第6話 捕獲

 俺こと蓬莱帷ほうらい とばりは護送船で運ばれていた。

 それも、魔力を封じる機能の施された手錠をつけられ、目の前はにさっきの幼女とライフルの男、加えて複数人の戦闘員が座っている状態で。


 何故このような有様になってるか。


 結論から言うと、俺が自首したからです。(慣れない標準語)


 というのも、考えなしに自首した訳ではない。

 実際、あのまま戦闘が続いたとしても俺には絶対に勝つ自信があったし、ぶっちゃけあの後何が参戦したとしても余裕のよっちゃんだった。


 それでも魔王ですらない俺が自首して、わざわざこの胡散臭い輩共に捕まる事にしたのは単純に、その後の問題があったからである。


 具体的に説明すると、俺が出現した神社のあるところは島らしい。

 そしてそこは日本の領土ではあるが、聞けば本土と途方もなく離れた位置にある孤島らしいではないか。


 それを幼女から聞いた時には、呆れもあったものの納得したものだ。


 どうりで【探知】をいくら広げても陸が見えてこない訳だ、と。


 いくら、本気の俺といえど何処まで続くかも分からない海を走り続けるのは魔力量の面からも気が引ける。

 ま、出来へんとは言わんけどな…?(強がり)


 ならば別に無理する必要はない。この人らに本土まで運んで貰おうや、ということで今に至る。


 ちなみに俺の肩に空いた大穴は、今俺の右前にいる胸のデカい金髪嬢ちゃんが治してくれたので問題ない。


 護送中、俺は基本的に静かにしているのだが正面の方々は任務完了とばかりに会話に花を咲かせている。


 聞いていると、割と有益な情報も混ざっているので、これまでに得た有益なものをまとめておく。


 ―――――――――――――――――――――

 ・ 黒髪短髪、双剣使いの幼女ははる

 スナイパーライフルを抱える尖り目の男の子は鳴海なるみ

 回復魔法で俺の肩を癒してくれた金髪巨乳女子はシャル


 と互いに呼び合っている。


 ・ 本土は島から北西に進んだところにある。


 ・ 此処から、本土まで最低でも1日かかる。

 この船も魔力で動いているらしく時速50kmはでているというので、単純計算して本土まで50×24で1200kmはあるという事になる。

 そんな島、日本にあったっけ?いや、ここは俺の知っている日本ではないのだ。前世の概念は通用しないと言って良い。


 ・ この三人とマスクをした戦闘員たちは、何処かの公的機関に属している模様。

 ――――――――――――――――――――――



 初めはやばい組織かと思ったが、聞いている感じ、案外ちゃんとした機関なんかもしれへんな。










 そして、一日と三時間後。時刻にして7時30分に、護送車がその運転を停止させた。

 どうやら本土に到着した模様だ。


「出ろ」


 そう鳴海くんに指示されて、俺は船を降りる。


 音が反響するな、と思っていたがどうやら船は洞窟に入っていたらしく、俺が外に出て初めて見たのは、オレンジ色の電球が大量に壁に接着してある光景だった。


 壁沿いに同じ様に接着された、手すり付きの階段を登ると白く頑丈そうな扉が壁に設置されていた。


 その扉の隣には、長方形の白で囲われた黒い画面が見える。その画面に春が右手をかざし魔力を流すと、フシュゥと音を立てて扉が開いた。


(これは驚いた。けど、よく見ると仕組みは簡単やな。多分、あの画面の奥には指定された人員の魔力波が記憶されとんのやろう。ほんで、魔力波が合致した場合にロックを解除する、とな。ただ、間違いなく異世界には無かった技術や。これは、早めにこの環境に適応しやんとあかんかもな……)


 扉の先に待っていたのは、何本にも枝分かれした通路と、その経路同士の間にカッチリとはまるように作られた部屋で構成された、白い空間だった。

 白衣を着た研究者やスーツ姿の男女が通路から別の通路へと駆け回っているのが分かる。


 俺たちの入ってきた道は比較的太く造られている様で、周囲を軍隊員で囲まれている今も、研究員達の通り道は確保されていた。


「すっごいなぁ。此処はどこや?」

「掃討省管轄の秘匿領域。開発プラットフォームだ」

「ほぇ〜なんも分からん」


 掃討省なんてあったっけ?

 それにプラットフォームって要するに海の上の研究所やろ?どうすれば造れるのかすら思い浮かばんわ


 ………ちょっと待て、海の上の研究者?


「てことは、ここは本土と違うんか!?嘘やろ!?」

「何を言っているんだ。危険極まりない魔王を本土に連れて行く訳がないだろ。貴様は、このプラットフォーム内に造設されている“被検体エリア”に直行だ」

「マジかいな。と言うか、ほんまに魔王とちゃうんやけど…」

「そんな戯れ事がまだ通じると思っているとは……他の魔王の中でも一番の低脳かもしれんな」

「お前しばくぞコラッ!」


 そうして、歩く(歩かせられたとも言う)事20分。開発プラットフォームというのは随分と広いんやな、と思い始めた頃、先頭を歩く鳴海がその足を止めた。


「ここがお前の収容される場所だ」


 開かれた扉。そこには、扉から伸びる一本道を基準に左右に正方形の箱型部屋がズラリと並んでいた。


 薄汚い牢屋をイメージしていた俺は、まだ抜けていない異世界の先入観を取り払いつつ、その清潔さに安堵した。ほんと……


「流石わが祖国、日本やな!」

「?…まあ良い。着いてこい、お前の部屋はこっちだ」

「ういっすー!」


 そうして連れてこられたのは、三度目の曲がり角を曲がった最奥の部屋だった。


 俺がちゃんと手枷を付けたままに、大人しく部屋に入ったかを確認した鳴海くんは、魔力を使用して固く扉を施錠した後、こちらを一瞥することなく去っていった。





……………………

………………

…………

……





 はいはーい!鳴海くんも行った事やし、皆んなでナイショ話しよや!おっきい声出すの禁止な!鳴海くんが来るから!


 ぶっちゃけさ(真顔)……これから始まるのは、


 週に数日連れ出されて人体実験された後、用済みだと帰らされた挙句支給される飯は人並み以下で、生きるための必要最低限の衣食住の保証だけしてやる


 みたいな生活なんよ。



 それってさ…………









 めっちゃ良くね?働かんくていいし、一生ここに住んでもいいんじゃね?

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