第23話 私書箱
「私書箱の番号を」
カウンターのお姉さんに無表情で言われた。
郵便局の窓口だ。
いなかの街の小さな郵便局。でもカウンターのお姉さんは、なかなかの東京美人。茶色くカラーリングされたセミロングの髪もきれいだ。愛想はないけど。
「あの、私書箱の番号を」
「あっ、はい、そうでした!」
おれはジーンズのポケットに折りたたんで入れていた書類をだした。
「ええと、Hの一〇九四……」
書類に書かれてある番号を伝えた。私書箱を使用する人が増えすぎたため、私書箱の番号は新方式になったらしい。番号はかなり長い。
長い番号を伝えると、ひと息つくひまもなく、次の事務的な問いがきた。
「身分証明書はお持ちですか?」
「ああ、はいはい」
書類を入れていたポケットとは反対のポケットへ手を入れ、免許証を取りだした。
「はい、免許証です」
「確認します」
受付のお姉さんは、おれの免許証を両手で受け取り、その表面へ目を走らせた。
「はい。確認できま……えっ、竜?」
お姉さんは顔をあげた。
「お客様、乗りものは竜ですか?」
そこに注目されちゃうのか。となりで荷物をだそうとしている老人までがおれを見ている。
「あっ、はい。ふつうの竜です」
なにが「ふつうの竜」なのかわからないけど、思わず言った。
カウンターのお姉さんは身を乗りだし、ガラス張りの窓から外の駐車場を見まわした。
「あっ、ここの駐車場には停められないんで、近くの廃工場に停めてあります」
郵便局から歩いて十五分ほどのところにある廃工場だ。
「ちっ」
受付のお姉さんが舌打ちする音が聞こえた。残念そうな顔で、茶色くきれいなセミロングの髪を耳にかけた。けっこう美人なお姉さんだけど、性格はよくないのかもしれない。
「では、私書箱を確認してまいります。少々、お待ちくださいませ」
お姉さんは席を立って、郵便局の奥へと消えた。
「あんた、
声をかけてきたのは、となりで荷物をだそうとしているおじいちゃんだ。
「はい、一応」
「ダンプの運ちゃんに見えるがなぁ」
おじいちゃん、それは単におれが「ねじりはちまき」をしているからだと思うけど。
「お待たせしました。魔導速報が三通きております」
受付のお姉さんがもどってきた。魔導速報、つまり電報だ。
「く、ください!」
三通もきているのか。広告をだしたばかりで、もう依頼が三件!
「はい、ひとつはこちら」
ふたつに折られた紙を受け取った。ひらいてみる。これが「黒竜ヤマトの特急便」の初仕事になるのか!
「これを受け取ったあなたに大チャンス! 金・銀・プラチナをありえないほど高価で買い取り!」
あっ、そゆことね。広告をだしたら、広告で返されたってことだ。たしかに私書箱にむけてダイレクトメールってだせるよな。
「もうひとつが、こちら」
お姉さんから、また半分に折られた紙を受け取る。
ひらいてみた。
「竜の特急便って、会社名だと思われますが、竜と書くのは
すごく長い文章が書かれてあったので、そっと紙をとじた。
なるほど、私書箱へはだれでも送れるもんな。電報って一文字につき値段が増えるのにあの長文。変わった人というのは世間に多くいる。
「では、最後の一通を」
「はい」
ふたつ折りの紙を受け取った。おれ、ちょっと簡単に考えすぎてたみたいだ。そんなすぐに依頼なんかこない。
「三万円で書類の輸送を願う」
最初の文字を読んで思わず止まった。依頼だ。
場所は静岡。これはいいぞ。自衛隊の演習場が静岡だった。あのあたりの空はおぼえている。
「きょ、今日だ!」
待ち合わせの住所と日時が書かれてあった。今日の十三時。あと二時間だ。
「しまった、地図を忘れた!」
せっかくシオリさんに航空地図をもらったのに、家に忘れてきた。くそっ、家までもどるか。でもかなりの時間ロスとなる。
「どこの地図ですか」
ふいにカウンターのむかいに座るお姉さんに聞かれた。
「静岡です」
お姉さんに答えながら、さらに気づいた。おれはリュックも忘れている。
「お貸ししましょうか」
「えっ?」
「特別に」
「静岡の地図があるんですか」
「全国の地図があります。郵便局ですから」
聞けば、郵便局には番地を記載した地図があるらしい。それも全国。
考えてみれば、なんでもネットで調べることができたのは旧世界だ。いまの世界だと各郵便局には全国の地図が必要になるのか。
「交換条件があります」
受付のお姉さんが真剣な顔だ。交換条件。つい先日におなじ言葉をシオリさんから聞いたばかりだ。
「ひょっとして、竜に乗せろとか」
「近いです」
受付のお姉さんは声を小さくした。
「来月にわたしは同窓会があります。終わりごろ、あなたの竜でむかえにこれないですか?」
「それって、同級生をおどろかせたいんですか?」
おれも声をひそめて聞いてみた。しかし受付のお姉さんの返ってきた答えは予想のななめ上だった。
「まえの同窓会で、彼氏が馬車でむかえにきたクラスメートがいたんです。むかつくでしょ」
なるほど。これは「
「そんなことでよければ」
「じゃあ、交渉成立。ちょうどね、いまここの郵便局長は山奥へ配達にでていないのよ」
おぅ、きっとその人って自転車に乗っておれんちから帰っているところだ。あのおじさん、ここの郵便局長だったのか。まあ、小さな郵便局なので人もすくないと思われる。
「あの、調子に乗ってなんですが、バッグも借りることってできます?」
「オッケー」
そうこうして待つこと数分。おれは静岡の地図と、郵便局員がつかっている黒いレザーの肩かけカバンを手に入れた。
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