第11話 防衛戦
ナヴィさんが教えてくれないと何隻いるのか把握が難しい。
いくつかの船外カメラに映った姿をタブレットで切り替えて表示しているだけだし、ゆっくり数えている場合でもないしね。
カメラ側で光学補正は賭けてくれるけど、そもそもオートフォーカスの精度も今一つだなぁ。
レーダーは艦首側に設置されていたらしく、失われています。
連絡艇には前方の衝突回避システムの短距離レーダーがあるみたいだけど、こんな時には役立ちません。
そして、今もっとも欲しいシールドが使えない。
『増援なし。こちらからの通信に回答がありません。』
「あら?ヒャッハーなチンピラが降伏勧告の脅しをしてくるんじゃないのか。」
『ホロムービーの見過ぎですね。』
「こっちの世界じゃ見たことないんだけどねぇ。」
衝撃とともに船体が大きく揺れる。
立てこもっている機関室には被害はなかったようだけど、どこかに砲撃を受けたみたいだ。
まずは足を止めるという意図で機関室を撃たれる可能性もあったんだけど、曳航しているのを見て狙わなかったのかな?
どうやら艦首の元ブリッジのあった部分が撃たれたみたいだ。
「なんちゃってダミー艦首が壊されても問題ないので、ラッキーかも?」
『そういう軽口はいいので、しっかり安全帯をつかんでいてくださいよ?』
ごもっとも。
口を閉ざして簡易宇宙服の気密を確認する。
問題なしと。
ついでに、左肩に固定しているハンドボール状の端末にも被害はなかったみたい。
通信機としてはでかくないですかね?
すぐそばには中身のナヴィさんのカプセルがあるんだけど、あっちは喋れるわけじゃないからね。
タブレットで船内を確認しても最初からアラートとエラーばかりだったので、いまひとつ状況がわからない。
撃たれたのなら艦首は無くなってそうだ。
隔壁は最初から閉じているし、船内のどこも与圧していないので気密漏れの小嵐は起きてないだろう。
あっという間に近づいてきた海賊船からストローのようなものが伸びてくると、こちらの船に突き刺さる。
これが移乗チューブってやつか。
えっと、これは艦首側のカメラ映像か。
帆船時代の海戦じゃないんだから、乗り込んで戦うとか時代錯誤な感じ。
でも、船を手に入れて、中の人間を処分するには最も確実な手段か?
ちなみに、俺がやることは何もなかったりする。
状況確認や判断に経験、体力も。と、まさに何もかもが足りなくて、戦力外通知です。
ラノベの主人公じゃないんだからいきなり戦場で大活躍なんてありえないのである。
むしろ、安全な後方にいたはずなのに、流れ弾であっさりと死んでいる可能性すらあるんだよね。
俺ができることは、せいぜいナヴィさんへの応援くらいかも?
ナヴィさんも全力らしく、こちらと会話している余裕はないみたい。
前もって立てた計画表があるので、こう来たらこうする。という推測は出来るんだけどね。
移乗チューブは艦首のすぐ後ろと、与圧式貨物室の2ヶ所に突き刺さっているらしい。
3隻目は少し離れて、こちらの動きを監視しているみたい。
多分、ブリッジに居ると判断してたんだろうな。
カメラ映像で無くなってないところから、ブリッジの破壊を目的の攻撃じゃなかったのかも?
素早く制圧するために、艦首のすぐそばに突き刺したんだろう。
あとは機関室に穴開けると爆発したりする可能性もあるので、機関室近くて燃料パイプとか無さそうな貨物室が狙われたか?
「あっ、連絡艇が破壊された。」
もったいない。
超高速航行とかできないけど、便利な乗り物だったのに。
ナヴィさんは、艦首をあっさりとパージした。
そもそもつぶれてて使い物にならない船の前方部分は、ゴミが入らないように適当に覆ってカバーをかけただけのなんちゃって艦首なんだよね。
そして、こんなこともあろうかと、前もって船体のあちこちを切り離せるように細工していたんだよ。
さすがに貨物室は切り離せないんだけど、ほかにもいくつか切り離せるように細工していたんだ。
白煙とともに切り離される艦首部分から海賊たちが宇宙に零れ落ちていく。
なんで船外ユニットつけてないんだろう?
アニメで見たような小型のもあるはずだよね?
慌てて移乗チューブを引っこ抜いて、海賊船が回収に向かう。
生体強化を受けていれば、たとえ生身で放り出されても10分以内くらいなら死ぬことは無いんだとか。
すごいな生体強化。
俺は生体強化受けていないんですけどね。
艦首側の対応は時間稼ぎにしかならないだろうけど、成功した。
そして、貨物室も対策はしてある。
酸素と水素を満たした小型救命カプセルをいくつも敷き詰めているのだ。
こちらは船内カメラで見た感じ、簡易宇宙服を着たレーザーガンを構えた人間がたくさんいる。
軍人なら不用意な発砲はしないと思うけど、海賊だもんね。
まさか撃つとは思わなかったけど、撃ったわ。
爆風の衝撃が、不規則な加速Gとなって襲い掛かってきた。
十分に人間が吹っ飛ばされるだけの爆発が発生して、ロックしていない貨物ハッチごと吹き飛ばされて宇宙に吸い出されていく。
残ったのは半分くらいだろうか?
爆風で押し流されただけなんで、それほど被害は無いんだろうな。
榴弾がさく裂したわけでもないし。
数が減らせただけでもまずは良しとせねば。
船体を艦首から艦尾まで貫くメイン通路に海賊が入ってきた段階で、待機していたドローンが突っ込んでいく。
数キロの塊がぶち当たればただじゃすまないだろう。
先頭の一人がすごい勢いで吹き飛ばされたが、残りはレーザーガンで迎撃してくる。
さすが無法者は戦闘慣れしている。
次々と落とされてしまった。
機関室と居住区の二手に分かれて、海賊が進んでくるが、正面の機関室への角を曲がったところで最後の罠が作動する。
スクーターの推進部やブースターが壁に固定してあるんだ。
艦首側の隔壁を強制開放し、廊下を砲身に見立てて全力で噴射が始まる。
バッテリー式なんでプラズマ化しているわけじゃないけど、十分な噴射力があり、海賊は吹き飛ばされて居住区に向かったものも巻き込んで艦首から飛んで行った。
スクーター5機分とあるだけのブースターの威力を見よ!
メイン通路は焼けただれてひどい状態だが、これで移乗攻撃してきた海賊の全員を排除出来た。
「とりあえずは撃退できたかな?」
ほっとしたのがまずかったのか、離れて見張りをしていた海賊船が発砲してきた。
外から木っ端みじんにするつもりのようだ。
さすがにこれは防げないんじゃ?
ナヴィさんは他の通路に配置していたドローンを海賊船に突っ込ませたが、ミサイルじゃないんだ。そこまで速度は出ない。
迎撃されたり、シールドに防がれて破壊されたりと効果はほぼないようだ。
海賊のレーザー砲で破壊された船体の破片が船殻を貫通して飛び跳ね回る。
ナヴィさんのカプセルに覆いかぶさって肉壁になったところで、衝撃を感じで意識がもうろうとなる。
切羽詰まったナヴィさんの声が聞こえるけど、意識がもうろうとしているから何を言っているのか理解できない。
電源が落ちてしまった機関室の外壁が破れて真っ黒な宇宙が見える。
こちらに砲を向けている海賊船が亀裂から見えた気がする。
やっぱり、素人が海賊撃退は無理だったかぁ。
なんて考えているところで、いきなり海賊船が爆発した。
その衝撃でたたきつけてくる船をシェイクしてくる。
固定されているナヴィさんのカプセルにしがみつくようにして意識が暗転していった。
全身が痛いなぁ。
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