第3話

 パーティーも終盤に差し掛かったころ、わたしは父王陛下に呼ばれました。

 その場にはお父さまと向かいあう、ひとりの男性がいらっしゃって、


(どなたでしょう? 存じ上げませんが……)


 身なりから、他国の王族であろうことは見て取れます。年齢は20歳ほどでしょうか。

 太いというか、ふくよかというか。まぁ、そのような殿方とのがたです。


「エルファミア。こちらはゲイズ王国の王太子、ラビハラ殿であられる」


 父王陛下が、太い人を紹介してくれました。

 ゲイズ王国は小さな国ですが、このところ交易で潤ってきている国らしいです。リルルくんの授業でそう習いました。


「お目にかかれて光栄でございます、ラビハラ王太子殿下。第二王女のエルファミアでございます」


 話してみるとラビハラ王子は物腰が柔らかく、言葉づかいも優しい人でした。


「暑苦しくて申し訳ございません。我が国ではなんと申しますか、身分ある男はふくよかな方が威厳いげんがあるという風潮ふうちょうがございまして。多少無理をしてでも体型を維持いじしないといけないのです。これはこれで大変なのですよ? もちろん、私は食べるのが好きなのですが」


 自然と、ふたりになれるスペースに案内されるわたしとラビハラさま。人目のないスペースに置かれたテーブルにかけ、向かい合って座ります。


 さすがにわかりました。

 これは、お見合いです。


 やはりわたしは、リルルくん魅了の任務を外されたとみていいでしょう。

 約1年かけて、何の成果も出せていない。好きにさせないといけないのに、むしろ自分が好きになっている。

 完全に任務失敗です。


「退屈ですか?」


「……はい?」


 わたし、ぼ~としてました!

 彼の会話を聞いていませんでした。王女としてありえない失態です。


「も、申し訳ございませんっ」


 視線を王子と合わせると、彼は微笑んでくれました。


「国同士の駆け引きというのは、面倒なものですね」


 そしてグラスに注がれたワインで唇を濡らすと、こう続けます。


「ですがそれが国益となるのでしたら、私は頑張ろうと思うのです。国民の笑顔のために」


 あぁ、この人は立派なのですね。

 王子として、王族の責務を果たそうとなさっておられる。


「わたくしも、そう思います」


 いえ、違う。


「そうありたいと、努力いたします」


 と、ラビハラ王子は椅子を立ち、


「今のあなたと、同じような反応をしていました」


「なんの……お話でしょうか?」


「妹が、興味のない男と見合いをさせられたときの話です」


 顔から火が出そうなほどの羞恥しゅうちでした。

 ですが王子は、


「私は年上の女性がこのみなのです。妹より年下の女性をめとりたいと考えておりません。とはいえ、国益の前では消し飛ぶ好みなのですが」


 わたしは、妹姫よりも幼い女の子という感じなのでしょうか。


「は、はい……申し訳ございません」


「謝罪されるようなことではありません。ですが、意中の人がおられるのでしたら、早く結ばれるがよろしいでしょう。そうしないと、また私のような男と向き合うことになられますよ」


 そう助言をくれると、わたしの返事を聞くことなく歩き去っていく隣国の王子。

 このように立派な人ばかりが近隣国の王族なのでしたら、近隣諸国の平和は守りやすいのかもしれませんけれど。


 そうなら良いのにと思いながら、わたしはすでに消えた彼の背中を目で追いました。

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