トリグッズの探索者(歴史・時代・伝奇篇)

@2321umoyukaku_2319

第1話 探索の始まり

 トリグッズを探す旅は、唐突に始まった。

「その方、外国の文物に詳しいと聞くが、それに相違ないか」 

 井伊掃部頭直弼に問われた私は「滅相もございません」と否定したが、井伊の赤鬼は誤魔化されなかった。

「先の老中首座、水野忠邦の命令で、そちが清国へ渡り阿片戦争の戦況を調べていたことは知っている」

 冷や汗が背中を流れる。お上の御用とはいえ、鎖国の禁を破り渡航したのは事実だ。水野忠邦公が今もおられたら庇い立てをしてくれたかもしれないが、とうの昔に失脚し、亡くなられている。誰も私を救ってはくれない。

「今の公儀隠密で、その方ほどの外国通はおるまいて」

 平伏していた私は薄目を開けた。大老井伊殿の言葉には、深い意味が込められている。井伊殿は隠居した公儀隠密の私に、重大な用を言いつけようとしているようだ。

それが何なのかは、分からない。

「トリグッズというものを、そちは知っておるか?」

 井伊殿の質問に、私は答えようがなかった。

「皆目わかりませぬ」

「どうやら、それが異人たちには重要なものらしいのだが、誰も分からぬ」

 それで、そのトリグッズを調べることが私に課せられた任務のようである。

 しかし、だ。

「私は既に隠居の身でございます。どうかご勘弁下さいませ」

 そう言って、その場は何とか断ったのだが、その後も井伊掃部頭直弼は何度も再三トリグッズについて調べるよう言ってくるため、どうやって断ろうかと悩んでいたら桜田門外の変が起こった。大老井伊直弼は亡くなったのである。

 それで私はトリグッズを調べる仕事をせずに済んだ……という先祖の話が我が家に伝わっている。子孫の私がトリグッズを求めて小説を投稿するのも何かの縁なのだろう。しかし、どうやらトリグッズは当選しなかったようである。トリグッズ探索の旅は、まだ続くということか。

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