第10話 夏の初日
あの後、2日間何も面白いことも無く、夏休みに入った。
夏休み1日目から俺は家でソファーの上でゴロゴロしている。
(暇すぎて死にそう。)
美咲は今、友達と遊びに行っているので5時まで帰ってくることもない。
その時、家のチャイムが鳴る。
こんな昼間に誰だと思い、俺は玄関まで歩いていく。
俺は、玄関のドアを開けるとそこに居たのは...伊藤さんだった。
「おま、何してるんだこんな昼間に」
「夏休み前に運動すると言いましたよ?」
「あ、あれか...」
静かにドアを閉めようとする。
「逃げちゃダメです」
「はぁ、分かったよ。」
俺は、ため息をしながら、ドアを開ける。
正直何目的なのか、分からないが真剣な目で見てくるので断りにくい。
とりあえず、外は暑いので家に入れることにする。
家に伊藤さんを入れて、居間で待っててもらう。
俺は、台所の冷蔵庫からお茶を出し、コップとともに居間に持っていく。
「...ありがとうございます」
「ここまで歩いてきたんだろ、お茶ぐらい飲め」
伊藤さんの前にお茶の入ったコップを出す。
お茶を飲んでもらっている間に、自分の部屋まで行き、ジャージを着ることにする。
ジャージを着終え、俺は居間で戻る。
伊藤さんは、俺の方を見てほんの少しだ け微笑んで「運動しますか。」と言う。
俺はそれに「はぁ」と深いため息をつく。
俺が玄関に歩き出すと、伊藤さんも付いて来る。
玄関のドアを開けるたら、外から熱気が俺の顔に当たる。
(これ...死ぬやつやな。)
玄関先で、もう暑すぎる。
こんな暑さの中での運動は、体力より熱中症によって死ぬ事の方が高い。
俺は、伊藤さんの無表情の顔からやる気を感じ、後に引けないことを察する。
「今日は、サッカーをしてもらいます」
「え?こういう時って走るとかじゃないの...?」
「涼太さん、サッカーが好きなのですよね」
「まぁ、走るよりは」
以外な事をやらせるらしく、俺は驚きを隠せない。
サッカーだとは、誰か思うのだろうか。
それなら俺的にも好都合だし、ボールを蹴るだけなら、走ることもない。
でも、どこでサッカーをするつもりなのだろう。
「でも、どこでサッカーやるんだ?」
「川沿いのサッカーできる場所でやりますよ」
俺は、そこを思い出す。
そこは、俺が中学生の時に練習をした場所だ。
結構思い出がある場所だが、それと共に苦い思い出でもある。
頷いてそのサッカー場まで、2人で歩いて行くことにする──────。
俺たちは、サッカー場にそろそろ着きそうになる。
「何で俺にサッカーをさせるんだ?」
「運動させたいだけです。」
伊藤さんは、髪を触りながら俺に話す。
そういえば、今日の伊藤さんはポニーテールにしている。
弓道の時にも見たんだが、ジャージを着ている伊藤さんも、とても似合っている。
これはこれで、可愛い。
俺は伊藤さんを見ながら少し微笑んだ。
サッカー場に着くと、伊藤さんが持ってきていたボールを俺に渡す。
「まず、リフティングを50回を3セットやってください」
「最初からキツイことさせるな」
「休憩はしっかり取らせるので大丈夫です」
久しぶりのリフティング、体が固まっているので、準備運動からやることにする。
準備運動を終え、リフティングを始める。
10...20...30...40回と、俺は数えていく。
五十回行ったので、伊藤さんが近ずいて来る。
「もう少し、難しくするべきでしょうか」
「これ以上は、やめてくれ。」
これをあと2回やらなきゃ行けないので、またリフティングを始める。
慣れてきたのか少し早めに2回目は、終わることが出来た。
伊藤さんは少し驚いているが、3回目をやる事にする。
早く帰りたいのだが、ここまで来たら早く終わらせて、家のクーラーで涼んでいたい。
そう考えながら俺は、3回目を終わらせた。
「驚きました、ここまでサッカーができるとは」
「リフティングなら誰でも出来るだろ?」
「50回をミスなしで出来るなんていませんよ。」
少し俺も考えるが、普通に50回を三セットミスなしは、初心者には無理なことだ。
また、伊藤さんに誤解されなければ...
とりあえず、次の指示を俺は待つことにした。
伊藤さんは、少し考えたあと俺に次の指示を出す。
「ここから、ボールを蹴って1回浮かせて入れてください。」
「え?」
俺は、聞き間違えたのかと思った。
この距離から..また俺の足が筋肉痛になる。
だいたい35メートルぐらいの距離があり、この距離はミドルシュートと言う難しいシュートだ。
それも「浮かせて入れて」と言われているので、かなり難しい。
とりあえず、やらないと終わらなさそうなのでやってみる事にする。
俺は、ボールのもとに走り思っきりボールを蹴る。
「ボン!」と音を立ててボールか真っ直ぐゴールに吸い込まれていった。
「この距離で入るなんて...。」
「俺も入ると思わなかった」
伊藤さんが俺の近くに近ずいて来る。
「明日から毎日練習なので準備しておいてください」
「ちょ待って、勝手に決められても」
「少ししかやりませんので大丈夫です。」
そう言いながら、帰ろうとするので俺は、ボールを持って付いて行く───。
あの後...伊藤さんが家に帰り、俺も自分の家に帰った。
玄関の時計を見ると、午後4時だった。
俺は、30分程お風呂に入り、体を綺麗した。
お風呂から出て、台所まで歩いていき今日のご飯を作ることにする。
「あと30分で、美咲が帰ってくるから早めに作るか。」
今日のご飯は素麺、茹でるだけなのですぐにできる。
俺は、早速お湯を沸かそうと鍋を取り出して水を入れていると、美咲が帰ってきた。
まだ5時では無いので、早めに終わったのかと思う。
美咲は少し大きな足音を立てながら、台所に来る。
「お兄ちゃん!今日のご飯は?」
「今日は、素麺だぞ。」
「やったぁ!!冷たいものだぁ!」
初日からこの暑さだ、美咲も友達と遊んで疲れているだろう。
それに俺も食欲がないので、素麺は俺にとっても最適な食べ物だ。
美咲は「お風呂に入ってくるね!」と言って、お風呂場に走っていく。
俺は、鼻歌を歌いながら素麺を茹でる。
数分後...俺は全て作り終え、素麺と麺汁、少しだけ残っていた天ぷらを居間の机の上に置いた。
お風呂から出る音が聞こえたので、俺は椅子に座って待つことにする。
美咲が、居間に来て「待っててくれてありがとね!」と言いながら椅子に座る。
俺たちは、手を合わせてご飯を食べようとすると玄関のチャイムがなった。
美咲に「先に食べてて」と言い玄関まで行く。
こんな時間に誰だろうと思いながら、ドアを開ける。
そこに居たのは...伊藤さんだった。
「こんな夜にどうしたんだ?」
「...恥ずかしながら鍵を貴方の家に置き忘れて...」
伊藤さんは、無表情なんだが少し恥ずかしそうにしている。
少し考えながら、玄関の机の上の鍵置きから鍵を取り、見せた。
「もしかして...これか?」
「は、はい。」
確かサッカーをしに行こうとした時に、居間の机をみると鍵が置いてあったので、鍵おきに入れて置いた記憶がある。
これが、伊藤さんの家の鍵とは誰も思わないだろう。
何故かと言うと、鍵にはクマの形をしたキーホルダーが付いているからだ。
可愛いものが好きなのは、研修で知ったのだが、ここまでとは思わなかった。
「4時に俺たち帰ったよな?伊藤さん何してたんだ?」
「...」
「もしかして、今まで外にいたのか?」
「...はい。」
俺は驚愕する、こんなに暑い中でいたら熱中症になると思ったからだ。
咄嗟に、伊藤さんの手を握って家に入れる。
伊藤さんが少し驚いているが熱中症になってる可能性があるので、美咲を呼ぶ。
「美咲!冷たい水持ってきて!」
美咲は「分かった!」と言いながら水を取りに行ってくれる。
取りに行ってもらっている間に、俺と伊藤さんの頭の温度を比べてると伊藤さんの頭がとても暑い。
「お兄ちゃん持ってきたよ!」
「ありがとう。」
俺は伊藤さんに水を渡す。
一言だけ、伊藤さんが「ありがとうございます。」と言いながら水を飲む。
安堵しつつ、美咲の頭を撫でる。
美咲は俺に「お兄ちゃん、そう言う所がかっこいいね。」と言ってくる。
なぜ、かっこいいのか分からないが、あんなに暑いところにいたらもしかしたら倒れてたかもしれない。
伊藤さんが水を飲み終える。
「...涼太さんありがとうございます。」
「気をつけろよ。」
少し、伊藤さんが俺の顔を見て、顔を逸らす。
何となく変な人と思われたかもしれないが、そんなこと気にしている場合ではなかったのだ。
俺がそう思っていると、伊藤さんのお腹がグゥーとなる。
美咲がその音を聞き、少し笑いながら「伊藤さんと、ご飯食べたい!」と言う。
別にもう一人分なら作れるので、一応聞いてみることにする。
「伊藤さんが良ければ、ご飯食べてくか?」
「...いいんですか?」
「作れるからな、遠慮するな」
「...分かりました。」
そう言うと、美咲が居間に手を繋いで連れて行く。
俺は、台所に素麺を茹でに行く事にした。
茹で終え、氷水に素麺に付けて、居間まで持っていく。
美咲が前みたいに、伊藤さんに話しかけているらしい。
俺が居間に着くと同じタイミングで、自分の席に戻る。
「伊藤さんお待たせ、素麺だ。」
「ありがとうございます...。」
少しだけ、美咲に近づきながら「なんか変なこと伊藤さんに言ってないよな?」と耳元で話す。
美咲は、口笛で誤魔化貸しているので、とてもわかりやすい。
(こいつまた変な事、言ったな...。)
そんな事よりもだ、俺は素麺の硬さを確かめていないなかった。
伊藤さんの方を向くと、表情では分からないが、素麺を食べているので、よほどお腹がすいていたのだろう。
「伊藤さん美味しそうに食べてるね、お兄ちゃん。」
「そうだな」
俺たちは、伊藤さんを優しく見守ることにする。
こんなに美味しく食べてくれるのだから、作り甲斐がとてもあった。
自分の素麺が伸びてしまいそうなので、俺も食べることにしよう──────。
みんな食べ終え、伊藤さんが俺の方を向いてくる。
「...ご飯美味しかったです」
「それはどうも」
伊藤さんはそう言いながら、家に帰ろうとしていた。
玄関まで見送り、ドアを開けた瞬間に伊藤さんがこちらを向いた。
「明日も朝に来ますね」
俺は苦笑いで、「分かったよ」と言う。
伊藤さんがドアを閉め、ため息をついていると、美咲が見に来る。
そりゃそうだ、こんな夜に伊藤さんが来るのは、珍しいからだ。
「お兄ちゃん、今日も一緒に寝よ!」
「無理って言う選択肢は?」
「無いよ☆」
美咲は、俺の絶望している顔を見て笑っている。
一緒に寝る事も恥ずかしいのに、それに加え、夏の夜だ。
クーラーが付いてたとしても、美咲は俺にしっかりとくっ付いて来るのであまり意味が無い。
でもまぁ、押しに弱い俺にとって断る事が出来ないので「夏休み中は、これで終わりだぞ?」と言う。
少し悲しそうにしているが、俺にとっても今回は引けない。
美咲は口を膨らませながら「わかったよ!」と子供のように怒る。
とりあえず、俺はご飯のあと片付けをしようと思う。
美咲が階段を登って、俺の部屋に行く。
俺は食器を持ちながら、台所の洗い場に置いて水で洗う。
(今日は、伊藤さんにサッカーを個人的にみせたけど、変な考察されてないといいが...。)
偶然と言っても、あの位置からのシュートだ、並大抵では出来ない。
俺も蹴った時は、入らないと思っていたのであの時、結構内心驚いでた。
そんな事考えててもしょうがない、明日からも伊藤さんは、多分俺の家に訪れる。
俺は、親が帰ってくる時にどのように隠すかを考えなきゃいけない。
サッカーの事よりも、そっちの方が重大な事だ。
苦い顔をしながら俺は、洗い物を済ませる。
洗い物も済んだので、階段を登り自分の部屋にドアを開けた。
俺は衝撃を受けた...。
俺の目の前の光景は、美咲が俺のシャツの匂いを嗅いでいる。
手から、自分の来ていたエプロンを落とし、見てはいけない物を見たような気がした。
「おま...何してるんだ?」
「え...これは...えっと。」
俺は、少し怒った顔でゴホンゴホンと声を出す。
「今日一緒に寝るの無しな」
「許してぇ!お兄ちゃん!」
「ダメだ」
腕を組みながら、俺は不機嫌な表情を浮かべる。
俺の腕に擦り寄ってくるが、誘惑されないように無視するような態度をとることにした。
数分過ぎたくらいで、美咲がしょんぼりして正座をしている。
俺はベットに座り、何であんなことをしていたのか聞くことにした。
「美咲、何で俺のシャツを嗅いでたんだ?」
「思わず嗅ぎたくなって!てへっ☆」
頭に手を当てながら、だからこいつは一人にさせれないなと、俺は思った。
てへって言う言葉は、ラノベで死ぬほど見てきたが、リアルでされる腹が立つ。
それは、美咲の場合の可能性はあるが。
と、そんなことを考えていたら、時計は11時を指していたので俺は寝ることにする。
「俺もう寝るから」
「お兄ちゃんの隣だぁ!」
「はぁ、分かったよ。」
俺は、少し嫌そうな顔をしながら布団の中に入った。
親が家に帰ってくるのは、8月13日だ。
それまでに、対策を考えておかなきゃいけない。
俺は、サッカーの疲れもあり、数秒で眠寝てしまった。
「ん〜...」
俺は、何時間寝ていたのだろう。
窓を見ると、外は明るかった。
布団をどかそうとすると俺の手になにか当たっている。
絶対変なものを触っていることは、寝起きな俺でもわかった。
「お兄ちゃん、私のことが好きだからって...ダメだよ?」
美咲は、顔を赤くしている。
「違う、これは事故だ!」
「それぐらいわかるよw」
少しバカにしているような顔で見ているので、俺は頭を優しく叩く。
頭をおさえながら美咲が笑っている。
俺はベットから立ち上がり、ポールハンガーからエプロンを取ろうとしたら、家のチャイムが鳴った。
こんな早くから伊藤さんが来るとは、考えにくい。
自分の部屋の時計を見ると、今の時間は11時、まだ昼では無い。
美咲が不思議そうにしていてたので、俺は誤魔化す。
「あ〜そう言えば、俺今日の朝に荷物頼んでたんだ。」
「本当に〜?じゃ〜私は、お兄ちゃんのベットで寝てるね。」
美咲はそう言いながら、俺のベッドでまた寝始めた。
俺は、自分の部屋を後にし、玄関に走っていく。
心を落ち着かせて、ドアをゆっくり開ける。
やはりそこに居たのは、伊藤さんであった。
予想通りだったが、ここまで早く来るとは誰が思うか。
いつも通り、伊藤さんは無表情で立っている。
「今日も来ました」
「少し早くないか?まだ朝ごはんも食べてないんだが。」
「そうなんですか...」
伊藤さんは、少し考えながら何か閃いたらしい。
「朝ごはん、作りますよ?」
少し驚いた、朝ごはんを作ってくれると言うとは思わなかった。
俺は、伊藤さんのご飯を食べるのは久々だと思う。
あの時は確か、生姜焼きだったような気がする。
とても美味しかったので、もう一回食べたい。
俺は、伊藤さんの提案に甘えることにしようと思う。
「本当に良いのか?」
「良いですよ。」
伊藤さんを台所に連れていく。
台所に行くと、伊藤さんは早速俺の家の冷蔵庫を見る。
昨日は、色々と買い物で買い込みしておいたので冷蔵庫は沢山材料が入ってるので大丈夫そうだ。
魚と野菜を取り、ご飯を作り始めた。
俺は、伊藤さんの作っている所を静かに見ることにする。
やはり、初めて料理するところを見るがとても包丁さばきといい、炒め方といい、とても上手だ。
「本当に料理上手いな、伊藤さん。」
「そろそろ、さん呼びやめてください」
伊藤さんが、料理を作りながら俺の方を見ている。
「下の名前でも良いのか?」
「良いですよ、さん呼びされるとなんか変ですから。」
確か、本名は伊藤友里だったので、友里と呼べばいいのか。
俺的には、少し恥ずかしいような複雑な気持ちだ。
こんな俺でも、下の名前で呼べるのが特別な感じでとても嬉しい。
友里は、そう言いながら料理の方に集中する。
「それじゃ、俺の事も涼太でいいよ。」
「そうですね」
火を止め、料理を盛り付けている。
それにしても、香ばしい野菜の匂いが俺の鼻を刺激する。
焼き魚もいい具合に焼けてて、これは美味しいやつだ。
そんな事を思っていると、美咲が凄い音で階段を下りてきて、居間に見に来る。
「とてもいい匂いがする〜!」
「やはり来るか...」
「伊藤さん!?なんでいるの?」
俺が頭に手を当てる仕種をすると、伊藤さんが少し笑ったような気がした。
美咲がびっくりしているので、これはまた変な誤解されたと思う。
美咲に近づき、耳元で事情を話す。
話終えると、美咲は笑顔で頷くので少し心配になる。
「二人分作っていますので、食べてください。」
「やったぁ!食べる食べる!」
「はぁ、迷惑かけて申し訳ないな」
「作りたくて、作っているだけなので」
友里は、そう言いながら作りたての料理を居間に持ってきた。
俺も手伝うことにする──────。
料理を運び終え、目の前にはとても美味しそうなご飯が置いてある。
魚、野菜の炒め物、漬物.........
一般的な家庭料理が多いが、キラキラしてて眩しい。
俺の料理は、友里に食べさせたことがあったが美味しいらしいが、それ以外は無い。
目でも美味しいと思える、友里の料理はすごいと思った。
冷えてしまわないように、早めに食べることにする。
俺と美咲は、同時に手を合わせて『いただきます』と言う。
野菜炒めを口に入れると、俺は確信した。
(やっぱりこの味好きだ。)
塩コショウのちょうどいい味加減、炒め具合、全て素晴らしい。
俺は口を動かしながら、美咲の方を見る。
美咲は、美味しそうな顔で食べているので、俺は少し笑う。
俺たちを見ながら、友里は口に手を当ててほんの少しだけ笑っている。
(久しぶりだなこんな感情は...)
中学二年生以降、こんな感情になったことが無かったので、俺は心が暖かくなった。
それにしても、本当に料理が美味しいので幸せだ。
あっという間に全てを食べ終えて、休もうとする。
「涼太くん?運動しに行きますよ?」
「げ、そうだったな。」
「お兄ちゃん頑張ってねぇ!」
「はいはい」
俺は少し、ため息をつきながらジャージに着替えようと思う。
あれから、昨日と同じメニューのリフティングを終え、今日は1つ新メニューが追加されていた。
それとは...持久走だ。
俺は絶望する。
「今日から1500mを走ってもらいます。」
「それはやめて欲しいかも...。」
「ダメです、始めますよ」
「はぁ」
サッカーグランドの周りを走らせられるらしい。
友里に俺は、自分のペースで走ってくださいと言われた。
正直、無理難題だがやるしか無さそうだ。
俺は、走る事にする。
(もう疲れたのだが...)
1000メートルぐらいのところでバテ始めたが、そろそろ終わるぐらいなので頑張ってみよう。
走ってくる俺を見て、友里は無表情だが応援をしてくれているみたいだ。
暑いながら見てくれているのだ、頑張るしかない。
女の子に応援されることが、久々過ぎて照れくさくなる。
最後まで走り終えることが出来た。
(久しぶりだから疲れるものだな)
俺は息を切らして、はぁはぁと自然に出てしまう。
「6分35秒...いいタイムですね」
俺に近ずきながら、髪を耳にかける
汗を少しかいている友里を見ていると、なんでか分からないが、可愛いと思えた。
再認識する、友里と何かしていると心が癒される、感じがする。
「最初にしては、はぁ、いんじゃないか?」
「そうですね、今後の成長に期待してますね。」
それは、嬉しい事なんだが友里は、自分の弓道は大丈夫なんだろうか。
俺に付きっきりで、運動してくれているのだが良いのだろうか。
「何考えているのですか?」
色々なことを考えているうちに、顔に出ていたみたいだ。
友里が、俺の顔を覗いてくる。
(この至近距離は、まずい)
俺は、後ろに下がりながら顔を隠す。
流石に美少女の顔があの至近距離で来るのは、理性がおかしくなる。
それに、ポニーテールが追加されているのでさらにまずい。
「友里、少しだけ男子の気持ちを考えて欲しいかも...」
「変な事しました?」
友里の天然さには少し困るが、学校の男子にとってモテるポイントなんだろう。
まぁ、それは俺にとって心臓に悪いだけなんだが。
俺は少し恥ずかしいそうに、顔を赤める。
「とりあえず、今日はここまでです」
「今日までにしないか?」
「ダメです。」
俺は肩の力が抜けて、「はい」と言う。
それはそうだ、明日からも走らせられることは死同然だ。
いつも通り、俺たちは一緒に帰る事にする。
一緒に歩いて帰っていると目の前から自転車が、携帯を触りながら俺たちに向かって来た。
「友里!危ない!」
「え...?」
俺は、友里を引っ張る。
危機一髪だったが、大丈夫みたいだ。
「あ、ありがとうございます...」
少し友里が、俺の顔を見て照れているように思える。
何故照れているのかは、分からないんだが、とりあえず助けれたのは良かった。
少し手に傷がついているみたいだ。
自分が怪我した時用の絆創膏を友里に使うことにする。
「少し手を見せろ」
「大丈夫です、これぐらい。」
「親切は、受けるものだぞ」
「...分かりました」
友里は、俺に手を出す。
俺は丁寧に、絆創膏をつける。
その瞬間、友里は走って言ってしまった。
なんだろう、俺は頭を傾げながら走って帰った理由を考えた。
絆創膏を付けて、それ以外俺は何をしたと言うんだ。
俺は1人で家に帰ることにする───。
家に帰ったあと、俺はご飯を食べながら考えていた。
友里は、走りながら俺は見ていたのだが、顔を赤くしていたような気がしたからだ。
あんな顔をするんだなと、俺はぼんやり考えていた。
「お兄ちゃん...もしかして恋してるのかな?」
「ちが、そんな事ない。」
「ほ〜、顔少し赤いけど?」
美咲が俺をいじってくるので、少し鬱陶しい。
特にそんなことは、思っているわけが無いが...。
それに、美少女と俺は顔の差的に合わない。
俺の顔を見て、美咲は質問してくる。
「お兄ちゃん、自分の顔と似合わないとか思ってない?」
「そんなこと思っていない。」
「安心して、お兄ちゃんは私が認めたお兄ちゃんなんだから。」
美咲は、俺の顔を真剣に見ている。
ここまで何でして来るのかは、分からないのだが何か心配してくれているらしい。
特に恋愛など、俺にはした事が無い。
恋愛とは、俺にとっては小説で十分だ、小説では自分の考えと同じな主人公が多いからだ。
それに比べ、リアルになると小説のように上手くいかない。
俺にはスペックが足りない、まず喋る相手が少ないのだ。
「何かを心配してるのか分からんが、食ったら寝ろよ?」
「はーい!お兄ちゃん!」
美咲はそう言いながら、ご飯を食べ終え自分の部屋に帰っている、
俺は、3人分の食器を洗う。
───カチャカチャ。
(夏は水が冷たくて気持ちいな)
洗い物は、冬になると嫌いになるが暑い夏であれば逆に好きになる。
俺は洗い物を終え、自分の部屋に帰ることにした。
部屋に入ると、美咲がクーラーを付けてくれてすずしい。
自分のベッドに寝そべり、今日は小説を読むことにする。
本当のところは、夏休みの宿題をやらなきゃ行けないが早めに終わらせると言って、毎年出来ない。
最終日に全力で宿題をやることになる。
鼻歌を歌いながら、小説を読んでいると美咲が部屋に思っきりドアを開けて、入ってくる。
いつもの事なので、驚くことが無い。
「今日はどうしたんだ、俺の読書中に」
「伊藤さんと何してたの!!」
「はーい、その質問は引き受けておりません。」
俺は、小説を読み始める。
「酷い!教えてよ、ねぇ!」
俺の両肩を触りながら、左右に揺さぶりながら言ってくるので俺は「はぁ」とため息をつく。
とりあえず、話を少し嘘を入れて説明することにした。
「へ〜それは大変だね。」
「まぁ〜な」
美咲は、しっかりと相談乗ってくれる時は乗ってくれるが、今はそこまで要らない。
それにこいつは、友里と付き合ってると思っているのでさらに面倒臭い。
俺の勉強机の椅子に座っているので、俺はベッドの布団をかけて寝ようとする。
「ま、待ってお兄ちゃん!」
「なんだもう寝ようと思うんだが」
ベッドから寝ながら話す。
「前も言ったかもしれないけど、伊藤さんお兄ちゃんの事が好きだと思うから、優しくしてあげなよ?」
「はいはい、分かったよ。」
俺はそう言いながら、ベッドで寝ることにする。
美咲は寝ている俺の耳の近くで「頑張ってね」と一言言って、俺の部屋を出ていく。
目をつぶりながら俺は、少し考えたことがある。
何故、俺のためにご飯を作ってくれるのか。
何故、俺の体を気を使ってくれるのだろうか。
その全てにおいて、繋がっていくような気がした。
俺は、頭を掻きながら少し恥ずかしくなる。
(その可能性もあるんだよ、でも俺はそんな感情無いんだ。)
俺にとって友里は、友達の1人として見ていた。
モジモジしながら、俺は寝ようとする。
あれから何時間だっただろうか───。
全然眠れないのだ、夏休みなので何とかなったが、これが学校ある日であれば俺は終わってただろう。
(眠れない...)
俺は、頭の上のベットサイドライトをつける。
小説でも読んで、勝手に寝れるようにする為だ。
さっきの続きを読むことにする。
(平常心、平常心)
小説を読むことで心をリセットしようとするが。
1時間、2時間と時間が過ぎていく。
(寝ると言う以前に、目が覚めてしまった...。)
外がだんだんと明るくなっていく、俺は焦り始める。
何故なら今日も、昼から運動だからだ。
正直、今日ぐらい休ませてくれるだろうと思い、朝の7時くらいにメールで休むことを伝えようと思う。
今の時間を部屋にかけてある時計を見ると、午前6時だ。
(昨夜全然眠れなかった...)
俺は少し頭痛がしたので、頭を触ると熱が少しある感じがする。
ベッドから立ち上がり、自分の勉強机の引き出しから、体温計探す。
そうしたら、奥の方から出てきた。
脇に体温計を刺しながら、ベットに座る。
(夏休みの序盤から熱が出るのは、最悪だな。)
待っていると、ぴぴぴと言う音がな始めたので、見てみる。
3.85℃と表示されていたので友里に、メールすることにした。
(今日は、38.5℃だから練習は難しい...よしこれでいいな)
俺はもう一度寝ることにした。
何時間寝たんだろう、俺は暑さで目が覚めた。
クーラーはついているんだが、それでも暑い。
(今日どんだけ暑いんだよ)
俺は枕の横から携帯を取り、メールを確認してみる。
そこに書いてあったのは、看病しに行くとメールで届いていた。
誰がそんな返答が来ると思うのだろう。
俺が携帯を見ていると、起きるのが遅いのが心配になったのか、美咲が俺の部屋に入ってくる。
「お兄ちゃん大丈夫?何かあったの...?」
「そんな心配するな、ただの風邪だ。」
「全然大丈夫じゃないでしょ!待っててなにか飲み物持ってくる。」
美咲は俺の部屋から、凄い勢いで階段を下りていく。
迷惑をかけて申し訳ないと思いつつ、今日はしっかりと寝て、治すことにする。
ピンポーン─────。
家のチャイムが、鳴り響く。
(友里か、本当に来たのか...)
玄関に向かっている、美咲の足音が聞こえる。
ドアが開き、少し驚いた声が聞こえたあと、階段を上る音が近づいて来るので俺は、何を言われるかなんとなく想像がつく。
「お兄ちゃん!伊藤さんが来たんだけど飲み物と冷却シートを買ってきたらしい、家に入れてもいいかな?」
「別に構わないぞ。」
「じゃー少し待っててね!」
美咲は、俺の部屋を出る。
友里と美咲を2人きりにするのはとても危険だが、頭が痛いのでそんなこと考えれない。
とりあえず今日は、運動が無いと言う喜びでニヤける。
外を見ると、アスファルトに陽炎が立っているのが見えた。
俺は、ベッドに寝そべりながら携帯を触ることにする。
ほんの少し時間が経つと、コンコンコンとドアがなったので「入っていいぞ」と言う。
入ってきたのは友里だった。
「体調大丈夫そうでしょうか?」
「いや、熱がある」
「それならこれ置いときますので、水分補給しておいて下さい、私はおかゆでも作ってきますので。」
「そんなにしなくても...。」
「私に任せておいてください。」
何から何までやってもらって申し訳ない。
友里が、部屋からドアをゆっくり閉めて出ていく。
俺は水分補給した後に再び寝て、自分の体を休めることにする。
早めに治さなければ、美咲と友里に迷惑をかけてしまう。
早速目を閉じて、寝ることにした。
コンコンコン─────。
数分経って時計を見ると、午後の1時過ぎぐらいだ。
ノックの音に目が覚めた俺は、「入っていいよ」と言う。
「開けてもらっていいですか?」と友里が言ってくるので、俺は開けることにした。
マスクしているので、感染することは無いだろう。
開けると、お粥をお盆に載せて持っている。
俺は邪魔そうなので、ベッドに戻り座りに行く。
「食欲はありますか?一応お粥と、りんご、漬物を持ってきました。」
「食欲は、あるから頂くよ。」
俺は持ってくれた、お粥の入った茶碗を手に取る。
久しぶりのお粥だ、お粥はあまり好きではないが食べるしかない。
刻んである沢庵が、お粥に混ぜてある。
手を合わせたあと、早速食べて見ようと思う。
「うま、沢庵とお粥の塩っぱさが丁度いい。」
「それは嬉しいです」
友里は、耳に髪をかけながら無表情で俺の顔を見てくる。
横で見られているが、俺はお粥を味わって食べることにした。
お粥を食べている時に、昨日のことを思い出す。
昨日の事を今聞けそうなので、聞いてみる事にしよう。
(まて、それはデリカシー無いのでは)
どう考えているのか、無表情なので分からないのだが流石に女の子なのだ、内心何を考えているか。
今聞くのは、良くないと俺は思った。
俺は、お粥を食べ終えリンゴを食べるていると友里が申し訳なさそうに話しかけてくる。
「昨日はごめんなさい、助けて貰ったのに逃げてしまって。」
「あれの事か、良いよあれは俺が勝手にやった事だし」
「...優しすぎます」
友里が俺の胸に、優しく抱きしめてきた。
俺は驚く、シャンプーのいい匂いが俺の鼻を刺激する。
パニックになって熱が上がっている感じがじわじわと身体に伝わっていく。
「急に...どうしたんだ?」
「私なりの...お礼です。」
少ししたら、ゆっくりと俺の胸から離れる。
女の子が男子に抱きつくなんて、小説で見た時は、ものすごく良いなと思っていたのだが、本当にやられると心臓がドキドキしておかしくなりそうだ。
柔らかい体、小さな手、その一つ一つが今の数秒で頭の中に来たので、処理が追いつかない。
こんなところ...美咲に見られてたら終わりだ。
俺は、部屋のドアを確認する。
気配を感じなかったので、俺はホッとした。
「今日はゆっくり休んでください、私は3時から部活があるので、そろそろ行きますね」
「あ、うん」
「また明日治ったら連絡してくださいね」
友里は、自分の荷物を持って俺の部屋から出ていく。
入れ替わり美咲が部屋に入ってくる。
ニヤニヤしながら、俺に近づいてくるので嫌な予感がした。
「どうだった?2人きりの空間は」
「どうもこうもない」
「病気が治ったら色々と教えてねw」
美咲は、満面な笑顔で自分の部屋に戻っていく。
頭に手を当てて、俺は少しイライラする。
俺は考えるのをやめて、ベッドに寝そべり考え事を勝手に想像してしまう。
天井を見ていると、友里に抱きしめられた事が、頭から離れない。
こんなの俺のことを好きと思われてもしょうがないと俺は思う。
寝ながら、小説を読んで時間を潰すことにした。
(いつかお礼しないとな)
俺は、そう思いながら早めに治すためにしようと思う──────。
無表情な君を笑顔にしたい! ゆぴくん @yuukun5210
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