第15話 炎の狼
「やあ。さっきぶりだね。ジョセーヌ」
「そうだね。そっちは大変だったね」
「そちらの小さなお二方はなんなんだい?」
「ちょうど今、私が指導している子たちだよ。ドワーフのグルグ、人間のシズクだ」
どちらも黙って頭を下げるだけだった。
「それより見てたよ。ソラ(シャミ―ニア)、ランの魔力をうまく調整して魔法の精度を上げたねすごいよ」
「ありがとうございます。さっきやったのも混合魔法の一種なんでしょうか」
「いや少し違う。
混合魔法はグルグが地面の土を柔らかくし、シズクが水をしみこませることでぬかるみを作らせたりすることだよ。
魔力を具現化、現象化した後で違う属性を組み合わせる魔法だよ。
君がさっきやったのは現象化する前に相手の魔力に干渉して魔法の精度を上げたんだよ。
ランが威力を、君は精密性を担当してあのトルネードを引き起こせたんだよ」
「魔法を組み合わせるという点では全く同じじゃないんですか」
「全然違うよ。現象化されている魔法はこの世界で決まった形になっているから組み合わせやすいんだよ。
でも具現化する前の魔力は人それぞれ違う性質が微妙に違う。
それぞれの属性へ変わりやすいかもだいぶ違う。
そんな状態である人の魔力に別の人の魔力を組み合わせるのは非常に難しいんだよ。
普通は魔法が干渉する前に拒絶されてしまう。
だからさっきみたいな干渉魔法は混合魔法より難しい」
「へえ。すごいじゃんソラ。オークたちもあなたのおかげで多く倒せたわ」
「かなりの量でしたね。しかも伝えられた生息地はもう少し奥でした」
「そうですね。
ここに来るほど個体数が多くなったとか。
後はオークは食べる量が多いと聞きます。
なので捕食する魔物が少なくなり、ここまで来たとも考えられます。
もう少し調査する必要が…」
その時、ぬかるみの先のオークたちは私たちに背を向けていた。
撤退しようとするわけではなさそうだ。
洞窟の奥から明るい。
炎が近いている。その形はゆらゆらしているが原型は狼の形をしている。
「ファイア・ウルフだ。全身が炎でおおわれている。獰猛で危険な魔物だ」
オークたちがそちらに対峙している。
だがたちまちファイア・ウルフの放ったブレスで焼け焦げていく。
攻撃してきても俊敏に避けていく。
たちまちさっきまでいたオークが倒されていく。
ファイア・ウルフも5匹に増えていった。
その中の一匹がぬかるんだ地面ではなく、洞窟の側面を走っている。
「来るぞ」
バンは前に出ていった。
接近し襲い掛かってきたファイア・ウルフに体験を振るうが避けられてしまう。
シズクが水魔法を放つが当たらない。
ジョセーヌが起こした広範囲の地面から岩でできた杭を出す魔法で前足に突き刺さった。
さっきよく遅くなったがまだ動いている。
私に襲い掛かろうとしたその時、サミエラが双剣でファイア・ウルフの首を突き刺し、動かなくなった。
「やあ危なかったねソラちゃん」
「ハンヌ(サミエラ)さん結構動けるんですね」
会話のやり取りをしているときにファイア・ウルフの全身にあった炎が一気に大きくなり弾けた。
後には消し炭になったファイア・ウルフの死骸と火傷したサミエラだった。
他のファイア・ウルフは戦力差を悟ったのか洞窟の奥へ逃げ去った。
サミエラは吸血鬼だからすぐ回復できるはずだったが人間は自然回復でそこまでできないから怪しまれないようにそのままの姿をしていた。
「大丈夫ですか。
ファイア・ウルフは死ぬとその瞬間に爆発的に炎を引き起こす通称『デス・ファイア』が発生するですよ」
シズクがそう言い回復魔法のヒールを使っていた。
それでも完全ではなく小さな火傷がまだ残る状態だった。
「ありがとう。後は帰ってから何とかするよ」
「そうだね。とりあえず今は帰還しよう」
私たちはギルド集会所に帰ってきた。
「なぜ依頼に関係のないファイア・ウルフを殺したのですか」
この度の出来事をギルドに報告したらいきなりこう言われた。バンはその言葉に言い返した。
「あちらから襲ってきたので仕方なくやったんでですよ。ギルド嬢」
「それでも我がギルドは魔物の個体数を厳密に管理しています。
やむ負えない場合を除いて対象の魔物以外は倒さないようになっています。
特にファイア・ウルフは現在狩猟禁止期間です。
このようなことがないようにしてください」
「ギルド嬢ちょっといいですか」
サミエラが割って入った。
「ファイア・ウルフは獰猛で危険じゃないですかねー。
洞窟に入った我々冒険者以外にも中にいる魔物を食い殺しています。
オークも現地調査から個体数が多くなったのではなく捕食する魔物がいなくなったから地上に近い場所まで来たと考えられます。
生態系を荒らしているのはファイア・ウルフです。
討伐依頼を出した方がいいと思うんだけどなー」
「・・・検討しときます」
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