第5話 変化
気がつけば病院の天井だった。横を見ると母が俯き何かぶつぶつと呟いている。僕に祈りでも、あいつらに対する憎悪でも僕にとってははなんとも思えなかった。だって今こうして自身の意識は覚醒したのだから。
僕が「母さん」と自分で考えるよりももっと情けなく、頼りない声量で言うと母は素早く顔を上げた。母は僕の名前を数回呼び、看護師と医師を呼びに行った。そこからは朧げだ。なにせ幼少期の記憶だから細かいことなんていちいち覚えていられない。確実に覚えてるのは僕を川の底に誘導した悪ガキ達は先生だとか警察だとか、子供の権では対処できない巨大な大人達に洗いざらい調べられていた。
カバネじゃ分からないが祖国ケルネの法は子供による犯罪は大人同様懲役刑が用意されている。大人よりかは多少刑期は短いし青少年向けの牢、というか強制労働施設があって学校から悪ガキ達の影を見なくなったあたり、そいつらはそういう場所に連れて行かれたんじゃないかと思う。
僕の方はというと「飛び込み事件」以降、幼少期は身についた正義感が離れていくように助けることができなかった。やはり死にかけたあの体験が少なからず僕の身に恐怖を与えていたのだ。こうして今の今まで僕は過去に神童として向けられた視線とはかけ離れた、普通のマインドで生きてきた。もしも、あの時の恐怖を忘れ、そのまま思いやりの権化として生きていけたら、僕はどうなっていただろう。多少は戦地で野垂死ぬ事が目に見えている可能性が減っていただろうか。
少なくとも、僕は変わってしまったことに後悔している。あのままの僕でいたかった。でも、それももう過去の自分であり現象で、不可逆的なものなのだろう。
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