第10話
あぁ……また、来たな。
この世界に来てからも見るんだ、この夢を。
今回は、俺は魔法士ギルドのロビーに立っていた。だが、カウンターの向こう側に座っているのはリアナやエルではない。ギルドの職員の恰好をした「へのへのもへじ」の面を付けた受付が二人。なぜかそこには長蛇の列ができており、その中にリアナとエルの姿も見えた。
何が始まるのかと注視していると、へのへのもへじは並んでいる人々に腕を交差させ、大きなバツ印を作って身を乗り出した。
「ブッブー! 残念、またのお越しを〜!」
言うが早いか、もう一人のへのへのもへじが、不合格を言い渡された者を「物」でも扱うような勢いで、玄関の外へと投げ飛ばした。
「うわっ!?」
危うく俺に当たるところだったぞ!……なんて怒鳴りたくなったが、夢の中の俺は、投げ飛ばされた人が扉にぶつからないよう、甲斐甲斐しく扉を開けてやっている。まるでドアマンだ。
(おい俺! それでいいんかい!? てか、なんで今回はへのへのもへじの仲間みたいになってんだ!)
誰にも届かない俺の声。次々に響く不愉快な口で言うブザー音と、飛んでいく人々。
やがてエルの番になると、へのへのもへじは両手で大きな輪っかを作った。
「おめでとう! 君は合格さ。さぁ、新たな人生を歩みたまえ!」
耳を疑った。ムカつくほど渋いイケメンボイスで放たれた「新たな人生」という言葉。自分の夢ながら、これはまずいんじゃないかと動こうとするが、夢の中の俺は微動だにしない。
もがいている間にリアナの番になり、またしてもへのへのもへじは大きな輪を作った。
「おめでとう! 君も合格だ! 新たな人生を歩みたまえ!」
(だあああ! ちょっと待て! 動けって、俺! おいへのへのもへじ! 彼女たちをどうするつもりだ!)
エルはカウンターの向こう側へと消えていき、その後ろに残っていた人々には興味を失ったかのように、「ブッブー! ブッブー!」と無慈悲な不合格の嵐が吹き荒れる。
そして最後の一人。へのへのもへじが驚いたように声をあげた。
「なんと! まさかまだ合格者がいたなんて。さぁ君も、新たな人生を歩みたまえ!」
見逃した。最後の一人が誰だったのか、顔を確認できなかった。
気がつけば、静まり返ったロビーには、二人のへのへのもへじと「ドアマンの俺」だけが残されていた。
「おい、いくら俺の夢の中だとはいえ、好き勝手やりすぎだ。あいつらはどこへ行ったんだ!」
叫んだ瞬間、二人のへのへのもへじがこちらを向き、口元の「への字」を歪ませた。それと同時に、ドアマンの俺がゆっくりとこちらを振り返る。
その顔は――真っ白な面に墨で書かれた、「へのへのもへじ」の面を付けていた。
「うあぁぁあ!」
嫌な汗をびっしょりとかきながら、俺は飛び起きた。
……一体、どんな夢だよ。
あまりの気持ち悪さに、自分自身に『クリーン』をかけてさっぱりさせ、布の切れ端に『ウォーター』で湿らせて顔を拭く。前世の魔法がこれほどありがたいと思ったことはない。
「はぁ……」
窓の外を見れば、日はとうに昇っていた。
気分転換を兼ねて屋台へと繰り出す。変な夢を見たせいか、無性にさっぱりしたものが食べたくなり、ヨーグルトにカットフルーツとシリアルが入ったようなものを選んだ。
果物自体の酸味が強く、甘さ控えめの朝食。それが今の俺にはちょうど良かった。
胃袋が落ち着き、ようやく少しずつ冷静さを取り戻していく。
あの不気味な合格発表が、現実の彼女たちの「これから」に繋がっていなければいいが。
「……よし。まずは、冒険者ギルドに向かうか」
俺は空になった器を返し、二枚の鉄のタグを握りしめて歩き出した。
夢の「不合格者」にならないために、今の俺ができることをやるしかない。
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