第9話 初めての菓子パン

7月もそろそろ終わりに近づき、俺は暑さに参っていた。


今日も暑くて、授業の内容が頭に入らない。


(この暑さが厄介なんだよ)


学校は今日から夏服り切り替わり、少しは涼しくなってるが暑いのは変わりない。


それにクーラーはつけられているんだが、窓がいつも開けられているので涼しい風が全て外に出て行ってしまう。


俺が暑くて机に頭を伏せていると、伊藤さんが話しかけてくる。


「しっかり授業受けて下さい。」


「暑すぎて授業どころじゃない。」


俺は頭を伏せながら、反応する。


伊藤さんはいつもどうりに授業を聞いているが、何故そこまで暑さに平気なのかを知りたい。


クラスの男子は、全員目が暑くて死んでいる。


こんな所で授業したら熱中症で倒れてしまう。


「当てられた時に答えられないですよ?」


「その時は助けてくれ。」


伊藤さんは少しため息をつき、俺をそっとしておいてくれる。


そんな事をしていたら授業がおわり、昼休みになっていた。


その瞬間に駿がこちらにいつもの通りに近ずいてくる。


「涼太〜この暑さどうにかしてくれぇ」


「分かるけど、窓が全部開けなきゃ行けないからどうにもできん。」


俊は今にも溶けそうな顔をしていたので、相当暑いのだろう。


まだ7月なのにこの暑さは、夏休みになったら俺も溶けてしまいそうだ。


「二人ともだらしないですね」


隣から伊藤さんが言ってくる。


「俺をコイツと一緒にしないでくれ」


「俺たち類友だからな。」


伊藤さんの言葉は、心に刺さる時がある。


まぁ今の俺は暑くて授業に集中していなかったので何も言い返せない。


昼休みもあと30分しかないので、俺はカバンを開けて今日のご飯を取り出す。


「やべ、少し俺ご飯食べてくる」


そう言いながら俊は、自分の机に戻っていく。


「涼太さんそれ何ですか?」


「コンビニに売っていたスティクパンだけど?」


俺は封を開けながら話す。


伊藤さんはもしかしてスティクパンを分からないのだろうか?


そう言えば、伊藤さんが菓子パンを食べているところを見た事が無いそれにこの四ヶ月で弁当しか食べていない。


それとも、コンビニとか行ったりしないのだろうか。


「成長期なのにそんだけで足りるんですか?」


「暑いし食欲が無いからこれでいいんだ。」


そもそも俺は、小食で俺が作る料理は全て大体妹が食べてしまうので、俺は作ることしかしていない。


伊藤さんは少し自分の弁当を見ておにぎりを取りこちらを見てくる。


少し迷っているが、こちらにおにぎりを渡そうとしてくる。


「これでも食べてください、鮭おにぎりです。」


「伊藤さんの弁当貰うのは申し訳ない、お礼にクイックパン一個あげる。」


俺も流石に貰ってばっかなので、食べたそうにしていたスティクパンをあげることにした。


伊藤さんの料理は美味しいこと確定なので楽しみだ。


俺からパンを取り、少し戸惑いつつ口に入れている。


(口に合うかな……)


少し下を向いている伊藤さんを見て少し心配になる。


「どうだ美味しいか?」


「これは…」


「これはって……何だ?」


俺は伊藤さんの方をじっと見る。


「美味しいですね。」


その言葉を聞き、安心したけど一個突っ込むとするなら美味しいならもう少し早めに行って欲しい。


以外にも伊藤さんが菓子パンのことを気に入ったらしい。


何故ならいつもなら今みたいに「美味しいですね。」これで終わるのだが、今日は違い俺のパンの袋を見ている。


こんなに暑いのに食べれるとは、妹みたいで面白かった。


俺は微笑しながら、スティクパンが入った袋を伊藤さんにあげる。


「これあげるよ、気に入ったんだろ?」


「え…そんな事ないです……」


「顔が欲しそうだけど?」


「……」


俺がそう言うと、伊藤さんが俺に向かってぺこりと頭を下げてスティクパンの袋に手を入れる。


食べたのが二個だから、あと七個あるはずだから足りるだろう。


それはそうと、俺は伊藤さんから貰った鮭おにぎりを見つめる。


(……俺も食べるか。)


おにぎりを一口食べてみる。


思った通りだった、鮭の焦げの味がご飯とマッチしている。


それにしっかりと海苔もあぶられてるので少しだけパリパリとしていて美味すぎる。


ま、それはいいんだが隣で伊藤さんがフルーツサンド食べた時と同じ感じで幸せそうなのが顔には出ていないが、すごく感じられる。


「今後欲しいなら買ってくるけど、どうする?」


「それは……迷惑になっちゃうので。」


「別にいいよ、家の近くにコンビニあるし買って、夏休みに入る前までなら買ってきてやるよ。」


「……ありがとうございます、優しいですね。」


俺にとって伊藤さんが一番話しやすい、俊や瞳は、俺とは別世界の人たちなので話すと言うよりか聞く事の方が多い。


俺はこの空気が安心する。


それでもこの暑さには嫌になるが、この空間がなければ今でさえ家に帰りたいと思っている。


とりあえず伊藤さんは、甘いものや菓子パンなどが好きらしい。


やはり伊藤さんも、女の子らしさがある。


「それはそうと、伊藤さん部活とか順調なのか?」


「今年の夏の大会に出れるか分かりません、三年生の先輩が強いので…」


「今年の三年生は、ものすごく強いらしいもんな。」


弓道部の事は掲示板でよく見ているので、何となく言いたいことは分かる。


それに前の雨の日に、あの練習をしていても選ばれていないのだ。


俺は軽く伸のびをしながら、教室のドアから夏の風が吹くのを感じた────。




数分経ち、伊藤さんが食べ終わったみたいだ。


「涼太さん、スティクパン食べさせて下さりありがとうございます。」


「俺もおにぎり貰ったし、そんなに丁寧にお礼してもらわなくても……」


流石にそこまで丁寧なお礼をされるとは、思っていなかったので少し焦る。


それにスティクパンよりも、伊藤さんの手作りおにぎりの方が価値が高い。


そんなことを考えていると、伊藤さんが疑問そうな顔をしている。


「どうした?」


「あの、コンビニって何ですか?」


「え……もしかして分からないのか?」


「私は、家に週に何回が来るので外にあまり出かけないんです。」


今までで一回も言ったことが無いことに俺は驚いた。


コンビニを知らない…?偏見はしたくないんだが、いいところの女の子と言うのが分かる。


まぁそんな人もいるんだなと思いつつ伊藤さんとの会話を続ける。


「まぁ菓子パンは俺が買ってきてやるから大丈夫だ。」


「気になりはしますが、これ以上喋っていると変に周りに見られるのでここまでにしましょう。」


俺はそれを聞いた瞬間に周りを見る。


クラスの人達は、即座に俺たちから視線を外す。


俊の次はクラスメイトに誤解された可能性があるな、と思いため息を着く。


(やっちまった。)


キーンコーンカーンコーン─────


嫌なタイミングで授業の始まりを告げる、チャイムがなる。


「また誤解されましたね。」


「はぁ、伊藤さんは気にしないのか?」


「私は別に誤解されても何も思いませんので。」


「そのメンタル見習いたい。」


俺はメンタルが豆腐なので、少しでも悪口を言われるとすぐに悩む。


それに比べ、伊藤さんは結構メンタルが強いし俺と付き合ってるって言う誤解をされても何も思わないとは……


俺は申し訳ないやら、色々なことを考えてしまう。


先生が教室に入ってきたので、俺は教科書を引き出しからだす。


授業中……俺はとても視線を感じる特に伊藤さんと俺を見る目がすごい。


(はぁ、バレないとでも思ってるのか?)


それはそうだ、この隣の美少女はこの学校の男子の半数が夏休み前に告られているからだ。


そんな人がさっき俺と喋っていたのは告った男子からすると、殺気を感じても仕方がないからだ。


それに俺みたいなに話しかけていたんだ、いつもはバレないようにしていたがガッツリ見られた。


そんなの授業に集中出来るわけが無い。


「殺気を感じるな……」


俺は静かにひとりで呟いていた。


これは放課後にクラスの男子に囲まれて事情聴取をされることが目に浮かぶ。


俺は隣で授業を集中してる伊藤さんを見てため息を着く。


「私の顔を見ながらため息をつかないでください。」


誰のせいでこうなっているのかわかっていないような顔でこちらを見てくる。


そいえば伊藤さんは、天然だった。


そんな顔されると俺も何にも、言えなくなる。


俺は回りからの殺気を感じながら、授業を聞く─────。


その後俺は、家に帰るのだが俺が想像していた通りクラスメイトにめちゃくちゃ話しかけられた。


それを思い出し立ちくらみがする。


「はぁ、マジで疲れる」


「そりゃあんなに伊藤さんと仲良くしていたら、質問攻めにされるに決まってるじゃん。」


自分でもあれは少し喋り過ぎたが、そこまで怒られる事なのかと、歩きながら考える。


俊が俺の顔を見ながら、笑ってくる。


何がおかしいのかと思いながら、肘でお腹に強く当てる。


「うぐっ」


「笑うな」


「……悪い悪い、少し意地悪がすぎた……」


結構いいところに入ったのか、結構痛そうにしている。


俊が苦しんでいると、後ろから瞳が走って近ずいて来て話しかけてくる。


「なーにしてるのぉ!」


いつも通りこいつは元気だなと思いつつ、俺は余計な事を言わないようにしようと思う。


それに、俺が言わなくても多分そのな事を隠してもバレていると思うからだ。


こいつらは必ず、どちらが俺の事を見ているので隠し事が出来るわけが無い。


「涼太く〜ん、伊藤さんと仲良くしてたねぇ?」


瞳は少し意地悪な顔をしている。


「お前……どこまで知っている。」


「全部♡、てか女子も大体見てたよ?」


「い゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」


頭を抱えながら上を向き絶望する。


俺の学校生活が一年にして終了した気持ちになった。


今後の学校生活を考えたら俺の顔全体の血が引いているような気がする。


瞳が笑いながら俺の顔を見る。


俊が、肩を触りながら微笑んで一言言ってくる。


「涼太……お疲れ様」


「終わったぁ……」


俺は下を向きながら俊と、瞳と帰る。


歩いているうちに俺の家が見えてきたので二人に「明日から頑張ってね」と言われた。


その言葉に俺は、「そうだな……」そう言い、自分の家に入っていく。


ドアの閉まる音が聞こえた瞬間に美咲が玄関まで走ってくる。


「おっかえり〜!て……なんでそんなに絶望してる顔してるの?」


「色々と学校で、あったんだ。」


美咲は、色々と察したらしく俺の手を引っ張って居間に俺は連れて行かれる。


俺をソファに座らせて、美咲が俺の前に立ち腕を組む。


「お兄ちゃん……恋愛で悩んでるんでしょ?」


美咲が少し目を輝かして聞いてくる。


「いや?違うけど。」


「えぇ〜違うの〜?」


俺は正直恋愛で悩んでいるんでは無い、クラスメイトに今後、殺意の目で見られる事が嫌なのだ。


美咲は、残念そうに俺の胸に指で円を書く。


「ね〜本当は何かあるんでしょ?」


「あぁ〜もう分かったよ言うよ。」


「やっぱり私のお兄ちゃんだね!!」


俺的にはめちゃくちゃ話したくないが、クラスメイトにも話せないし、いい機会かもしれない。


それにしても俺は、妹にしかこんな事言えないとは情けない……


もう8月になりそうにも関わらず、友達があの三人しか居ないし、実質俊は、昔から友達なので二人しか出来ていないことに吐息を漏らす。


美咲がコップとお茶を持ってきて、俺のコップにお茶を入れてくれる。


俺はそのお茶を口に少し入れたあと、話を始める。


「俺が、伊藤さんと付き合ってるって言う誤解がクラスメイトに広まってるんだ。」


「え、付き合ってなかったの?」


「ブッ」


俺は口からお茶を吹いてしまった。


流石に美咲にもそう思われているのなら少し気分が落ちる。


美咲が不思議そうな顔で見てくるので俺はしっかりと伝えようと思う。


「付き合ってるわけないだろ、俺と伊藤さんがそんな関係なわけない。」


「お兄ちゃん……まず自分の家にあげないと思うけど?」


そう考えるとそうだ、色々なラノベや恋愛小説を読んできたが、大体の主人公がヒロインを家にあげている。


そこは彼女と誤解されても仕方がないが、喋っているだけで誤解されるのは納得出来ない。


内容も恋愛の話とかでは無く、ただのパンをあげるとしか言っていないのだ。


とにもかくにも、俺にとっては高校を静かに過ごしたい俺からするとこの問題は大問題だろう。


「どうにかできないか?この誤解」


「今回は私はどうしようもできないね、お兄ちゃんがこれはどうにかするしかない。」


「まぁ、そうなるよな。」


それでも俺は、少しだけ胸が軽くなったような気がした─────



俺はその後、ご飯を妹に食べさせて自分の部屋に戻る。


(俺がどうにかするしかない…か。)


俺は枕に顔を埋めながら考える。


正直、ここまで来たらもういいのでは無いかと思うが、平凡な日々を送る俺にとって阻止しなければいけない。


伊藤さんに協力して貰えたら、何となるがはたしてきょうりょくしてくれるのだろうか。


明日の自分に任せて、今日は目を閉じる。


朝、教室のドアを開けると伊藤さんが大勢に囲まれている。


俺は即座に、俊に何であんなことになっているのか聞く。


「昨日のお前の件だよ。」


「朝からめんどくさいな。」


俊にその事を聞いたあと自分の机の場所に行き「ん、んん」と咳払いをする。


そうするとそこに集まっていた人たちが、即座にバラバラになる。


俺は伊藤さんの方向をみると、混乱しているらしい。


「朝からご苦労だな。」


「あ、あ、はい。」


伊藤さんが混乱しているので、俺は「落ち着け、大丈夫だ。」と伊藤さんを落ち着かせる。


俺なら人に囲まれたら、多分心肺停止するだろう。


数分経ち……伊藤さんはいつもの無表情に戻っていた。


伊藤さんが俺に顔を合わせてくれない。


(俺の事をあんなに聞かされたらそりゃ顔も合わせれないよな。)


授業も終わり昼休みに入る。


前言った通りに、自分の弁当とコンビニで買った菓子パンを持ってきた。


今日はメロンパンをチョイスしたが口に合うだろうか。


とりあえず機嫌を治すためにも菓子パンをあげようと思う。


「伊藤さん、少しだけ聞いて欲しいんだけど……」


「……なんですか。」


(やべぇ怒ってらっしゃる。)


「昨日言った通り、菓子パン買ってきたぞ」


俺は伊藤さんに、メロンパンをみてる。


少しムスッとしている顔がほんの少しだけ、喜んでいる様な顔になっている。


俺は少し安心して、伊藤さんにメロンパンを渡す。


(これで少しは機嫌を直して欲しいな。)


そう思いながら伊藤さんを見る。


メロンパンは俺の好物だ。


菓子パンの中なら結構人気が高いこのパンをあげることによって伊藤さんも機嫌を治すだろう。


「……いただきます。」


伊藤さんは袋から、メロンパンを出して小さい一口で食べる。


もぐもぐしている。


俺はそれを見ながら少しだけ可愛いと思ってしまった。


今回は、前あったような変な誤解をされないようにできるだけ伊藤さんと喋らないようにする。


(表情見たいけど……我慢我慢)


俺は、自分の弁当からピーマンの肉詰めを箸で取って口に入れる。


気になり過ぎて、全然味がしない。


頭の中で色々と伊藤さんの表情を考えていたら、横から立ち上がる音がした。


その瞬間横を見ると、俺の後ろを通った。


「亮太さん、美味しかったです。」


「え?」


俺は横を見たら袋だけ綺麗に畳んで、伊藤さんの水筒の下に置いてある。


伊藤さんの方向見ると、教室のドアを開けて外に出ていく。


(満足して貰えたらしいな。)


安心して、昼ご飯を俺は食べることができるようになった─────。


それでも、周りを確認しておこうと思い周りを見渡す。


とりあえずクラスメイトは、俺の事を見ていないことがわかった。


(とりあえずバレてないな、良かったな。)


それにしても、疑問に思うのは伊藤さんが男子から貰ったものを捨ててるところを見たことがある。


なのに何故、俺から貰ったものは食べているのか……。


信頼されているところは嬉しいけどそれでも、異性と言うことは変わりないのでそれが気がかりだ。


そんなことを考えながら弁当を食べていたら昼休みの終わりを告げるチャイムがなり、次は体育なので俺は急いで準備をする。


今日は、サッカーの授業らしい。


俺の学校はとてもでかく、サッカーが女子用と男子用で分けられている。


俺はサッカー言う陽キャが光る運動は、今の俺にとって地獄そのものだ。


それも七月の後半なので真面目に死人が出るぐらい暑い。


『2人でペア組めよ』


体育の先生が、そう言うので俺はとりあえず一人で誰か来るのを待っている。


(まぁどう考えても、俊しかペア組めないけど。)


俊がこっちに走ってくるので、俺はボールをカゴからとっておく。


「亮太、ペア組もうぜ!」


「まぁ俺はお前しかペア組めないけどな。」


サッカーをやっていた時、俺はミッドフィールダーをしていた。


俊がフォワードを担当しており、息があった俺たちは県でも全国でもいい成績を持っている。


現在の俺は、サッカーをやっていた当初に比べて、少し痩せたような気がする。


「先生がパス練習からって言ってたからやろうぜ涼太!」


「久しぶりにやるな」


サッカーボールを久しぶりに触るので、少し懐かしい気持ちになる。


俺は知らないうちに、足が勝手に動いた。


俺の顔を俊が見てきて、満面な笑みを浮かべている。


多分俺は今、相当楽しそうな顔をしているのだろう。


「パス練習懐かしいな、よくやってたよな。」


「あの頃はな……」


俺は、横を見ると伊藤さんがサッカーのパス練習をしていた。


運動神経がいい伊藤さんは、全てのスポーツができるらしくあっちで盛りあがっている。


顔もあれだから、女の子にも人気が高い。


その相手が瞳なので、盛り上がるわけだ。


「何見てるんだよ……て、俺の瞳狙ってんのか?」


「そんな訳ないだろ。」


「まぁ俺の彼女は世界一可愛いからな。」


俊が、そう言いながら自信満々で言っているので、俺は「左様で」と適当に返事を返す。


そんな事をしていたら、伊藤さんが少しこちらを振り向いて手を振ったような気がした。


俺は即座に、目線を俊に戻す。


(今俺に手を振ったか?)


俺の見間違いだと思うが目を擦っているとボールが頭に当たる。


「いててて……」


「涼太、大丈夫かぁ?」


「ボール出す時ぐらい言えよ。」


「ごめんごめん!」


俊に手を差し出され俺は、それを掴んで立つ。


ピィーと音が聞こえて、俺達は集合する。


『少し試合するぞぉー』


先生がそう言った瞬間に、男子たちが盛り上がる。


試合……クラスの男子は俺の事を運動神経が悪いと思っている。


だから俺は、パスをされないので楽なのは、いいんだがとても暇である───


試合のホイッスルがなって、数分立った。


(サッカーなのに、1回も走ってない……)


俺は、こんなにもマークされないことは初めてだ。


俺が暇をしていると俊がボールをドリブルで抜いて俺にパスを出す。


「涼太!協力してくれ!」


「まぁいいよ。」


俺にパスをして、全速力でゴール前ら辺まで走っていく。


昔のようにできるかは、分からないが俺は俊が届くギリギリの位置にサイドハーフから、カーブをかけてパスをしてみる。


昔よりは少し劣っているが、綺麗に足元にボールが落ちた。


「テンキュー、涼太!」


そう言いながら俊がゴールを決める。


男子にも、女子にも何故か俺はとても見られている。


そう言えば、運動神経が悪いと思われてたのでそれはこんな反応になるだろう。


「ナイスパス涼太!」


「あ〜うん……」


数秒だった瞬間に、味方チームの男子が盛り上がる。


『涼太すげぇ!!!』


そう言いながら、俺に走って近ずいてくる。


すぐに囲まれて、俊と俺は質問攻めにされる。


「涼太サッカー部に入れよ」とか、「サッカー出来るなら言えよ」とか、色々と聞かれる。


そんな光景を見ていた、体育の先生が俺に話しかけてくる。


「お前サッカーできるのか?サッカー部に入らないか?」


体育の先生は、サッカー部の顧問なので勧誘されるのは薄々分かっていた。


それでも、サッカー部に入ることは二度無い。


「すみません、サッカーは遠慮しておきます。」


それを聞くと、先生は少し残念そうにしているが、「やりたかったらいつでも来いよ?」と言う。


軽く会釈をし、自分のポジションに戻る。


笛がなり再開される。


この後俺は、味方チームからパスを次々に出されて俊にボールを繋げる役をすることになった。


久しぶりのサッカーは、結構楽しかったが体力が衰えてる上に俊の足の速さに合わせなければいけないので、ものすごく疲労を感じる。


ピィーと笛がなり、試合が終了する。


「はぁはぁはぁ」


「涼太、体力落ちてるなw」


「そりゃそうだろ。」


点数は9-5で俺らのチームが勝った。


昔は勝つことで喜びを感じていたが、現在の俺は、なんも思うことがない。


そんな事よりちょくちょく視線を感じるが、それが俺は気になる。


「かっこいい……」


気のせいだろと考え、先生に呼ばれたので集合する。


この授業が6時間目でよかった。


体育後、掃除をしている時から足が筋肉痛でとても痛い。


「涼太どうした、顔色悪いぞ?」


「筋肉痛で足が痛いんだよ。」


俺は足をあまり使わないように、教室をほうきではく。


俊が、俺の足を触ろうとしているので


「触ったら殴るからな。」


そう言った瞬間に、俊の触ろうとしていた手を引っこめる。


俊は、口笛で誤魔化そうとしているがバレバレの嘘で俺は、深くため息をつく。


足が筋肉痛な俺を思ってか、俊が机を代わりに運んでくれる。


俺は「ありがとう」と感謝を言う。


俺が感謝をすると、俊が格好つけなが「涼太が、サポートしてくれなかったら瞳にかっこいいところ見せれなかった!」と言ったので俺は苦笑いする。


俊の置いてくれた椅子に俺は座って、帰る準備をする。


(今日は、湿布を貼って寝なきゃな)


カバンを持ってゆっくり椅子から立ち上がる。


教室を出ると、伊藤さんが廊下で女子に囲まれていた。


俺は静かに後ろから通って自分の部活に向かう。


(今日は何の本を読もうか……)


図書館の鍵を開けながら考えていると、走ってこちらに近ずいて来る音が聞こえる。


「はぁ、はぁ、はぁ」


「どうしたんだ?伊藤さん。」


「貴方のことばかり聞かれるのでどうにかしてください。」


俺の事ばかり聞かれる……?


何か変なことをしたのだろうか。


今日何があったか思い出してみると、サッカーしかないがそれが何かあったのだろうか?


「今日のサッカーで貴方結構目立ってたんですよ?」


「あ……そういう事か。」


大体予想がついた、多分さっきの女子に囲まれてた時に色々と聞かれていたのだろう。


それは伊藤さんも対応が出来ないのも理解出来た。


それにしても、今まで存在が無い感じで扱われていた俺だがサッカーができた瞬間に変わるものなのか。


また、明日から面倒臭い事が起きることが予想出来てしまうので、俺は頭を搔く。


「なんか聞かれたのか?」


「貴方の連絡先聞かれました。」


「もしかして教えた……?」


「教えてませんよ。」


俺は、少しホッとする。


教えていたら多分俺は、次の日からメールが鳴り止まなくなると思う。


伊藤さんが少し怒っているような表情をしているので、やらかしたと思った。


それに部活が多分遅れているのでそれも込みで、怒っているのだろう。


眉間を伊藤さんが少し寄せている。


(これは怒らしたなぁ……)


「申し訳ございません。」


「……運動できたんですねやっぱり。」


「少しだけだけどな?」


俺は、また伊藤さんに過去を知られてしまったがこれは、迷惑をかけた分の情報提供としてしょうがない。


「また今度話し聞きますからね。」


「……はい。」


俺はため息をつきながら答える。


伊藤さんは俺の返事を聞くと、弓道場に走って帰っていく。


手を振っていると、先生が「何やってるんです?」と変人を見る目で見ている。


少しびっくりして、すぐにドアを開ける。


「あ、す、すみません。」


先生は不思議な顔をして図書館に入っていく。


俺も図書館に入ることにする───


今日は、恋愛系のラノベを2時間ほど読み、窓を見ると空が暗くなっているので

家に帰ることにした。


家に帰る途中で考えたことがあった。


(嫌な予感する。)


伊藤さんが、連絡先を教えていないと言っていたのだがその場合俺に直接聞かれることが頭に浮かぶ。


うるさいのが嫌いな俺が女子に囲まれることが、高確率で有り得るので頭が痛い。


自分の家の前でため息をつく。


俺はドアを開けて、「ただいま」と言うと反応が無い。


(留守か?)


こんな時間に美咲が留守なんて珍しい。


最近の美咲は、開けた瞬間に抱きついてくるのだが今日はとても静かだ。


(そういえば……今朝に友達と食べに行ってくるとか言ってたような。)


今日の朝───


靴の紐を結んで、カバンを持ち、家を出ようとすると美咲が走ってくる。


「お兄ちゃん!今日、私女の子友達とご飯食べに行ってくる!」


美咲が友達と食べに行くなんて、珍しいので少し驚く。


俺はいつも美咲には、いつも俺が帰るまで家で留守番してくれるおかげで、安心して買い物ができる。


自分のカバンから、財布を出して、1万円を手に持つ。


「美咲、これやるから楽しんでこいよ。」


「いいの……?」


「日頃の感謝だ。」


「お兄ちゃん!大好き!」


美咲が抱きつくと、胸が俺の頭に当たる。


相当喜んで貰えたんだと、俺は安心して微笑む───



その事を思い出し、居間に歩いていく。


今日はゆっくりラノベの続きでも読もうと思う。


(ご飯は...ラーメンでも頼むか。)


いつもなら節約しているが、美咲も食べに行っているので、俺も楽をしたい。


携帯でメニューを見て、ラーメンを注文する。


俺は少し時間を見ると7時半だった。


(9時ぐらいには帰ってくるから、それまでにはお風呂も済ませとかないとな。)


それから、ラーメンを食べて、お風呂に入り自分の部屋に戻る。


俺が自分の部屋で寝ながらラノベを読みながら、帰ってくるのを待つ。


(久しぶりだなこんなに静かな夜なんて)


集中してラノベを読んでいると、玄関のドアが開く音が聞こえた。


「ただいまぁ!!」


その声が聞こえたと同時に、階段をすごい勢いで上がってくる。


美咲が俺の部屋のドアを思っきり、バンと言う音を立てて開ける。


「お兄ちゃん!!」


「いつも言うが急に抱かれるのは…」


今日は暑かったので汗をかいてると思い、俺は美咲を体から引き離す。


「お前、お風呂はいってこい。」


「はーい!」


美咲が俺の部屋を出ようとして行く瞬間に、こちらを向いて「今日、お兄ちゃんと寝ていい?」と言ってくる。


「まぁいいけど。」


美咲は返答を聞いた瞬間に、自分の部屋から出ていく。


いつも思うが、美咲は勝手に俺のベッドに入ってくる事が多いので最近は、こんな感じに聞いてくるようになった。


美咲はシャワーを浴びてるらしく、ここまで音が廊下を通して響いてくる。


そうしていると俺は、今日サッカーの疲れなのか、うとうとする。


(久しぶりにサッカーやったからな、そりゃ眠くなる。)


俺は、今にも寝てしまいそうなので早めに湿布を貼ることにした。


自分の机のさ引き出しから湿布を出す。


ベッドに座り、膨らふくらはぎに湿布を貼る。


そんな事をしていると、美咲が戻ってきた。


「お兄ちゃん!寝よ!」


「はいはい」


布団に入って目を閉じたらいつの間にか眠りに落ちる。


翌朝──────


俺は学校に着き教室のドアを開ける。


その瞬間に数十人の女子が携帯を持って近ずいて来る。


『涼太くん連絡先教えて!』


「えーと…」


俊の方を見て助けを目で求める。


俺の方を俊が見て、こっちに近ずいて来る。


「涼太が困ってるぞ?」


女子達が、俺に手を振りながら離れていく。


俊が興味津々で俺に話しかけてくるので、大人しく今回は答えることにする。


「てか、お前なんでそんなにモテてるんだ?」


「昨日のサッカーだと思う…」


「あ、そういう事か。」


理解したように自分の席に戻っていく。


今日はそこまで長引くことも無かったので、逆に心配になる。


俺は自分の席に行き、座る。


いつも通り伊藤さんを見ると、何故かメロンパンを食べていた。


それに加え、昨日あげたメロンパンの袋なので俺は驚く。


「お前...それどうしたんだ?」


「コンビニで買ってみました。」


そう言いながら、伊藤さんはメロンパンを小さい口で一口食べる。


「なんですか、その珍しい事を見た時みたいな目は。」


「いや違うんだ、朝から食べているところに驚いた。」


菓子パンを教えた俺が悪いのかもしれないが、そこまでハマるとは思わなかった。


それに加えて、朝にメロンパンを食べている伊藤さんのところなんて、珍しいとしか言えない。


俺は戸惑いつつも、質問してみる。


「お前...ハマったのか?」


食べている口を突然動かなくなり、こちらを向く。


「何かいけないんてすか?」


「なんでもありません。」


すごい聞いてはいけないことを聞いたような気がして、顔を黒板の方に向ける。


俺は、横をチラッと見ると口をもぐもぐしながら伊藤さんが不機嫌そうに食べていた。


それを見た俺は、少し面白くなり、バレないようにくすくす笑う。


伊藤さんは、食べ終わったのか、俺の方を向く。


「涼太さんは、夏休み何がするんですか?」


「夏休み...する事ないかも。」


「はぁ、もう少し計画を立てて生活してください。」


やはりという感じで、機嫌が悪いみたいらしい。


計画を立てる...それは出来ていないので言われても仕方がないが、俺にとって本読むぐらいしかやることが無い。


それに比べ、伊藤さんは弓道の試合があるのでそこら辺は計画を立ててるみたいだ。


(特にやることもないしな...それに親も帰ってくる。)


夏休みに入ると、親がお盆に帰ってくる。


俺の親は、絶対に人に見せることが出来ない、厳密に言うと俺が嫌だからだ。


親の性格として、母が妹に性格が似ているので必ず誤解するし、父に関しては、まともなのだがなにか抜けているので話しにくい。


要するに、友達に合わせること面倒なことが手に取るようにわかる。


そこで俺は、夏休みになったら静かに家で過ごすようにしていた。


その方が、危険性が低いだろう。


「俺は家で、ラノベか小説でも読んでるかな。」


「夏休みぐらい、運動してくださいよ?」


「考えておく。」


7月でさえこの暑さなのに、運動をすることなどありえない。


俺が適当に返事をすると、伊藤さんが心配してくれている。


「そんなんだから筋肉痛になるのですよ?」


「え、バレてたんだ。」


「涼太さん、昨日掃除中に足に手をつけてたじゃないですか。」


「まぁ、うん」


完全にバレていたので、俺は再度伊藤さんの観察力が凄いことを知った。


(観察力すげぇな。)


俺は心の中でつぶやき、続けて伊藤さんが話しかけてくる。


「貴方の家知ってるので、夏休み中、運動に定期的に呼びますから。」


「それは、やめていただけると...」


「ダメです。」


「...はい」


俺は、ため息をつきながら返事をする。


この子供を世話するような感じ、お母さんを感じる。


伊藤さんは、多分前のサッカーで俺が運動出来ることを認識しているので、体力を戻したいのだろう。


それでも俺は、サッカーをやることは無いが。


俺に伊藤さんがそう言うと、1時間目の授業の準備をする───



今日もいつもどうりに授業を済ませ、放課後になる。


俺は図書館に行くために、1階の渡り廊下を歩く。


その時に、俊が俺に向かって走ってきた。


「涼太〜!少し聞きたいことがある。」


走るスピードを落としつつ、俺の前まで俊が止まった。


「そろそろ、瞳が誕生日なんだけどさ、プレゼント何がいいと思う?」


「お前の方がそういう事詳しいだろ。」


「頼むよ、マイフレンド!」


俺は頭をかきながら、助言をすることにする。


まず俺が考えたのは、瞳はスポーツ系女子だ。


あいつにとって運動道具とか、スポーツに関するものを渡すのが無難だがそうのを俊が求めているように思えない。


もう一つとして、可愛いものを渡すのがいいと思う。


特に、高校一年生の女子は偏見だが、可愛いものが好きなような気がする。


現在の女子が、どのようなものにハマっているのかは知らないが、映えと言う言葉を聞いたことがある。


「可愛い物とかどうだ?」


「安直すぎないか?」


「例えば、可愛くて使いやすいものとか、生活に使えるとか?」


「それいいかもな!」


女の子が生活において使える物を俺は、考えることにする。


洗剤、スポンジ、包丁...


ダメだ、俺が考えるものは全て、俺思考になってしまう。


俺が使ってる中で、普段的に嬉しいもの...


「携帯カバーとかどうだ?」


「お!それいいな!」


俺は携帯カバーをそろそろ変えたいと思っていた。


こんな時に役に立つとは、思わなかったがそれで俊が良いのなら好都合だ。


そう言うと、俊は「部活に戻る!」と言ってグランドに走っていく。


「まぁそれはそうと、図書館に入るか」


俺はひとりで呟いて、図書館に入ったら伊藤さんが本を読んでいた。


絶対あれだなと思い、静かに図書館を出ようとする。


「涼太くん、逃げてはダメですよ?」


俺は足を止め、伊藤さんの方を向く。


「家に帰ると言う選択肢は...?」


「ないですよ?」


「はい。」


ため息をつきながら、伊藤さんの向かい合いの席にカバンを置いて座る。


とりあえずどのように返答するか考える。


(スポーツできることを隠してたからな...納得出来る説得もできなさそう。)


考えなが、伊藤さんの方を向く。


小説を読みながら俺に質問をしてくる。


「なんで運動出来ること秘密にしてたのですか。」


「面倒臭いからだ、目立つのが嫌いだからな。」


返答として0点だが、余計な事を言うよりはまだいい方だ。


それに伊藤さんも心配性なので、何となく気持ちが分かる。


出来るだけ嘘をつく事はしたくないんだが、俺としてもここは、嘘をつくしかない。


額に汗が出てきて、固唾を飲む。


「...何となく理解しました、人に言いたくないこともありますよね。」


「分かってもらって助かる。」


伊藤さんはそう言いながら、俺がオススメした本を読んでいる。


少し安堵して、俺は自分のカバンからラノベを取り出す。


二人だけの図書館は、とても静かだ。


無音の中、本をめくる音だけが図書館に響く。


「そろそろ帰る。」


俺はそう言いながら、カバンを持つ。


伊藤さんは本を読んでいるので、少しぺこりとして頷く。


カバンを持ち、図書館を後にする。


俺が外に出ると、セミが鳴いていたので夏のはじまりを感じる。


(あと2日で夏休みか...)


そう考えながら、自分の家に向かう。





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