18話 ミフネ「無心の料理と風呂上がり」前編

「はぁ…………」


 割ってしまったコップふたつと皿いちまいをゴミ袋に入れ片付け終えて、そこでようやく溜め息ひとつ。なぁんでよりによって食器洗ってるタイミングかなぁ……洗い物ためてたからだなぁ……やっぱズボラにしてちゃイカンよ、こういうのはさ。

「…………にしても。 一緒に入った、のか。ゆーゆ……」

 どうやら、妹はコンねーちゃんと仲良く一緒に湯を浴びることにしたようだ。ちゃんと、様々を教えるだけは教えてくれたとしても……流石に入浴とかまでは、それぞれ別かと思ってたが。

 ……流石にここから、浴室内での会話までをはっきり聞き取ることはできない。加えてシャワーの水音が、人の声をも流してしまう。

 

(揉めたりとか、しないといいけど。)

 

 さっきの妹の剣幕を思い返すと……少し不安にならなくもないが。 まあ、ゆうゆなら大丈夫だろう。根拠は特にないけれど、できた妹であるのでね。うん。


「………………、のか。ずっと……ハッ!?!?」


 またしても!自然と口からこぼれてしまった。おれという奴は……!!まだそれを気にしてるのかっ!?バカヤロウやめろ忘れろッ!!

 

(和服……和服って、しっかりガード固いんだよな…………)

 

 脳みそが勝手にフル回転する。あの頃の、昔のコンねーちゃんとの思い出は……実のところ、ちょっとトラウマめいていたというか、記憶に蓋するかのごとく今までは思い出さないようにしてたワケだが…………。いざ思い返してみて、どうだ?

(あの時も…………あの時も、あんな時だって……そうだよな別に、見えたりは、)

 おれの真ん前しゃがみこんで、アリの巣を見てたコンねーちゃん。おれのイタズラにビックリしすぎて、スッ転んだ時のコンねーちゃん。墓なのか祠なのか良くわからん、あの定位置に腰掛けているところを おれが軽く見上げるような角度から見たコンねーちゃんも。 ……裾が、めくれたりとか別に………………っ、てェ。


 

「ああああああああああああ!!!!!!おれは、おれはァ……何をををッ!?!!!?!?」


 

 何を頑張って思い出そうとしとんねん。まずい、やめようマジで考えちゃいけない。忘れろ……!もしこれで、こんなんで もし、おれが、おれの野性ワイルドが、反応でもエレクチオンしてしまったら。 コンねーちゃんに……合わせる顔が無さすぎる!


「りょうり、料理だ…………今夜は、カレーなんだ……っ!!」


 落ち着け。そうだ片付けは終わった。シンクに食器も残っていない。おれは今から、カレーライスを作るのだ。料理のことだけ考えろ。食材と向き合え、邪念は捨てろ……!!

「鉄人だ…………おれは、料理の鉄人…………クフゥーっ、クハァーっ……。」

 さあ、まずは具材を切るぞ。玉ねぎ、にんじんをザクザクと。こいつらは多ければ多いほど嬉しい。いっぱい切る。んで、シメジもカット。基本的にキノコは入れ得。ちなミフネ流カリーにジャガイモは入れない。お肉は───。

 …………元々の予定としては、鶏肉で作ろー思ってたんだけど……。今日は、せっかくコンねーちゃんにも振る舞うんだしな。んー……。っしゃ牛肉にしちゃお。冷凍してたのが確か……あったわ、ゴージャス。まあ別にカレェーは鶏でも豚でも美味いんだけどね。でもなんか、せっかくだし。

 さてそれらに塩かけオリーブオイルで炒めたら、トマト缶を投入だ。水分は水からでなくトマトから、が、ミフネ流。足りない分はおいおいトマトジュース(食塩無添加)を。

 そして様々なスパイスほか各種調味料をぶち込んでゆく。スパイスは先に炒めた方がいいらしいが面倒なので直に後入れ。以前はスパイスだけで作ったカルィーに満足のドヤ顔をしていたが、なんかんだキャレーというやつは市販のルウも足した方がより美味しくなっちゃいやがるので、悔しいが、それも少し入れる。プライドよりも、味なのだ。


「ふーっ。」

 

 やることやった。あとはコトコト煮込むだけかな。炊飯器のセットも先にしてある。あとは、カレーをかき混ぜながら待つのみとなった。量が多いので、こまめに混ぜてやらないとなのだ。

(長くジックリ煮込みたいけど……そろそろ2人も風呂あがってくるだろうな。煮込みが足りず本来のポテンシャルをお届けできないのが悔しいぜ……。)

 色々やってるうち既に1時間くらい経ってる。肉とかトロトロになるくらい煮込みたいが今日の所は致し方あるまい。うし配膳の準備もしとこ。

 

 イヤしかし、もう会えないと思ってたコンねーちゃんにまさか、料理をお出しする日が来るとはね……人生なにがあるかわかんねーや。

 ………………カレー……うまい と思って、くれるかな?

 いや、待てよ。いつもの調子で味付けしたが、彼女はからいの大丈夫だろか。おれも ゆうゆも、結構カラいの好きなんだよな。

 

 ぐるぐる、お玉でカレーを混ぜる。

 

(なんか雰囲気バーモント甘口って感じしてるけど……はたして……?)

 幼き おれにとっての彼女は確かに『おねーちゃん』だったのだが、今のおれからすると『お子様ランチ』 なんだよなぁ(失礼)。

 ……コンねーちゃん、か…………呼び方も、考えた方が いいのかも。

 

 ぐるんぐるんと。カレーを混ぜる。

 

 呼び方ぁー……、しっかし今更なぁ…………。コンコ、さん?コンコさん…………。

 

 くつくつ、ことこと。お鍋の呟き。

 

 ぐるぅり、ぐるぅり、、、カレーを、お玉で、カレーを混ぜる。。。



 

 ・


 ・


 ・

 



「 出 ね ぇ 」

 

 

 風呂から全然でてこねえ。あれから、更に1時間以上経ってるが?

 女性の風呂は長引くっていうけど、普段の ゆうゆは別にそこまでって訳でもないのに……? ぇ何、ふたりで仲良く長風呂してんの? 話に花とか咲いちゃってんの???

 カレーも思ってたより煮込めちゃったぜ?おれ超かきまぜマシーンと化してたぜ。ちょっとコレは予想外だな……。時間持て余すわ どうしよう。

 

(…………あ、そうだ。)

 

 そういえば、コンねーちゃんが今夜寝る……いや、今夜、眠る部屋。

 準備は要るよな……今のうちに済ましとこう。コンロの火、ギリギリまで弱くして、と……よし。

 そのままキッチンを後にする。


「さいきん換気、やってなかったな。」


 両親の部屋の、扉を開けた。

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