第29話 あやかしの王と秘め事
施設に戻った俺は、
実は、この地下室は対あやかし用の結界が
『あの双子たち。此処を選ぶなんて、さすがですね!』
「もしかして……あのとき、すでに気がついていたのか?」
『あっ、ハイ……。先輩にバレるかと、ヒヤッとしてました……』
笑って誤魔化す
ニ人きりと提案したのは彼女だが、いざ誰もいない空間に置かれて居たたまれないようだ。
俺はゆっくりとした足取りで奥の方に向かい、そのまま椅子に座る。少し遅れてきた
「その……!」
『あの……!』
シーンと静まる中、同時に言葉を発する俺たちは、視線が重なったあと下を向く。
少し間を置いてから
『先輩が知らないことですが、カイロスのように人間の味方をする上位のあやかしを"
「その呼び方は知らなかったけど……人間に味方するあやかしの存在は知っていたよ。実は、こんな手記を見つけて」
本をニ冊勝手に持ち出していた
『実は、私が人間の味方をしたのは、気まぐれでした。先輩は、私の見た目が変わらないことに違和感を持っていますよね?』
「あっ、ああ……。他の三人は、
足と手の大きさを変えられるだけで、"ダイダラボッチ"っていう巨人だなんて思わないだろう。
『私は……幸も不幸も呼ぶ、"
「えっ?
『そうですね。そして、
思いがけないあやかしの名前に目を見開く。
見た目が人間に近い理由はわかった。
ただ、それよりも思うことは一つだけ……。
俺は目を輝かせるような眼差しを向ける。
「
『えっ……? ぷっ……ふふっ。
「思った以上に緩いんだな……あやかしの王になる条件って。でも、やっぱり妖力とか関係はあるんだろう?」
だけど、不幸にもするかもしれないが、人を幸せにする能力は妖力が高そうに思う。
『他のあやかしは分かりませんが、妖力は高いと思いました。すぐに上位のあやかしに見つかって、"人間を殺せない王"は認めないって言われましたし……』
「えっ……じゃあ、
『してませんよー。出来なかったんです。ある人間と出会ったから……。代わりに、私に歯向かうあやかしたちを
横顔から覗く
正面を向いているから俺の反応に気付かない
『私が初めて憑いた人間は、子供で。実は、
「えっ? 俺の親族とか? いや、待てよ……。実は、家には古い言い伝えがあってさ。家長はこれを手放すなって」
『嘘っ……それって――』
俺は首から下げていた古びた御守りを取り出して見せる。
それを見た
「やっぱり、見覚えあるのか? これを持っていないと、家も家族もすべてが不幸になるって言われてて……恐怖の象徴だったんだけど」
『えっ……? そ、それは申し訳なく……ただ、私も成長しないことで正体がバレるのを防ぎたくて離れるしかなかったんです』
「それで、家内安全の御守りを? もしかして、この中には
考えつくのは髪や爪だけど……。
なぜか、ここにきてオタク心が揺れて高揚する俺に痛いモノを見るような目を向けて、ようやくこっちを向いた
してやられたと気が付いた
『変なことを言わないでください! ま、まぁ……私の、
「なるほどなぁ。御守りの中は開けるなって良く聞くけど……開けても」
『ダメです!! ご利益、逃げちゃうので駄目です! ……見られたら、恥ずかしくて
最後の言葉は小さくて聞こえなかったが、恥ずかしそうにしているのは分かる。
前と変わらないニ人の時間が嬉しい反面、
『実は、前王が願ったことを知っているのは、私と先輩だけなんです……』
「えっ? そ、そうなのか……だから、本をニ冊持ち出したのか?」
『はい……三人が知ったら、どうにかして先輩をその気にさせようとするかと思って……』
あの三人が、過去に
再び下を向いた
『あやかしは人間の生んだ不要な部分であって、すべての感情は
「
『だから。私は魔法使いに殺してほしくて、奇跡的に出会えたら育てて殺してもらおうと考えていたんです。あの三人も人間側だったので、賛同してくれました』
俺を連れ回していた理由は分かった。ただ、どうして殺されたいのかが分からない。
俺は
「あやかしの王は、魔法使いにしか殺せないのは分かってる。ただ、どうして死にたいんだ? 俺は、
『それは……私が、人間を好きだからです。あやかしよりも……。あやかしがいる限り、悲劇が生まれる……私が王に選ばれたのは、あやかしの時代を終わらせるためだと思いました』
「そっか……そこまで、俺たち人間を好きになってくれたんだな。有難う」
きっと、絶望の
俺は、そんな
俺達にとって魔法の言葉を口にしようとした瞬間、
そして、俺の手を掴んで自分の胸元に当てる。
『――"
「えっ……?」
思いがけない言葉に俺は耳を疑った。
一瞬で頭が真っ白くなり、無意識に離そうと力を込める手から伝わってくる鼓動だけが、俺の心を支配する。
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