第5話  20年前、葬儀では泣かないと決めたが

 家族葬に決め、仕事関係の方には御遠慮頂いたが多くのお気持ちを頂いた。

親族も想像以上に集まってくれた。

これは主人の人徳に他ならない。

 これが主人の生きた証なのだ。

そんなことを改めて感じながら

娘達と選んだ思い出の品を棺に詰めた。

 いよいよ、夫の体とのお別れの時…


「待って…」

「やっぱり、やだ!」


取り乱し、号泣し、立っていられない私…


目の前にいる夫の体が無くなってしまう。

燃やされてしまうことが受け入れられない。

頭では亡くなったことは理解しているのに無くなってしまうことが受け入れられない心…


 数人が私に駆け寄ってくれた。

きっと娘達だったのだろう。

娘達の前で孫の前で何より夫の前で自分の本心をさらけ出せたことでスッキリした。


「いってらっしゃい!」

「待っててね!」


炉に入る瞬間、そう夫を送り出した。


 

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