第12話
同じ仕草で辺りに視線を向けてから墓石に視線を向ける。
幹のしっかりとした杉の木々、小沢の水、風が吹く、鳥の囀り、国道の車、そして、視線の先の墓、安住の地なのだから静かで穏やかな場所であるべきだという先入観で墓場を考えていた、でも、それがふと間違いなのかもしれないと考えた。康太もきっと同じことを考えているかもしれない、同じように見渡して墓を見たのだから。
「でも、なんとなく、分かるかも」
墓に活けられた墓花があるうちはいいのかもしれない。
でも、万が一に誰も来ることができなくなってしまったら、この自然的な場所はすぐにでも山の一部に混ざってしまうに違いない。跡形もなくとは変な言い方かもしれないが消えてしまうことだろう。
このピンクのコンクリートブロックは標なのだ。
そう、この場所は墓場であって死者が埋葬されていると、たとえ誰も訪れなくなったとしてもここが墓場であることに変わりはないのだと。確かに誰かが生きた証がここに置かれているのだと、そう主張している気がした。
「こっちだよ」
再び一歩一歩と進んでゆく、コンクリートブロックを穿つ靴音が山の音に交じって響いた。
「あのね、お父さんのお墓は作っていないの」
ボソッと呟くようにあずさは言った。それは唐突に口をついて出ていた。
「え?」
案の定、戸惑った声が聞こえた。
「おばさんからどこまでのことを聞いているか分からないけれど。ちょっとだけ聞いてもらっても良い?」
手をしっかりと握ったままで歩みを止めた。
そして康太の視線に自らの視線をしっかりと合わせた。真剣な話ということを視線で伝える。
「うん、話してくれて構わないよ」
康太の視線がしっかりと交わる。
この話をすべきか気持ちを決めても不安で仕方なかったが、その交わった視線と言葉が背中を押してくれた。
「父が海外出張になって、母も調子が悪くなったとおばさんには伝えてあるけど、実は違うの」
「うん、お袋から聞いている、過去のことも、そこから調子が悪くなってしまったとも……」
互いに繋いでいる手をさらにぎゅっと握り、康太はそれに応えるように同じように握ってくれる。
話す準備がすべて整った。
「私が大学に入った年に父と母が襲われたの。父は殺されてしまって母は重傷を負って意識を失い入院した。もうかなり前の話。心配させないようにと思って康太の聞いている理由でおばさんには話しているけど」
「犯人は捕まったのか?」
康太はあずさにはきっとまやかしのように聞こえてしまう同情の慰めの言葉を口にすることはなかった。
「ううん、捕まってない。でも、犯人は捕まっていないだけで、誰かまでは分かっている」
「まさか……」
「うん、想像通りだよ。母の両親を殺して、曾祖父母を殺して、父を殺して、母を追い込んだ、すべて同じ犯人」
「そうか、話してくれてありがとう」
「うん、聞いてくれてありがとう」
康太はまやかしを交えずに私も誤魔化しを交えずに伝える。どんな言葉もなく、ただそこには冷たい真実を話してくれたことに感謝した者と冷たい真実をようやく話して受け止めてくれた事に感謝した者がそこにあるだけ。
その握られた手は決して緩まることもなく緩めることもなかった。
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