第2話「私が求めていたモノ」

私はその"モノ"を求めていた。


 中学生二年生の頃、親のパソコンをコッソリ使ってネットの掲示板で見た釣り画像。


 当時、性に関心が出始めていた私は、エロ画像が見れるとタイトルに書いてある掲示板をクリックした。


 クリックした先に待っていたのは、可愛い女の子のキャラクターが頭だけになって男性の局部を加えているイラストの画像。


 それが全ての始まりだった。


 私はその画像を見て、最初は衝撃を受けて啞然としていた。


 しかし、次第にその画像の女の子に惹かれていった。


 恐怖で見開いた目。


 かつてその"モノ"が生きていたなどお構いなしに、ただ"モノ"として"使われている"その光景に...


 私は惹かれていったのだ...


 それから、食い入るように似た画像を探す日々...


 友人にそのことを話すと気持ち悪がられ、蔑まれ、嫌われ、いじめられた...


 それから地獄のような毎日だった。


 唯一の癒しはネットであの、画像を見る時...


 最初はあの女の子のように成りたいと思っていたが、いじめが続く日々に耐えているうちに、今度はいじめてくる奴らをこんな風に"モノ”として使ってやりたいという想いに変わっていた。


 それでも、その想いを胸の内に引っ込め、中学生活を乗り切った私は高校を地元から遠い○○市の高校に入ることにして今までの人間関係をリセットした。


 ○○市の高校に入ってからは、普通の女の子として振る舞い、普通に過ごしていた。


 高校生活はとても退屈だったが...一つだけ胸がときめいたことがあった。


 クラスで皆に人気のイケメン男子が私の落とした本を拾ってくれたときだ。


 自分でもそれだけで好きになるのは単純すぎだと思っているが、本当にあの頃はそのイケメンにときめいていたのだ。


 その、クラスで皆に人気のイケメンを"モノ"にして、クラスの皆の前で"モノ"として"使うこと"を妄想して夜な夜なシていた。


 その後、平凡な高校生活を終え...普通の中小企業に就職して普通に...普通に振る舞って、普通に暮らしていこうと思っていた...筈だったのに...


 丁度入社1年目の頃だった...


 中学時代のクラスメイトが...私のいじめの主導を握っていた奴が後輩として会社に入社してきたのだ...


 もう...それからは...正直...言わなくても分かると思う...


 あの、自分が正しい行いをしているという顔、態度が本当に憎たらしかった...


 ある日、私が残業をしていると私のもとに何人かの男たちがやって来た。


 いやらしい目つきというやつだ。


 必死に抵抗したけど...駄目だった...


 だから...翌日殺してやった...


 その後"モノ"として"使った"時の快感は物凄かった。


 ただ...警察がやって来て邪魔されたのはうざかったな...


 そして私はありのままの自分をさらけだして生きることにしたの...


 警察から逃げ続けながら5日目...自殺の名所として有名なこの森なら、死体があるだろうと思ったからだ。


 案の定、黒いパーカに黒の長ズボン、手袋と靴まで全身黒づくめの怪しい男が、青い大きなビニール製の袋とシャベルを持って森の中に立っていた。

 

 だから私はそいつに聞いた...


 「その鞄の中身って、もしかして”人”ですかぁ?」


 男は私に銃を向けてきた。

 

 ここからどうしようかと思っていた時、謎の男が黒づくめの男に突撃したのだ。


 そして、黒づくめの男がビニール袋を手放した。


 私は宙を舞ったビニール袋に飛びついた。

 

 そして中を確認してみた。


 5日ぶりの"モノ"だ。


 すぐさま中から"モノ"の一部を取り出して"使った"。


 物凄い快感とともにもっと...もっと凄い快感を求めて次の部位を取り出そうとした時...


 謎の男が私の腹を蹴りだした。


 まぁいい、後で"使って"やろう。


 「うわぁぁぁぁぁぁぁっ」


 また変な男...


 腕...


 どうしたんだ?


 変な男が走って来た方向からマスクの大男が現れた。


 黒づくめの男が、マスクの大男の胸に銃を発砲する。


 パァンッ


 しかし...大男は倒れない。


 噓でしょ...?


 5日前に吹っ飛んだはずの理性が急に戻ってきた。


 こいつはヤバい、逃げろと...


 大男が、黒づくめの男に斧を振りかぶる。


 黒づくめの男は振り落ろされた斧を右に飛んで間一髪で避ける。


 「はぁぁぁぁあっ!?お前噓だろっ。クソぉ、今日厄日だろ!」


 黒づくめの男は立ち上がり、また大男に銃を発砲する。


 パァンッ


 「...」


 銃弾が今度は大男の下腹部を貫く。


 しかし大男はものともせず、黒づくめの男に斧を振りかざす。


 「ッン!!」


 黒づくめの男はまたも間一髪で右に飛んで避ける。


 「やばいやばいやばいやばいっ」


 黒づくめの男はやばいと呟きながら森の奥の方に逃げていく。

 

 私も逃げないと...


 じゃないとあの大男に殺される。


 そう思ったのも束の間、別の考えも湧いてくる。

 

 あんなに強くて、大きな男..."モノ"として"使ってみたら"物凄い快感を感じられるのではないか?


 しかし今の私では到底かなわない...


 ならば、あの黒づくめの男を利用すればいいのではないか?


 今まで退屈すぎて萎んでいた脳が急に活性化する。


 とりあえず今はあの男に付いていこう。


 私は、惜しみながらも、そこに散らばった"モノ"を置いて黒づくめの男の方に走り始める。


 「なんだよぉっ、税金納めないだけでこんな仕打ちかよ。やっぱりこの国は狂ってる」


 謎の男は、何かおかしなことを言いながら別方向に走っていった。


 兎に角、一旦あの男に追いついて信用を得なければ...


 私はこれからどうするかを考えながら黒づくめの男の方に走っていった。


 

 

 「はぁはぁはぁ...」

 

 俺は、あの"大柄マスク"から逃げるために全速力で森の中に走っていった。


 にしてもあいつ銃を撃っても死なないってバケモンだろ...


 森の外の道路の俺の車まで、残り1キロメートル程...


 このままずっと走れば...


 すると後ろから凄い勢いで俺に向かって走ってくる音がする。


 ダッダッダッダッダという音に恐怖心を抱いた俺は、つい後ろを振り返ってしまう。


 「てっ、噓だろ!」

 

 後ろからは、大柄マスクではなく全裸女が向かって来ていた。


 まぁ、あの大柄マスクから逃げているのなら全くおかしくないのだが...


 全裸女は明らかに俺に向かって走って来ていた。


 「おいおいおいおい、そこの嬢ちゃん!死体ならあそこに置いてきただろっ。俺に何の用だよ!?」


 少しヒステリックの入った叫び声を上げてしまう。


 「あなたとぉっ、きょうりょくぅっ、したいんでぇすぅっ!!」


 全裸女はぜぇぜぇと息を吸ったり吐いたりしながら、俺に語りかけてくる。


 「まずは格好をどうにかしてから提案してください。今回はご縁がなかったということでそれでは!!」


 焦りすぎて謎に敬語になってしまった。

 

 「あのぉっ、おねがいしますぅっ!!」


 しかし全裸女は引き下がらない。


 「だぁかぁらぁっ!!」


 俺がそう叫んだその時、前からいきなり何かが現れた。


 「きしゃぁぁぁぁぁぁっ」


 目の前の俺の下半身ぐらいのデカさの奴は、俺の前に立ちはばかり奇声を上げる。


 そして俺はその目の前の奴を見て、恐怖と嫌悪感を感じた。

 

 それは巨大な犬頭の蜘蛛のような姿をした"ナニカ"だった。

 


 

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