第13話 元凶
放課後も今朝と同じ要領で熟した。百名ほどに話しかけ、籤を引いてもらうも夕方ということもあってか、あまり良い感触は得られなかった。早く帰りたい、という理由が大きいだろう。
今日一日を通して二百人強といったところ。籤の大半が無駄になったが英明にとってはあまり落ち込む要素ではない。楽しく引いてもらわないと意味がないからだ。ただ、惰性的に引かれても両者にメリットはない。
一通り終えたので、堂島の元へ向かうことにした。
情報処理室は上履きを脱ぐことになっているため、部屋の外に簡易的な下駄箱がある。そこには一足があった。『堂島』と踵の所に書かれている。
英明は彼の靴より遠くの場所へ上履きを入れて、中へと入った。
「明智先輩、来てくださいましたか!」
デスクトップのパソコンが五十台ほど並べられた中で一番出入り口から遠い奥に座っていた。英明は慎重な足取りで彼の所まで歩く。彼の正面にある画面とその左隣の画面が点いている。そこに座れとのことだろう。
席へ座ると、堂島は『ありがとうございます』と言いながら、早速マウスを動かした。
「まずは、これをみてください」
時間を気にしてか、早速本題に移っていく。
パソコンの画面には、裏掲示板でもなく、学校のホームページでもなく、十人の名前がエクセルに打ち込まれていた。
「なんだ、この名前」知らない名だが、唯一、田中隆ってのが前生徒会役員だった気がする。あやふな記憶なので確かだとは言いがたいが。
「やはり心当たりないですよね」英明のリアクションが分かっていたかのように肩を竦める。
再度、田中以外の名前を目で追ってみるも、知らない名だ。同学年なのか、他学年なのかすら分からない。
「この人達は、明智先輩の噂を流布した発生元です」
「はっ?」
「えぇ言いたいことは分かります」左手を英明へ向けて制する。「一人じゃないのかと。同時多発的に噂が示し合わせたように起こるのかと。ですが、ひとまず僕の話を聞いてください」
そこからの話はこうだった。
明智英明の話を耳にすることが多く、その噂をする人物に堂島が聞き込みをしたそうだ。何十人何百人と。そして、辿り着いたのがこの名前の人達。
彼ら彼女らに噂を誰に聞いたのかと探るもそのあとはぐらかされたので、発生元に違いないとのことだ。発生元からは十人ほどに噂を伝えており、しかも明智英明が高校へ戻ってきた三日前から同じく吹聴していたのだ。
「なるほど。この十人が十人に広めれば、百人。それがさらに噂を広げ、一日に一人が四、五人でも広がれば、六百人は余裕で超えるだろうな。オレの噂を知る者が」全校生徒の半分だ。
「えぇ。まるでマルチの勧誘みたいにその規模は膨れ上がる。だからこそ、ここまでの広がりようなんです。で、本題はこっからですよ」
マウスを手に取り、さっきの十人をぐるぐるとカーソルで囲う。
「この十人がなぜ明智先輩の噂を流すのか、それを探るべく周りに聞き込んだ所、一つの共通点があったんです」
「共通点?」
「はい。みなさん、明智先輩が高校へ帰ってくる前の週の金曜日。生徒会室に全員が足を運んでいるのです。要するにこの十人へ広めた元凶がいるんですよ」
耳許でキーンという音が響き、息を止めた。
「生徒会に向かう時間帯は全員バラバラで彼ら彼女らの友人には何の用事かを伝えなかったみたいなんですが。友人達は気になってでしょうね、後を追うと、周りを気にしながら生徒会室に入っていったんです」
おそらく、友人達は、面白半分で追ったのだろう。誰かと付き合ってるのか、先生に怒られたのかな、なんて勘ぐりが働いた所、生徒会室に入ったのを目撃した。
「帰ってきた彼ら彼女らは元気がなかったそうです。加えて、誰も生徒会室での出来事は言わなかった」
「それが堂島の言う証拠だと言うのか?」
「えぇ。生徒会室はドアに鍵が掛かっています。毎回、生徒会の誰かが鍵を開け閉めする。鍵は職員室にありますから生徒会以外の人間が使えば怪しまれるのでそんなことはできません。長時間鍵が無いと気づかれますからね。あっ、先に言っておくと、生徒会室の鍵の使用簿なんて有りませんから、その日誰が使ったのかは分かりません。その鍵の近くにいた先生方に聞いても誰が来たか、誰が使っていたかは覚えてないとのことです」
何回も生徒会室の鍵を同じ日に使うなど、生徒会メンバー以外にはあり得ないということか。生徒会以外の者が使おうとすると、何かしら聞かれるだろうし、先生方の記憶にも残るだろう。
今年度生徒会は、あの五人しかいない。
堂島はマウスについたホイールを下へ擦ると、たくさんの名前が枝葉のように書かれていた。
「これが聞き込みをした結果で、誰が誰に噂を聞いたか書いてあります。もし、嘘だとお思いでしたら、これを元に聞き込みしていただいても構いません」堂島の真っ直ぐな目から顔を逸らし、更によく見てみる。マウスを堂島から貸してもらいスクロールするも、やはりこれが嘘だとは思えない。調べ上げた堂島に執念すら感じた。
「分かってもらえましたか」
「堂島の言いたいことは分かったよ」
今の話を聞くに、この十人を徹底的に問詰めれば何かしらの情報を得られるだろう。堂島がいう元凶とやらが。
「じゃあ__」
「仲間を疑う気はねぇよ」
堂島は呆れたように瞼を閉じた。
「論理的じゃないですね」
「たとえ、アイツらがやったのだとしても、過ぎたことだ。もういいよ」
「……そうですか。残念です」
パソコンからUSBを取り外し、パソコンをシャットダウンさせる。可愛らしい緑の怪獣のキーホルダーがUSBには付いていた。
「さようなら、明智先輩」
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