わたしが見つけた恋と愛の色。

さんまぐ

出会う前。

第1話 愛を知りたい私の前で愛を安売りする女。

人って、なんで恋だの愛だの言うのだろう?


多分、一度きりなら、ゲームの中にある一個しか手に入らないエリクサーのようなモノなら、きっと目の前の相手にホイホイと使う真似なんてしないだろう。


少子高齢化が進む?

晩婚が悪化する?

草食系男子が困る?


知らんよ。

とりあえず、恋と愛が回数制限で一度しか使えないなら、もう少し世の中は平和だと思う。


恋や愛。

昔どこかで耳にした歌。


愛を見せてよ、愛はどこにあるの?


確かそんな歌詞。

本当にそうだ。

見たい。

見せてくれ。


「翠、ごめんね」


突然、横に座っている、同じ高校から進学してきた黒川二葉くろかわ ふたばが言い出した。

嫌な予感。


まあ大体わかる。


「隣のクラスの三橋くんと昨日別れたんだよね」


大当たり。

何故わかるかで言えば、休み時間に教室を出て廊下に行かないし、今みたいな教室移動の時に、今日から元カレになった三橋のいる方へ、1人で遠回りしなかったから。


これが風邪なら、惚気が入る。


「アッくんが風邪ひいたんだ。なんで一緒にいて私はうつらなかったんだろう?」


バカだからじゃん?

言えたら楽だが、言うことはしない。

トラブルは御免。

穏やかに普通に、学生生活を謳歌する。

その為には、清濁だって併せ呑む。

それが私の生き方、


惚気ではなくても「お見舞いに行くの」とか「看病してあげたい」とうるさいし、休み時間にスマホをいじくりまわして、元カレ三橋を休ませない。寝てても心配したとか言って起こす。


実家暮らしだろ?

寝させてやれよ。


まあその三橋アッくんのアから始まる名前も漢字も知らない。

興味ない。


二葉はさっさとアッくんから三橋くんに呼称を変える。

そんな事より勉強にリソースを割くべきだ。


まあ、長い付き合いになった。もうすぐ丸4年。5年目に突入する。

だから縁を切る気はないけれど、それでもよくやると思う。


黒川二葉は恋多き女。

高校時代も彼氏を作り、列車の時刻表のように、降りては次の列車に乗るように、2ヶ月以内に次の彼氏を作る。

今回の三橋アッくんは4人目のロング彼氏。1週間足らずはもはやノーカン。


恋をした。

恋をされた。

愛を見つけた。

愛している。

愛されている。


何をどれだけ言っても、終わってしまっている。

なんで、この女は懲りずにまた「恋」と「愛」を口にするのだろう。

今回も「アッくんがすごく愛してくれるの!」、「アッくんを愛しているの!」と言っていた。


「武史以上に愛せる人なんていない!」


なんて言われていた武史はさっさと記録を塗り替えられて、圏外に行ってしまった。


まあ同級生だったので、高寺武史たかでら たけしは知っているが、ひと言でいえば「アレを?」だったので、真実や本当、最後の愛じゃなくて良かったねと思った。


高寺武史は何をどう思ったのかよくわからないが、ワガママなお坊ちゃん丸出しで、頭でっかちな男だった。

付き合った二葉を所有物のように扱い、横で見ていて気分を害したし、グループデートでは流石に付き合いきれなくて、6割程度の付き合いしかしなかった。

2人で会えばいいのに、アクセント代わりに私達を呼ぶ高寺武史。

それにホイホイ付き合う二葉に「ねぇ、今日は翠も行こうよ」としつこく誘われて何回か行かされた。


カラオケも遊園地も動物園も付き合った。


その場その場で横柄に振る舞い、格好つける高寺武史にメロメロの二葉。


次第に集まりは悪くなる。


まあ、決定的だったのが、見せびらかすようにイチャイチャして、高寺家でキスやペッティングだけでは済まさずにセックスを始めた時だろう。

八畳間の中で男女5人で映画を見ていた。

梅雨時で蒸し暑くてエアコンを付けていて、寒いくらいのエアコンをつけた高寺武史は「こっち来てろよ」と言って部屋の隅、一番後ろのソファの上で肌掛け布団を使い、二葉と遭難者のように肌を寄せ合って包まりだした。


うわっとなる中、空気を読まない道下の奴が「エアコン止めれば?俺たちも肌寒いし」なんて言ったが、高寺武史の目的はそれじゃない。

周りに見せつけるようにイチャイチャする事だ。


高寺武史は「エアコンの微調整が難しくて、設定温度を上げたら今度は暑くなるだろ?」なんてもっともらしい言い訳を立てて、ソファの上で二葉と肌掛けに包まってイチャイチャし始めた。


ラブシーンに合わせるように、うるさい吐息が後ろから聞こえてくる。

道下と顔を合わせて呆れ顔をして、意地になって映画に集中した。

既にもう一人の小島は眠っている。


ピチャピチャとキスの音が聞こえてきて、布の擦れる音がした後で、ソファが不規則に動く音。


独特の臭いがしてきた時、慌てて振り向こうとした私を止めた道下は、映画が終わって二葉がトイレに行った時に「武史、やるんだったら俺たち帰るよ」と言った。


「帰んなって。俺だって本気でするなんて思わなかったって。二葉が求めてきたから答えただけで、俺はイッテねぇし。満足したのは二葉だけだって」


もう、それから先は高寺武史の家には近寄らないようにした。

ちょうど、受験シーズンに入ってくれた事もあってなんとかなっていた。

二葉と言えば、あの映画鑑賞会の日のことは「武史に愛されててさ。あんな時まで求めてくるんだよ。皆がいたから最後までしなかったけどね」なんて自慢げに話していて、どっちもどっちだと思った。


その二葉と高寺武史だが、大学受験をする高寺武史は最後まで二葉を従えようとして、大学受験を猛プッシュしてきたが、私が専門学校を選択すると、二葉も着いてきてしまい、それを見た高寺武史は、最後まで専門学校サゲの大学アゲをし続けて、専門学校入学と同時くらいに、二葉は三橋の前の彼氏、上級生のヨシノに乗り換えた。



・・・



ヨシノは名前だか苗字だかも、もう覚えてない。

そのヨシノとは夏過ぎまで付き合ったが、就活生のヨシノが忙しくなると、二葉は隣のクラスの三橋アッくんと付き合った。


とりあえず、二葉と三橋アッくんが別れた事で、週末の予定は無くなった。


まあいいけど。


でも、実際には目的地の川越は行きたかったが、また機会はある。

写真に収めて卒業制作や就活用のポートフォリオに使いたかった。

それができないのが残念無念。


案の定、二葉が「週末、私は行かないから。翠は?行っても平気だよ」なんて言ってくる。


バカを言うな。


お前が隣のクラスの男と付き合って。その友達と出かけるところに数合わせではないが、誘われた私が、なんで二葉もいないのに三橋ともう1人の五代と3人で川越に行かにゃならんのだ?


「ん、いいよ。私も行かない。どうする?グループにメッセージ入れなきゃ」

「もう、抜けたから翠から入れてくれないかな?」

「了解ー」


そこまで見越しての会話。

もう「えぇ?」なんて、会話はない。

さっさと事務的に終わらせるに限る。


後始末の苦手な女、黒川二葉はずっとこうやって生きていくのだろう。


私はスマホを取り出してグループを見ると、三橋もグループを抜けている。

バカじゃんと思いながら2人きりのグループ、五代に向けて[詳しくは三橋くんに聞いたと思うけど、週末の川越は無しで]と送ると、休み時間なので既読は早い。


着いた既読。

すぐに[うん。聞いたよ。こっちもごめんね。六木さんが川越に行きたかったら嫌な思いしたよね]と返信。


[平気。気にしてくれてどうも]

[いえいえ、別に俺たちもこのグループ抜ける意味とかないから、六木さんも残しておいて、就活の事とか、何かあったら入れてよ]


そんなわけないだろ?


だがまあ、今日の今日消して、明日になって「仲直りしたの〜」なんて言われても面倒くさい。

仕方なくグループは削除せずに放置。

まあ月が変われば消してもいいだろう。


私、六木翠むつぎ みどりはそんな事を考えながら頭を切り替えて授業の始まりを待った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る