第8話
翌朝、俺が選んだのは塩漬けの野菜とベーコンを挟んだバゲットサンドだった。
一口かじると、保存食特有の塩気がガツンと脳を叩く。ちとしょっぱすぎやしないかと思ったが、水代わりに薄いワインを流し込むと、その塩気が絶妙なアクセントに変わって心地よかった。
(そういえば、酒屋も探しておかないとな。ストックの水代わりのワインが切れたら困る)
朝の冒険者ギルドは、昨日の夕方とはまた違う熱気に包まれていた。受付カウンターよりも掲示板の前が渋滞しており、俺はしばらく順番を待つ羽目になった。これなら宿でゆっくり朝食を食べてから来ればよかったと後悔していると、横から不意に声をかけられた。
「おじさん。薬草採取の依頼書、剥がそうとしてる?」
振り返ると、そこには茶髪の爽やかなイケメンが立っていた。
「あ、ああ。これをギルドに持っていけばいいんだろ?」
「いや、Fランクの仕事は基本的に依頼書を剥がさないんだよ。それが必要になるのはEランクから。薬草採取は、ただ取ってきて買取カウンターに出せばいい。スライムやゴブリンなら、討伐部位を出すだけ。わかった?」
「え? ああ、ありがとう。助かったよ」
俺が呆然と礼を言うと、彼は人懐っこい笑みを浮かべた。
「昨日、あの赤髪のオッサンのところで登録したでしょ。あの人、普段は表に出てこない裏方の責任者なんだけど、コミュニケーションが壊滅的に下手なんだよね。説明もなしに放り出されただろうなと思ってさ」
「……なんで、そんな親切に?」
「あ? 俺、ここの職員。掲示板の差し替えとかやってんの。よろしくね、おじさん! 冒険者ギルドは誰でも大歓迎。ただし――命は大事にね!」
ひらひらと手を振って去っていく後ろ姿は、嫌味がないほど爽やかだった。
ともあれ、手順はわかった。俺はそのまま町を出て、ロブソンの記憶を頼りに草原へと向かった。
目的地に着き、膝をついて薬草を探す。ロブソンもこうして自ら採取し、ポーションを作っていたのだという記憶が、指先の動きを自然なものに変えていく。
採取しながら、ふと思った。鑑定料を取られるが、試しにいくつか作って、冒険者ギルドの買取カウンターに出してみるか。
俺は町に戻ると、道具屋でポーション用の空き瓶を数本購入し、一旦宿へ戻った。
数本のポーションを調合し、再び冒険者ギルドの門を叩く。買取カウンターで採取した薬草と、出来立てのポーションを差し出した。
「すみません。このポーションの買い取りもお願いします」
「えっと……よろしいんですか? 鑑定代がかかりますよ。低品質だと、買取額はほぼゼロに等しいですが」
受付の言葉に少し迷ったが、確認のために頷いた。
「構いません。お願いします」
割符を渡され、ロビーで待つ。魔法士ギルドの時は一瞬だったが、こちらは随分と待たされた。それだけ慎重に見ているということだろうか。それとも、あの魔法士ギルドの鑑定が「雑」すぎただけか。
「ロブソンさん、お呼びです」
呼ばれてカウンターへ向かうと、職員の顔つきが変わっていた。
「お持ちいただいたポーション、すべて『高品質』でした」
「高品質、ですか?」
「ええ。不純物が一切なく、魔力の安定度も極めて高い。こちらが今回の報酬です。もしこの品質が維持できるなら、次からもぜひ当ギルドにお持ちください」
手渡された報酬の重みを感じながら、俺は冷や汗が出るのを感じた。
昨日、魔法士ギルドで作ったものと品質は変わらないはずだ。だとしたら、あの眼鏡の副ギルド長は何をどう見て『低品質』と断じたのだ。
あの老魔法士が憤慨していた理由が、ようやく腑に落ちた。
あそこは、組織として何かが決定的に腐っている。
「……ポーションの納品は、冒険者ギルド一本に絞るか」
俺は心の中でそう決めた。
魔法士ギルドは、あくまで書庫での勉強用。あそこのドロドロした内情に深入りするのは、俺の直感が「危険だ」と告げていた。
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