異世界からの転生者
でんでんむし
新たな生
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・兄・・・・」
「・・・・・・・兄弟」
「(プッハー)ハァー ハァー ハァー」
「よぅ!兄弟!目が覚めたようだな!よし!飯だ!先生の所に行き、飯を貰え!腹が満たされればマザーに挨拶しに行き、名前をもらえよ!」
ど、どういう事だ!?アストラル体となり、転生すること15回・・・。今まで一度たりとも失敗した事が無かったが我とした事が我が作ったホムンクルスへの乗っ取りに失敗したというのか!?
いや待て待て!まだ慌てる段階ではない。チッ。尻が重たいし、目も未だ見えん。声だけ聞こえるが、我には兄弟がいるようだ。とりあえずは人間への転生だけは成功のようだ。
「ハッハッハッ!中々可愛い弟じゃないか!(カチャカチャカチャ)よし!これで膜は取れたよ!目が見えるでしょう?」
「うっ、うぉっ!?だ、誰だ!?」
「え?誰って?貴方の姉だよ?まったくマザーも変な子を産んだもんだね。ほら!あそこに先生が居るでしょ?先生から蜜でも貰ってマザーの所に挨拶に行きなさい!」
これは・・・まさか魔物に転生してしまったのか!?どこのダンジョンだ!?確か我が転生する前に世界に確認されていたダンジョンは10程あったはずだが・・・。
「クックックッ。我とした事が焦ってしまっていたようだ。かつては、世界の大魔王として、またある時は戦う村人として、またある時は世界一の武道家、策略家、名貴族、大魔術師、大薬師、ドラゴンスレイヤーなどなど、他にも転生を繰り返し、研鑽してきた我が魔物如きに遅れなぞ・・・」
「(ペチン)なーに訳の分からない事言ってるのさ!早く!後ろがつっかえてんのよ!」
「なっ・・・我を叩いただと!?そもそも我達はなんの種族だ!教えよ!」
「はぁ〜!?種族?そんなの知らないわよ!私達はマザーの子供!あなたは働かないといけない子!」
「チッ。低脳の魔物か・・・。いやそれにしても・・・ぬぉぉぉぉぉ〜〜!?なんっじゃこりゃ〜!!?」
「もう!本当に落ち着きのない子だね〜。皆も一緒!貴方は雄なんだから働くか戦うか選びなさい!」
我とした事が・・・魔物を使役する召喚師や魔物術師への転生かと思ったが、まさか我自身も魔物だったとは・・・(グゥ〜)
ック・・・我とした事が腹が減っている。ここはまずは先生とやらに飯を貰いに行く事が先決か。
「ふぁっふぁっふぁっ!よく来た。まずは産まれて来ておめでとう。(ブルブルブル・・・ピト)よーし。産まれたてのお主に特別に甘く捻り出した蜜だ!それを食べて頑張りなさい!ほーら!次の子!おいで〜」
ま、まさか・・・これを食べろというのか!?他の魔物の糞を飲めというのか!?
「おや?食べないのか?食べないと死んでしまうよ?」
「あめぇ〜!せぇんしぇ〜!ありがとう!」
「うむ!いっぱい食べて大きくなりなさい!」
甘い!?このネバネバの液が甘いのか!?他の弟は迷わず食べているが・・・。
我はできるならボアの肉が食いたいのだが・・・。
ック・・・。食わなければ死ぬ。食べるほかあるまい・・・
「美味い!?しかも本当に甘いだと!?」
「ふぁっふぁっふぁっ!良きかな!また食べたい時に来なさい!」
ック。我とした事があの液体を飲み干してしまった。が、あれは美味であった。あれはなんという種族の魔物か。まさかここは未だ未発見のダンジョンなのか!?だが、それにしても未だ自分含めて二種類の種族しか発見できておらん。
「よぅ!兄弟!先生から蜜貰ったか!?美味かっただろう?」
「おーい!!遠征隊が帰ったぞ!今回は大物を持っての凱旋だ!!」
「お!?帰って来たか!早くお前もマザーの所へ行き、名前を貰え!形のある物はお前達、幼い者しか食べられないから早い者勝ちになってしまうぞ!お!?それはまさか、人間の幼生が持っているチョコレイトというやつじゃないのか!?」
何!?人間が近くに居るだと!?いや、それよりまずは・・・マザーと言われる者の所に行こう。このダンジョンの下に途轍もなく大きなマナを感じるぞ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「よく産まれましたね〜。我が子よ」
「なっ・・・」
「何をそんなに驚くのですか?」
こ、これは・・・かつての我のマナなぞハナクソのようだ。この者は今世の我の母親か!?それにしても違い過ぎる・・・これは正に・・・
「規格外だ・・・」
「ふふふ。あなたは戦うのが好みのようです。リョーカ?」
「はっ!ここに」
「この子を兵隊訓練に入れてあげなさい。既に動けるようです」
「御言葉ですが、未だ産まれて一日も経っていない幼生ですが?脱皮もしておらず、死んでしまうかと・・・」
「構いません。この子は強い子。あなたの名前は今日からリアクです」
「・・・・・」
「リアク?返事をしなさい」
「は、はっ!」
「よろしい。皆のため、仲間のため、家族のために働きなさい」
この我がビビっている・・・マザーとは・・・。まさか!?このダンジョンの主が我が母であるこのマザーなのではないのか!?それならば納得できる!まずはダンジョンの外へ出て現在地を確認せねば!
元の我の家に到着できれば術構築に入り、依代を見つけ、このような醜悪な魔物の器とはおさらばだ!
〜2日後〜
「(バチン)ダメだ!ダメだ!ダメだ!誰が幼生の内に外へ行こうとするのだ!そんなモゴモゴ動いていたら即、食べられてしまうぞ!
リョーカ様?本当にこんなのが兵隊になれるのですか?アッシは甚だ疑問です」
「マザーが了承しました。脱皮する前の子にこんな事許したのは初めてです。マザーのいう事は絶対です」
「まぁ分かりました。おい!立て!」
「ック・・・まだまだ!」
「ほぅ?確かに気概はありそうだ!続けるぞ!」
「リアク!頑張ってぇ〜!」
「ほら!妹も応援してくれているぞ!」
〜10日後〜
「ほう?幼生のままなのに中々動けるようになったようだな!お?そろそろ脱皮に入るのか?よーし。特別に先生の横で脱皮する事を許してやろう!俺が繭を破ってやろう!わっはっはっ!」
かつては、畏怖され、武道の頂点を極めていたと思っていた。が、それは間違いだったようだ。この大きい兄に我はボコボコにされている。
するとどうだろうか。アブラムシ先生が出す蜜を飲めば飲むほど込み上げるマナが大きくなるのが分かった。
そしてこの込み上げる物が大きくなればなるほど、身体が痒く感じ、皮膚が割れるような気がした。
魔物への転生は初めて故に、我は兄達の言われる事を忠実に守る事にした。
時折りこの兄教官がくれる人間のチョコレイトなる物やポテトチップスなる物が非常に美味なのだ。
しかし・・・我が人間の時にはそれなりに巷には詳しいかと思っていたが、このような食べ物なぞ無かった。
この身体は2回、成虫になるために殻が破れるらしい。成体になればかつてのマナも戻り、魔法も扱えるだろうと信じたい。さすれば、即座にマナで依代を作り、飛行魔法で我の家に戻り、このダンジョンがどこなのか調べなくてはならない。
「リアク〜!頑張ったねぇ〜!私もマザーから名前貰ったんだぁ〜!アイルーって名前だよぉ〜」
「・・・・・・よく喋る雌だ」
〜30日後〜
「中々仕上がりが良くなってきたじゃないか!日頃の頑張りに今日は特別に、既に戦死してしまったが、かつての兄者が取ってきた獲物をやろう!人間の幼生がよく食べている飴玉という物のカケラだ!これはこれだけしかないから、他の弟には内緒にしろよ?ほらよ!」
「あ、甘い!?これは・・・美味である!」
「わっはっはっ!お前は面白いな!」
「えぇ〜!いいなぁ〜!私も食べたぃ〜!」
「ダメだ!これは雄だけにしか食べられぬ物なのだ!」
「・・・・我が貰ったカケラの半分をやる。アイルーも静かに食べろ」
「意外に妹に優しい奴なんだな」
〜50日後〜
「その様子じゃそろそろ最後の脱皮に入るようだな。あぁ。安心しろ。俺が今まで見てきた弟の中でリアク。お前が間違いなく一番だ。お前が雌なら間違いなく女王の器だったろう。
次の遠征隊の中に俺も入る事となった。これから寒い季節になる。まだ見ぬ弟や妹のため、家族のため、仲間のため、偉大なるマザーのために俺は食糧を取ってくる」
「ま、待て!そんな物、我の脱皮とやらが終われば大量に用意致す!兄者達は万事このダンジョンでお待ちあれ!」
「わっはっはっ!脱皮して俺達のように成体に近付けば口調も変わってくるものだな!あぁ。安心しろ!お前が仲間想いな事は知っている!お前は俺の弟だ!弟のために働くのは兄の役目だ!お前はもっと大きくなり他の兄弟のために家を大きくしろ!」
ック・・・。なんか眠くなってきた。身体が痒い。痛い。モゾモゾする・・・。こんな魔物となって最初は嫌だと思っていたが、未だ種族は分からないが、この種族は非常に賢い。
皆が皆のために協力し合って、役割を決めて働いている。非常に合理的な種族だ。それにアブラムシ先生だ。
アブラムシ先生はいっぱい居る。だが皆優しく、甘い蜜をいっぱい食べさせてくれる。当初こそ忌避感があったが、魔物となり性格も変わったのだろうか、我も仲間を大切に思う。この兄教官には世話になった。
世話になったというのに・・・胸騒ぎがするぜ。ダメだ・・・眠い・・・。
「リアクぅ〜!私も眠くなってきちゃった・・・」
「アイルーも脱皮か・・・」
〜60日後〜
「起きなさい。リアク。起きなさい!」
「(プッハァー!)お!?え!?ここは!?」
「見事、成体になれたようだ!飲みなさい」
「お、おぅ・・・アブラムシ先生。すまねぇ〜。それより兄者は!?」
「帰ってきていない。緊急フェロモンを捉えたが、それも少しの間に途切れた。だから救助隊を出すのを女王は辞められた」
「なっ・・・兄者ッッ!!!!」
「こらこら。どこへ行くのか?」
「決まっている!外だ!兄者を倒した魔物を我が刈り取ってやるのだ!!」
「辞めておきなさい。成体となった今、リアクを止める事はできないが、外は危険だよ。人間に見つかればペチャンコにされる」
「あ!リアク!無事、成体になれたんだね!」
「アイルーか。マザーみたいに羽が生えているのか」
「そうだよぉ〜!私はこのお家から出て、新しいお家作らないといけないの!リアクは護衛として着いてきてほしいなぁ〜」
「いや、我はやる事があるのだ。他の弟や妹にそれはお願いしたい」
「えぇ〜!?リアクがいいの!!」
「・・・・・・・・・」
「我が儘ばかり言うな!そもそも我は元は人間だ!」
「リアクの馬鹿!!もう知らない!(パタパタパタ)」
「新女王の旅立ちだぁ〜!皆の者!お腹を下げよ!」
「よぉ!兄弟!あれとはお前が一番仲良かっただろう?一緒に行かなくてもいいのか?護衛の一人も連れていなかったぞ?蜘蛛やカエルとかいっぱい敵が居る中、新しいファミリーを作れるのか?」
「そうだよ?リアクが脱皮している時、殻を守り、割ってくれたのはアイルーなんだよ?」
「アブラムシ先生・・・」
「あぁ。女王様には伝えておこう。リアクは新しい家族のために出て行ったと」
「あぁもう!魔物の癖に何を・・・おい!兄弟!我は妹と共に戻ってくる!その時は皆の為に甘い人間の甘味を持って来てやる!アブラムシ先生!世話になった。またいつか」
「ほっほっほっ。最後の蜜だよ。飲んで行きなさい」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「アイルー!待て!待ってくれ!」
「やったぁ〜!やっぱり来てくれた!」
「は!?待ってたのか!?」
「だって、リアクは優しいの知ってるもん!前に人間の幼生の飴玉のカケラもくれたもん!」
「ッチ。まぁいい。安全な場所だけ見つけ・・・なっ!?ここはなんだ!?どこだ!?草が大きいだと!?」
「ここが外の世界だよ〜!私はマザーから早くに『外を見なさい』と言われてたから知ってたけど!リアクは初めてよね!?ねぇ〜!?初めてよねぇ〜!」
いや、待て待て待て!我は色々な事を知っている。だが、人の背丈より大きな・・・うん!?これは土か!?まさか・・・
「おい!アイルー!我はどのくらいの大きさだ!?」
「え!?大きさ!?私よりは小さいよねぇ〜!」
此奴はダメだ・・・。お!?あれが人間か!?うん!?だが、我が居た大陸の人間ではないな!?黒い髪の人間なぞ見た事がない。まずは話を聞けば・・・
「おーい!そこの人間!!聞こえるか!?私だ!大魔術師のブライアンだ!訳あって今はこの姿だが・・・」
「ち、ちょっとリアク!人間に近付くのは自殺行為よ!特に人間の幼生の雄は高確率でペチャンコに・・・」
我は悟った。ここは我が居た大陸ではない。まずあのような家?か何かも分からない建物は我が居た大陸には無かった。それにあの人間の子供が着ている服はかなり上等のような物に見える。
貴族の線もあるが、貴族の子が土遊びなぞせん。そもそも親が許すはずがない。
ブォォーーーーーーン
「な、なんの音だ!?」
「リアク!伏せて!!!あれはトンボって敵よ!あれは私達を食べるの!(ブーン)きゃっ!リアク〜!助けて〜!」
「なっ、なんだ!?この魔物は!?まるでドラゴンのようではないか!少しだったとはいえ、我の妹に何をしている!」
「キッシッシッシッ!餌が2匹も居やがる!しかも1匹は雌の丸々と太った俺の好みだ!美味そうだ!」
「聞こえぬのか!!妹を離せッ!!」
「煩い蟻じゃ。お前から食ってやろうか!お前は成体になって間もないようじゃ!まだ肉が柔らかそうだな!だがその前に・・・(ブチッ)」
「キャ〜!痛いぃぃぃ〜!」
「キッシッシッシッ!これで雌のお前は飛べまい!そこを動くでないぞ!俺の今日の飯だ!」
目の前の光景が我は認められなかった。元が人間故か、魔物となったと思ったが、まさかこの我が最弱の魔物とも言える、蟻に転生していたとは・・・。
だが、それならば背丈より高い草、身体より大きい土や人間にも納得できる。だが、どうせなら蟻の魔物・・・厄災級の蟻型モンスター、ドグマに転生したかった。
幼体の折は蟻だと認めたくなく、それは考えないようにしていたが、まさか本当に蟻だとは・・・いや、それより今はこの禍々しい敵・・・我の国に居た昆虫型モンスター、ルリボシに似た此奴を殺さなくてはならない。
「おい!デカブツ!これでも喰らいやがれ!滅びの炎よ!全てを灰燼に致せ!【エクスプロージョン】」
「「・・・・・・・・」」
「なっ・・・魔法が発動しないだと!?いや、今一度・・・滅びの・・・」
「キッシッシッシッ!何をやっておるか!チビ蟻!(ガジッ)リアク・・・逃げてぇ・・・」
「キッシッシッシッ!俺が蟻1匹のギ酸如きに倒れるわけないだろ!」
「グヌヌヌ・・・蟻になったとはいえ、かつては大魔術師にまで上り詰めた我が魔法を使えぬとは・・・だが、このような時のために体術も極めた!妹よ!お前だけは助けてやる!(ガジガジガジ)」
「キッシッシッシッ!効かぬ!効かぬぞ!」
『わぁ!ママ!ここでアリしゃんとトンボが喧嘩してる〜!』
『こら!虫なんて触ってはいけません!』
『トンボしゃ〜ん!』
「チッ。人間か。後でお前達を食いに戻る。せいぜいそこで待っていろ」
『あっ!トンボしゃ〜ん!待って〜!』
「ック・・・人間の子供に助けられたか。おい!アイルーだい・・・じょ・・・そ、その羽は!?大丈夫なのか!?また脱皮すれば治るよな!?」
「リアク・・・良かった・・・無事で・・私はもう飛べなくなっちゃった・・・もう脱皮できないんだよぉ・・・」
「っなんでだ!何故、我を助けた!?」
「だって・・・リアクは優しいもん!昔、飴玉のカケラくれたもん!」
「いや、あんな物に・・・どうするんだよ!?新しい家族作るんだろ!?」
「もう無理だよ・・・羽のない雌なんて誰も子作りしたいなんて思わないでしょ・・・」
「とりあえず、動くなよ!我が安全な所まで運んでやる!そもそもの魔法が使えないのがおかしい。マナは感じるのに使えないなどとは魔術の根源からおかしいのだ!ここは今一度、初心者がするような術式魔法に切り替える!ック・・・身体が小さいのがこんなに苦労するとは・・・」
「下ろして・・・私が囮になるから・・・リアクはその大魔術師ってのだったんだよね?元は人間だったんだよね?なれるといいね!」
「いや、アイルー!待て!本当だ!本当なのだ!証拠は今は見せられないが本当なんだ!」
「私は信じてるよ!マザーもリアクは何か違う子って言ってたもん!私はマザーの血が1番濃く受け継がれたから私も特別にマザーの教育を受けたの!」
まさか蟻如きにこんな人間のような感情があるとは思わなかった。賢者とも言われた我でも知らぬ事が未だあるとは・・・。いやそんな事より・・・。
「アイルー!何か大きな円を書く方法はないか!?」
「何でそんな事するの?」
「いいから!あっ・・・待てよ?今の我は小さい・・・元の魔法陣でなくとも中身をしっかり描ければ術式魔法は行使できるはず!棒は!?グヌヌヌ!木の切れ端がこんなに重く感じるとは・・・」
「キッシッシッシッ!こんな草陰に隠れていたか!」
「なっ!?お前!」
「リアク!これを使って!(ブチッ)何をするか分からないけど、どうせ私の羽なんて必要なくなったから・・」
「アイルー・・・お前は・・・。どんな事があろうとお前だけは助けてやる!少し待ってろ!ック・・・術式魔法なんか何百年振りだ!?確かここをこうやって・・・」
ブォーーーーーン
「キッシッシッシッ!また人間の邪魔が入るといけないからな!美味そうな雌の方から食べてやろう!」
「リアクぅ・・・・」
「よし!顔なんて元の顔でいい!とりあえず・・・。【イリュージョン】」
シュルルルルルルルー
「よし!成功だ!まさかこの我が初心者の赤子が使うような術式魔法を使う事になるとはな!アイルー!待たせたな!おい!馬鹿トンボ!お前だ!(ブチ)」
「(パタパタパタパタ)」
「うーむ。マナで簡易的に作った依代でも虫と人間では意思疎通ができないのか。これは初めて知ったな」
「ママ〜!あそこでがいこくじんの人がトンボ虐めてる〜!」
「見ちゃダメ!早く帰るわよ!」
うむ。国は違うようだが、人間の言葉は分かるようだな。そうか。元の我の姿を外国人とあの子供は言ったな。ならやはり大陸が違うようだ。
「人間となった今・・・使えるだろう。【コンパー】」
『な、な、な、に、人間!待ってくれ!俺は死にたくない!離してくれ!』
「うむ。通じるようだな。おい!言葉分かるか?今しがたお前が食おうとした蟻だ!お前は死刑に値する。我に危害を加えた。よって死刑。我の妹であるアイルーを食おうとした。よって死刑。アイルーの羽を千切った。よって死刑。な?死刑しか有り得ないだろう。それに片一方の羽しかないのは不恰好だ。我が千切ったのだが、もう一方も千切ってやろう。(ブチブチ)これでお前はもう飛べん。確かあっちがマザーの家だな」
「ま、待ってくれ!俺が悪かった!許してくれ!」
「許さんよ。魔物・・・いや、虫への転生は初めてだったが、まさかこんなに人間に近い感情があるとは思わなかった。それを教えてくれた事は感謝しよう。これほどの怒りはかつて、我を陥れようとした偽勇者以来だ。もちろん、無限牢獄に取り込んでやったがな。お前は姉、兄、妹、弟・・・そしてマザーの糧となれ。
風声よ聞き届け給え。穏やかな風のままにこの獲物を届け給う。【エアーシュート】」
シュゥゥゥゥ〜〜〜
「うをぉぉ〜!待ってくれぇ〜!死にたくない!」
「無理な願いだ。生き物故、弱肉強食は当たり前だからそこに関しては文句は言わん。が、我を襲った己を憎め。アイルー!よいしょっと・・・リアクだ!噛み付かないでくれよ?今、傷を治してやるからな!」
「ヒィィィィ〜・・・・」
まぁ、我が逆の立場でもこれは驚くな。まぁ蟻の姿も世界も悪くはなさそうだ。暫く遊んでみるか。
シャルルルルルル〜
「よいしょっと・・・。アイルー?大丈夫か?な?我だろう?」
「え!?本当に・・・リアクなの!?」
「あぁ。そうだ。人間と言ったのは本当だろう?」
「でも・・・」
「このアイルーの羽で助かったんだ。ありがとう。礼を言う。それでだ・・・。まずは・・・羽が無くなったから怪我扱いになるのか?まぁいいか。森羅万象 彼の者の傷を癒やし給う。【キュア】」
「「・・・・・・・・」」
ック・・・我とした事が、まさか蟻の姿に戻れば詠唱魔法がまた発動しないとは・・・。
「リアク・・・」
「うむ。今のは軽い冗談だ。あ、すまぬ。今一度、羽を借りても良いか?うむ。すまぬ。これで良いか。【キュア】」
ポワン
「え!?あれ!?羽が・・・」
「よし。成功のようだ」
「(スリスリスリ)な、なんだ!?アイルー!?どうしたのだ!?何故、身体を擦り付けるのだ!?」
「ありがとう!リアクありがとう!私嬉しいよ!リアクがどんな者でも私はリアクの事が全兄弟、姉妹で1番好きだよ!マザーより好きだよ!」
「そ、そうか。ありがとうな」
「けど・・・リアクは本当に人間だったのね。驚いちゃった」
いや、我ならいきなり兄弟が人間になればその場で驚愕死してしまいそうだが。
「だから言ったろう?」
「ならリアクは・・・」
「いや、大丈夫だ。そりゃ、この国の人間の生活も気にはなるが、蟻の生活も存外に面白いと思った。人間の頃より冒険が凄そうだ。アイルー?新しい家族を作るんだろう?我はアイルーの護衛だからな。世界で一番安全な家族を作る手伝いをしてやろう。偶に、人間に戻り、人間の物も食わせてやろう」
「本当っ!?嬉しいぃ〜!ありがとう!」
人間の美的感覚もあるが、蟻の美的感覚から見てもアイルーは美しいと思う。まぁ、また時限術式だけ構築しておけば、死んでも転生できるのは間違いないからな。暫くこの蟻の世界とこの大陸の世界で遊んでみるか。
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