あの光をもう一度
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僕はカバ
僕はカバ。まだ小さい子供のカバ。
今日も朝七時三十分のバスに乗って学校へ向かう。七時三十分のバスといっても、バス停に来るのはいつも三十二分頃だけど。
僕はいつも、段差のすぐ手前にあるこの座席に座る。この席が特別好きな訳ではないけれど、いつもここに座る。そして、リュックからスケッチブックと鉛筆を取り出して広げる。
バスは、ガタンゴトンと音を鳴らしたり、たまにキィーっと急ブレーキがかかったり、とても絵なんてかけたものでは無い。だけど僕にはどうしても描きたいものがあった。
窓の外を見ると、ビル、ビル、散歩中のイヌ、ビル……今が夜なのかと思ってしまうほどに、この道は暗い。しかし、少し先に1箇所だけ陽の光が出ている所があった。ビルとビルの間が広くなっていて、木々も生えている。なんだか少しだけ気分が高まった。
そしてバスは、その光を走り抜けた。ほんの一瞬だったが、そこには確かに光があった。ビルに隠されていて普段は見えない景色があった。
…………海が、あったのだ。この道を通るたびに、初めてこのバスに乗った時のことを思い出す。
初めてこのバスに乗った時、僕はやっぱり、この席に座っていた。温かくて、ふわふわしたイスだった。その道を通った時、一瞬、目がチカっと熱くなって目を閉じてしまったのを覚えている。次に目を開けた時、目の前に広がる景色に僕は驚いて窓に手を付けた。窓は冷たくて湿っていた。だけど僕は、上から陽の光に照らされて、暖かくて幸せだった。本当に幸せだった。あの頃の記憶を忘れたくなくて、僕はこの席に座っているのかもしれない。
僕はカバ。まだ小さい子供のカバ。
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