第3話「秘密戦士」

 あの日、俺の人生が一気に色づいた。


 「はぁ...まじ、ちょ、マジかよ!」


 その日俺は、この国の真実を知った。


 ただ、その日その日のバイトをして、食って寝て過ごしているだけだった30年間に遂に終わりが来たのだ。


俺が全てを知った日...


 家より少し遠くのバイトからの帰り、いつの間にか俺は疲れていたのか真っ暗な路地裏に入り込んでいた。


 「ここどこだよ...」


 その時は愚かにもその路地裏に入ったことを後悔し始めていた...


 俺が出入口を探し始めた時...


 「おい、あんた!」


 暗がりの奥の方から老人のかすれ気味の声がする。


 「あぁ?」


 俺は、その声に反応した。


 路地裏の暗がりの方から、ボロボロに破れた服を着た、小汚いジイさんがよちよちと出て来たんだ。


 老いぼれて震えた足で、生まれたての赤ん坊が両親に向かって這っていくようにこちらに向かってくる。


 「あんた...どうしてここに来た...?」


 ジイさんが俺に訊いてくる。


 変なホームレスに絡まれてしまった、と思い再度出口を探し始めるが...


 「これこれ、最近の若者はせっかちだのぅ」


 ジイさんが俺の前に出てきて前を塞ぐように両手を広げる。


 「質問には返すのが礼儀じゃろう?」


 いきなり質問してくる変質者に礼儀もクソもあるか。


 俺はジイさんを無視して前に進もうと...


 「ㇵッ」


 ジイさんが変に力んだのと同時に俺は空を見ていた。


 「あ...えっ...」


 いつの間にか俺はジイさん転ばされていたのだ。


 「これで話が進むわぃ」


 ジイさんは俺の体の上に座り顔を覗き込む。


 「あんた何が目的だ...生憎金は持ってないし、このまま俺にかまうんだったら警察呼ぶぞ」

 

 俺がそう言うと爺さんは嫌そうに顔を歪める。


 「警察とは...なんと愚かな...それにさっきからずっと言っておるだろう。あんたがどこから来たのかを知りたいんじゃ」


 「それを知ってどうする?俺は疲れててあんたみたいな老いぼれての相手をしている暇はないんだ」

 

 するとジイさんは俺の鞄に手をかける。


 「クソッ、やっぱり物取りかよ!」


 俺は自分の鞄を死守しようと手を...


 ジイさんは動かそうとした俺の手を足でいとも簡単に捕まえる。


 そんなことを気にもせず俺の鞄の中身を物色し始める。


 「おい!やめろ!クソっ。んだよっ、てめえ結局金目当てのクソハイエナ野郎じゃねぇか!!」


 「おぉ、サバの缶詰!!いやぁ、旨そうだな」


 「だれかぁっ、誰か助けてください!変なホームレスに鞄を取られて!あのぉっ」


 深夜だからか、それともこの路地裏が奥過ぎたのか、はたまた無視されたのかは分からないが、誰一人としてこちらにくる人は居なかった。


 「無駄じゃよ、ここは選ばれた人間しか来ることのできない場所じゃ」


 ジイさんが俺の上で吞気にサバ缶を開けようとしながら何かほざいている。


 「なんだよっ、てめぇが欲しいもんしかこの路地裏に入れないのかぁっ、そんなわけねぇだろっ。ここは公共の場所だぞ!!」


 「わしが選ぶのではない、ここに来るべき人間が自然とこの場所にやって来るのじゃ」


 「てめぇ何言ってるんだ!!」


 ジイさんがサバ缶を開けるのを諦めたのか、サバ缶を投げ捨てる。

 

 「もういい、あんたに今必要なのはこの状況を理解し、受け入れることだ」


 ジイさんは得意げに話始める。


 「あんたは、この国という名の悪魔と戦うためにキャプテンレッドに選ばれた秘密戦士なのさ」


 「はぁっ!?」


 「いまはぁ...レッドにブルー、ピンクにイエローもいるし、ワシはブラックだからぁ...立川さんはパープルなので...あんたはオレンジだ」


 ジイさんは子供ものように目を輝かせながら俺の顔を覗き込む。


 「なに言ってんだよぉっ...あん...」


 俺は口を掴まれ、何かを飲まされる。


 「ゲホッ...ゲホッ、グホォッ!!」

 

 俺はその何かを吐き出そうとする。


 「素直に飲んでおけ、そいつを飲んでおくと理解する時に手助けをしてくれる」


 頭の中に、様々なイメージが湧いてくる。


 ジイさんが何か言っている気がするが、そんなことを気にしている暇などないくらいに頭の中に情報が一気に流れ込んでくる。


 俺はその時にこの国の真実を知った。


 この国は俺達国民にできるだけ税金を納めさせた後、国民が汗水垂らしてい収めた税金を使って、国民を誘拐して改造人間にして好き勝手しているらしい。


 そしてその悪逆非道なことをしている奴らのボスが現在この国を仕切っている総理大臣らしい。


 そんな真実を知った俺は、あまりにも多すぎる情報量に困惑もし、そして絶望した。


 「あんたらは...あんたらは俺にこんなことを教えて何がしたいんだ...」

 

 俺はジイさんを見上げ、気弱に呟く。


 「だからいったじゃろ。あんたは秘密戦士キャプテンレッドに選ばれた秘密戦士なのだと」


 「秘密戦士...?」


 俺は今までジイさんに言われたことを振り返ってみる。


 ここに来るべき人間が自然とこの場所にやって来る...


 「...あんたの話が正しかったとして...俺に...俺に何ができるっていうんだ...」

 

 そう言って嘆く俺に目を瞑って手をかざし始めるジイさん。


 「わしにはこうして手をかざすと相手のporuckエネルギーが分かるんじゃ...」


 「poruckエネルギー...?なんだよ...それ...」


 「poruckエネルギーとは、生まれた時から身体の中に宿っているエネルギーじゃ。このエネルギーが人よりも多い人間はわしが持っているこの小型機械によって秘密戦士タメルンジャーに変身できるのじゃ」


 ジイさんがボロボロになったコートの中から下に輪っかの付いた光ってピコピコいう謎の機械を取り出した。

 

 「あんたはこれを使ってタメルンジャーオレンジに変身することができるんじゃ」


 「タメルンジャーオレンジ...?」

 

 「あぁ、そうじゃ。そしてタメルンジャーオレンジに変身すると現在この国を牛耳っている悪の秘密結社...バッドベエルに対抗することができるようになるんじゃ」


 「俺が?」


 「そうじゃ、あんたはこの国の人間を救うことができるヒーローになることができるんじゃ」


 「本当に...?」


 「本当じゃ、だからこそ、あんたはこの路地裏にやって来ることができたのじゃ」


 ジイさんが俺の上から立ち上がり俺に向かって手を出す。


 「この手を掴むんじゃ。そして、なるのじゃ。この国を正し、この国の人間を救うヒーロー...タメルンジャーオレンジに!!」


 俺はその手をとった...


 それからは様々な経験をした。


 他のタメルンジャーの皆と会ったり...


 税金を払えば払うほど、悪の秘密結社バッドベエルの糧になってしまうことを知り...


 キャプテンレッド...徳村さんが皆に売っていたあの特殊なブレスレットを身に着けると、poruckエネルギー値が上昇すること...


 それから警察と戦う日々が始まった...


 タメルンジャーイエローが作った対バッドベエル用兵器"ジャスティススピア"を使ってバッドベエルの幹部が乗るプライベートジェットを爆破、その後墜落させたり...


 この国を守るために色々なことをした...筈だった...


 ある日、アジトにタメルンジャーグリーンと帰って来た時、既にアジトはバッドベエルの手下である警察どもに占拠されていた。


 「クソぅっ!!オレンジ!アジトは奴らに占拠されたっ。このままじゃ残った我々も奴らに捕まってしまう!私が時間を稼ぐっ、君はその内にここから逃げるんだっ」


 グリーンが俺に向かって叫ぶ。


 「でも...そんなことしたらグリーンさんっ、あなたが!」


 「私のことはいい!いつも協力してくれているスーツの男たちのことは分かるな!ここからすこし離れた茶馆という喫茶店に急ぐんだっ」


 グリーンはそういった後、ジャスティスライフルを構えてアジトに走っていった。


 グリーンに言われたことを守って、茶馆という喫茶店まで逃げて来た俺は、中国系と思われる男達と合流し、自殺の名所と言われた日本で有名な山の近くにある森の逃げることとなったのだ...


 「何が起こっているんだ...」


 逃げるために乗り込んだ黒いバンの中で俺は呟いた。


 「キミタチノウチノダレカガ、ニホンノケイサツニタレコンダノサ」


 運転手の男が俺にそう言う。


 なんてことだ...完璧な絆で繫がれた俺たちが...


 毎週飲む、仲間の絆を強める"ジャスティスメディスン"を飲んでいた俺たちが...?


 困惑と同時に疑問が湧いてくる...


 しばらくそうして悩んでいると、いつのまにか目的地の森まで到着していた。

 

 「ココカラハアルキダヨ」


 運転席の男はそう言うと、ジャスティスライフルを持って車から降りて行った。


 残りのメンバーと俺も車を降り、次なる目的地のタメルンジャーの支援組織の関西支部に行くべく、この森に隠されたヘリコプターのエンジンパーツを探すために森の奥に入って行った。


 「您确定这里有示例零件吗?」


 「是的,应该是这样。 否则,那些该死的日本人早就骗我们了」


 メンバー達が、中国語だか韓国語だか北朝鮮語だかなんだかで何か話している。


 「大家都停下来!」


 運転手が何か叫ぶと周りのメンバー達も止まった。


 「きしゃぁぁぁぁぁぁぁっ」


 耳を劈くような、何かの叫び声のような声だと思われる音がしたと同時に、目の前のメンバー達4人ほどがいきなり前のめりに倒れた。


 倒れたメンバー達の顔の辺りから湯気のようなものが漂っている。


 「是什么?」


 「所有人员处于戒备状态!」


 周りのメンバー達が一か所に集まる。


 ジャスティスライフルを構え、周りを警戒し始めたようだ。


 「嘿,这是...」


 シュッという音とともに俺の後ろから飛んできた白い何かメンバーの一人の体に降りかかる。


 「うわぁぁぁぁぁぁっ」


 どこの国も叫び声は一緒なのか白い何かが降りかかったメンバーが大声を上げてもだえ苦しみ始める。


 「妈的、那个」


 メンバーの一人が俺の方に向かってジャスティスライフルを構える。


 俺は咄嗟に屈む。


 ババババババババッ


 ジャスティスライフルが火を噴き、俺の後ろの方にいる何かに当たったのか甲高い叫び声が聞こえる。


 「きゃああああぁぁぁぁっ、しゃぁぁぁぁぁ、しゃぁああぁぁぁ...」


 俺は後ろに向かって振り向いた。


 するとそこには、頭は犬...体は蜘蛛の、成人男性一人分程の大きさの怪物が苦しみ悶えていた。


 「ああ...あれぇっなんだよっ」


 いや...待てよ...


 こいつ、明らかに改造されたような見た目じゃないか...?


 もしかして...


 「去死吧,你这个混蛋!」


 後ろから怒号とともに、ジャスティスライフルの火が噴く音がする。


 「お...おらあぁぁぁぁっ」


 俺はジャスティスライフルを怪物に向かって構え、引き金を引く。


 ジャスティスライフルから放たれた数々の弾丸が、怪物の体を貫いていく。


 「しゃぁ...しゃ...」


 怪物が弱っていく...


 シュッ


 しかしその発射音とともに、俺の構えているジャスティスライフルが右横から飛んできた白い何かに吹き飛ばされる。


 「噓だろ!なんだよっ」


 「しゃあああぁぁぁぁっ」


 森のありとあらゆる所から、怪物の鳴き声がする。


 「蟑螂...」


 「它更像一只蜘蛛」


 「きしゃあぁぁぁぁっ」


 目の前に空から怪物が降ってくる。


 「うわあぁぁぁぁっ」


 俺は急いで森の奥に走り出した。


 後ろからは、未だに銃声と怒号が鳴り響いている。


 「はぁっ...はぁっ...」 

 

 アレ...アレってもしかして、バッドベエルが作った改造生物なんじゃないのか...?


 「クソぉっ、もうここまで逃げてきたことに気づかれたというのか」


 俺はその後、ただひたすらに走り続けた。


 時々奴らの足音と思われる音や、鳴き声などが聞こえたがなりふり構ず走り続けた。


 俺は...俺はここで終わってしまうのか?


 やっと、やっと見つけた俺の生きる意味でさえも志半ばで終わってしまうのか?


 「いや...」


 そんなことは...


 「絶対に嫌だ!」


 俺は、恐らく死んでいったであろう仲間たちのことを思い出す。


 奴らのためにも...俺は...


 「う...うお...」


 「しゃああぁぁぁぁぁぁっ」


「うわあぁっ」


 怪物は気づかない間に俺の後ろに張り付いてきていたらしい。


 「あぁっもう!こうなったらやってやるっ」


 俺は近くに落ちていた大きな岩を拾う。


 「喰らえ!タメルンジャーオレンジアタッ~」


 怪物は俺が必殺技名を言う前に身体の後ろ側の方から何か白い何かを飛ばしてくる。


 咄嗟に体を右に動かしたが、俺は被っていた帽子を落としてしまう。


 白い何かは、俺が落とした帽子に直撃した。


 白い何かが直撃した箇所は煙を出しながら、溶けている気がする。


 アレッ...


 もしかしてこれ俺に勝ち目ないのでは?


 怪物は俺に向かって次の白い何か、いや...蜘蛛の糸を飛ばそうとしているのか、身体の後ろ側を向けている。

 

 ヤバい、ハッキリ言って次を避けられる自身がない...


 「あn、あんた、話あえたりとかは...」


 「しゃああぁぁぁぁぁぁっ」


 「うをぁっ」


 奇声を上げながら、地面に伏せる。


 蜘蛛の糸は近くの木にあたり、木を少し溶かす。


 駄目だっ、これもうどうこう太刀打ちできる相手じゃない。


 「なんで俺はいつもこんな目に合うんだっ」


 俺は走った。


 一度でかけた勇気も直ぐに引っ込んでしまった...


 こんなのだったから今まで碌な人生を送ってきていなかったのかもしれない。


 だけど、今回に限っては絶対にバッドベエルが悪い筈,,,


 そもそも、バッドベエル以前にこの国の税金は高ぇんだよっ。


 なんだよクソ...


 そう思いながら走っていると段々色んなことにムカついてきた。


 なんだか叫びたい気分だ。


 俺は、衣服がボロボロになることなど考えずにがむしゃらに走った。


 いや...もう怪物のことなんて知るか...俺は、俺は、好きなことをするんだ。


 そうだ、もう叫んでしまおう。


 「俺はこの国の国民なんだよおぉぉぉぉっ!!」


 俺はそう叫びながら全力で走る。


 すると、目の前に黒づくめの変人と全裸の女が立っていた。


 俺は黒づくめの男に衝突しそうになる。


 しかし黒づくめの男がなんとか俺を避けたのだ。


 そしてその黒づくめの男をよく見ると、右手に拳銃を持っていた。


 しかも全裸女は、包丁を所持している様子。


 噓だろ、また面倒なことに巻き込まれたのか...


 バッドベエルめ...俺はこの国で必死に生きて、戦っているんだぞっ。


 「俺は...この国の国民だ...だ...だって...この国で生きているんだぞ!」


 そんな俺のことをこんな目にあわせるなんてやっぱりこの国、クソだ...


 そう思っていると、いつのまにか視界から消えていた全裸女が地面に横になって腕?か何かを局部に突っ込んで喘いでいる。


 「おい、そこのクソ女!喘いでんじゃねぇよっ」


 何もかもにムカついていた俺は全裸女を蹴った


 しかし気にもせず女は行為にふけっている。


 「聞いてんのかこのボケェッ」

 

 なんでこの女は蹴られているのに全く気にしていないんだ? 


 その後、急に叫びながら走ってくる右腕のない男がやって来て...


 


 滝軒は、急に目の前に現れた子供が適当に描いた落書きのような生物に啞然としていた。


 「何やっているんですか!早く撃ってっ」


 やっと追いついた全裸女は、過呼吸気味に滝軒に叫んだ。


 しかしその時、滝軒の脳裏はフリーズしていた。


 なぜなら、滝軒が今までの人生で体験してきた出来事を軽く超えることが連発しすぎたため、脳が処理できるキャパシティーを超えたからである。

 

 「しゃああぁぁぁぁぁぁっ」


 謎のナニカが奇声を上げ、滝軒の方に突進してくる。


 「危ない!」


 全裸女は危機一髪で滝軒をナニカの進行方向から押しのけ事なきを得させる。


 そして押された衝撃で意識が戻ってきた滝軒は急激に目の前で起きている現象について考え始める。


 現在滝軒と全裸女はナニカの左後ろにいた。


 「えっとぉ...おらぁっ」


 今度こそ効いてくれと願いながら滝軒はナニカの頭部に向かって引き金を引いた。


 パァンッ


 滝軒の持つ拳銃から、今夜3発目銃弾が放たれる。


 蜘蛛はその銃弾を避けきれず、左後頭部に銃弾を受ける。

 

 「しゃ...」


 ナニカは小さくそう発し糸が切れた様に地面に付した。


 「やりましたね!」


 滝軒の右にいる全裸女は、滝軒にすり寄って喜んでいる。


 「えっとぉ...その、助けてくれたことには感謝する...じゃなくて車ぁっ」


 滝軒は自分の目的を思い出し、走りだそうとする。


 「ちょっと待ってください!」


 そんな滝軒の左腕をガッチリ掴んでそれを止める全裸女。


 「お願いします!さっきからも申しているように、私と協力してもらえませんか?」


 「だからさっきも言ったけどまずは服を着てからにしてくれ。ということで助けてくれてありがとう、それじゃあまた機会がありましたら」


 滝軒はそのまま走りだそうと...


 だそうと...


 「あのぉっ、その手離してくれないかなぁ!」


 「協力してくれるまで嫌ですっ」


 「そもそも協力って何をするんだよっ、一緒にここを逃げるってことか?だとしても嫌だけど」


 全裸女は一瞬不安そうな顔をした後、まるで物語のヒロインのように迫真の叫ぶ。


 「一緒に...一緒にあのカボチャ男を殺してほしいんです!」


 「...?」


 滝軒には意味が分からなかった...


 一緒に逃げるならまだしも、なんでまたわざわざ危険を犯してまであの男を殺さなきゃならないのか。


 そんなことをしてなんの意味があるのか。


 「お願いします!兄の仇なんですっ」


 「いや...あんたのお兄さんの仇?だとして俺が協力する必要ないだろ」


 「えっ...でもさっきあの変な...怪物?から助けたじゃないですか」


 「それで?」


 「私に信頼と恩を感じないんですか?」


 「え、いや...」


 「え~~~~~~っ!?」


 全裸女は中学時代に大体の人との関わりを断っていたため、人にたいするありとあらゆる感覚がおかしくなっていた。


 「とにかく俺は、そんな意味の分からないことに付き合ってる暇はないんだ。あのカボチャ男も、この怪物からも逃げなきゃいけないからな」


 「でもっ...」


 「その手を今すぐ離さないと今度こそコレであんたの頭をぶち抜くぞ」


 滝軒は、銃を握っている右手の方を全裸女の頭に向けた。


 「えっと...あのっ...」


 全裸女は手の力を緩め、滝軒はその手を思い切り振りほどく。


 「きしゃあぁぁぁぁっ」


 ガサッ ゴソッ


 滝軒達の近くで奇声と雑音が聞こえる。


 「今は下手に動かないほうがいいですよ...」


 全裸女が滝軒に囁く。


 「ぁっ...」


 滝軒は息を吞み、体をかたくして静かに音が遠のくのを待った。


 サッ ソッ


 滝軒は良かった、足音が去ったと思い安堵する。


 「しゃああぁぁぁぁぁぁっ」


 しかし奇声が滝軒達の真上から聞こえる。


 滝軒と全裸女は急いで上を向く。


 そこにはさっきの個体よりも大きな成人男性一人分程の大きさのナニカが木から糸のようなものにぶら下がってこちらを睨んでいた。


 「うわあぁっ、お前蜘蛛じゃなくてGだろぉっ」


 滝軒は森の外に向かって走り始める。


 「あっ、ちょっと待って」


 全裸女もそれについて行く。

 

 「しゅぅぅぅぅぅぅぅっ」


 そんな滝軒達の前にも、成人女性一人分の大きさのナニカが立ちはばかる。


 パァンッ パァンッ


 滝軒は残りの弾数などお構いなしに銃弾を目の前のナニカに発砲する。


 「しゃあっ!?」


 滝軒達の目の前のナニカは銃弾を避けようと滝軒達からみて右に飛びのくが、放たれた一発がナニカの前足に当たり、前足の一部を吹き飛ばす。


 「邪魔だ、退けぇっ!」


 パァンッ


 滝軒は拳銃でもう一発の銃弾をナニカの頭にぶち込む。


 犬頭の右耳あたりからが銃弾によって抉り取られる。


 「よし、このままならいけるっ」


 滝軒がそう言った瞬間、倒れたナニカの奥の方から複数の足音が滝軒達の方へ向かって来ていた。


 ストンッ


 滝軒達の後ろのナニカが地面に足をつかせる。


 「んのクソッ、挟み撃ちじゃねぇか」


 「この状況的に、複数いると思われる前の方に逃げるより、後ろの一体だけの方に逃げた方いいですよ!」


 全裸女は滝軒にそう訴えかける。


 「あぁぁっ、もうっ。クソがあぁぁぁぁっ」


 滝軒は後ろに振り返り、銃を乱射し始めた。

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