが言葉を作った。
「…例の場所へ案内してくれ」
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