第7話 不幸な男 立石刹那
(時は奈月が亡くなる2日前)
「オラァ!さっさとパンツ脱げよ!」
都内の不良が集まる高校――菊谷高校。
その男子トイレの一角で、金髪ギャルのサオリは取り巻き4人と共に、一人の男を羽交い締めにしていた。
標的は立石刹那(タテイシセツナ)。
身体も弱く、家庭にも恵まれず、仕方なく通っていたこの学校で、入学早々、 不良女子グループの玩具 にされていた。
「や、やめてよ!離してよ!」
セツナの必死の抵抗も虚しく、女子たちの手によってズボンとパンツが無理やり引き剥がされる。
「ちっさ!ウケる…!」
取り巻きのギャルたちがケタケタと笑い、スマホを構えた。
「これ、クラスの奴らに一斉送信しようぜ~」
「やめてよ!なんでこんなことするの!」
涙目で懇願するセツナ。だが、その言葉は届かない。
サオリが制服の胸ぐらを掴み、無造作に引き寄せる。
「あ?暇だからだよ。」
爪を立てるように強く握りながら、サオリはニヤリと笑った。
「バラされたくなきゃ金よこせ。」
「お金なんて…持ってないです…うち貧乏だから。」
「知らねぇよ!万引きするとか、家族の臓器売るとか、色々あんだろーよ。」
「そ…そんな……」
セツナの瞳が揺れる。
それを見て、サオリの笑みがさらに深まる。
「てかさ、こいつ…勃ってね?キモ!!やっぱばら撒いちゃおう。」
スマホのシャッター音が鳴り響く。
その直後―― ドンッ 。
「っっっっっっ!」
サオリの鋭い蹴りが、セツナの股間に叩き込まれた。
痛みで声すら出せない。胃の奥がひっくり返るような衝撃に、意識が遠のきかける。
「クソドMが。明日も遊んでやるからよ、プレイ料として20万用意しとけよ。」
四つん這いで震えるセツナに、ガムを吐き捨てるサオリ。
笑い声を残しながら、ギャルたちはトイレを後にした。
セツナは動けなかった。
震える手で腹を押さえながら、個室トイレに這いずり込み、そのまま体育座りのまま膝を抱え込む。
「……なんで僕がこんな目に……何をしたっていうんだ……」
涙が頬を伝う。
静まり返ったトイレの中で、彼はただ一人、震えながら泣いた。
(下校後、自宅)
セツナが家に帰ると、そこには誰もいなかった。
父はパチンコ。母は風俗店で働き、その後はホスト遊び。
帰宅時間はいつも深夜――家族の絆など、とうに存在しない。
家の中はゴミ屋敷と化していた。
掃除しても、次の日にはまたゴミが増える。
もう、掃除すらしなくなった。
(腹……減ったな……)
台所に向かい、冷蔵庫を開ける。
……ほぼ空っぽ。
唯一、置いてあったのは、賞味期限すら分からない 缶コーラ 。
セツナは無言で缶を取り出し、プルタブを開け、口元に当てる。
微炭酸になったコーラが喉を通る。
(……生きてる意味なんてあるのかな……)
虚ろな目で天井を見上げた、そのとき――
「おい、セツナ何してんだ?」
玄関のドアが乱暴に開かれ、 父が帰ってきた。
「それ、俺のコーラなんだけど。」
「え?」
次の瞬間、腹に ズドンッ 。
「っ……!」
鳩尾に強烈な一撃が入り、セツナはその場に崩れ落ちた。
「おい、俺の楽しみにしてたコーラ、どうしてくれんだ?」
うずくまるセツナに、 蹴りが飛んでくる。
一発、また一発―― ガスッ、ドンッ
「うっ……うぅ……」
(なんで……なんで……僕ばっかり……)
意識が遠のく。
セツナの世界は、真っ暗に沈んでいった。
金髪ドS嬢、異世界で魔王を調教します。 魚永 えど @osakana718
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