第31話、ケイヤク
「くうう」
斬られた背中が痛い。
出血で、目が霞む。
意識が
昼過ぎの謁見の後、辺りの空は夕暮れで赤く染まりつつある。
「クルック、クルックッ」
フィッダが後部座席から手を伸ばして、飛びそうになる意識を繋ぎとめてくれる。
取り合えず、首都から離れる方向にまっすぐ機体を飛ばしていた。
何度目か、フィッダがクルックに手を伸ばした。
偶然クルックの血で汚れた手が、後部座席の正面のパネルに触る。
血でフィッダの、小さな手形がついた。
そこには、”アマリリス式、魔術式制御盤“が刻まれている。
”ヨモツヒラサカ“の魔紋を、船巫女の代わりに制御しているはずだ。
「うわあ」
フィッダの目の前で、複雑な多重構造をした魔術陣が多数展開され、すぐに消える。
「ワレハ、ナニモノナノカ」
「ワレハ、ドコヘイクノカ」
クルックとフィッダの頭の中に、不思議な声が響く。
フィッダの体に描かれた魔紋と、’ヨモツヒラサカ”の機体の魔紋が、タマムシ色に輝く。
「ココニケイヤクハ、ナサレタ」
フィッダの体と、“ヨモツヒラサカ”の機体の魔紋は、黒に近い濃い
ギョロリ
「痛うう」
突然フィッダの頭の中に、望遠鏡をのぞいたような風景が見えた。
――キャラバン船?
――船首に薔薇の意匠が見えた
不思議と距離と方角が分かった。
「クルック、あっちに飛んで」
「どうしたんだ……」
クルックが、細い声を上げる。
朦朧とした意識の中、クルックは言われた方へ機体を飛ばした。
◆
「あれは……」
辺りは、暗くなりつつある。
ローズヒップは、遠くの方をフラフラと飛ぶ飛行艇を見つけた。
ローズキャラバンのキャラバン船は、“躁風の魔紋”を使い、全速で航行中だ。
「船を緊急停止っっ」
「照明弾っっ」
伝声管に向かって、大慌てで言う。
「船長っ、追手に位置がばれますっ」
「クルック達が、帰って来たんだよっっ」
ローズヒップは叫んだ。
「!!、上げますっ」
ポンッ
シュパアア
辺りが昼間のように明るくなった。
クルック達が気付いた。
近づいてくる。
「後部甲板に明かりをっ」
着船用の識別灯だ。
「船長……」
無線からよわよわしいクルックの声がした。
「もう少しだっっ」
飛行艇“ヨモツヒラサカ”は、何とかキャラバン船の後部甲板に着船した。
クルックは、ベッドの中で気がついた。
上半身裸で、包帯がグルグルと巻かれている。
「……フィッダ……」
ベッドサイドにうつ伏せで、椅子に座って寝ているフィッダを見つけた。
――看病してくれたのか
「くうっ」
上半身を起こすと、背中に引きつるような痛みが走った。
痛みが治まるのを待っていると、
「起きたの?」
フィッダが、そっと手を握って来た。
「今は?」
「一日、経ってるわ」
手は握ったままだ。
「お、気がついたねっ」
ちょうど、ローズヒップが部屋に入って来た。
「ふ~む、何から説明しようかね~」
腕を組む。
「まず、今は全力で、“アールヴ”に逃げてるところだよ」
「??」
クルックが不思議そうな顔をする。
「あんたらを下ろした直ぐ後に、襲撃を受けたんだよ」
「多分あれは、奴隷狩り(マンハンター)の連中だね」
警戒してすぐに、出港できるようにしていたのが幸いした。
「何とか逃げ出して、“アールヴ”に向かってた所に、二人が飛んで来たんだ」
クルックとフィッダは、謁見の後、何が起きたか説明した。
「ああ、それでか」
「いま、オチホキャラバンのキャラバン船と、所属不明のドウケンクラスの砂上艦に追われてるんだ」
「イッザウと、ギールと、奴隷狩り(マンハンター)が、
――ドウケンクラスは奴隷狩り(マンハンター)の船だね
モンジョ国内でも、奴隷狩り(マンハント)は、極刑も十分あり得る重罪である。
口封じのために襲って来たのだろう。
◆
ちなみに、モンジョ国の”タタラバ造船所“製の砂上船は、モジュール方式が取られている。
大きい方から、ドウタク、、ハニワ、ドグウ、サイズだ。
船体の造りは大きさごとにほぼ共通である。
上に乗せる構造物によって船種がきまった。
例えば、
ローズとオチホキャラバンのキャラバン船は、ハニワサイズの中型船で、一本マスト。
荷物用の格納庫とクレーンを乗せた商船仕様である。
マンハンターの艦は、二本マストのドグウサイズの高速艦。
バリスタ四機と、ラムアタック用の
◆
最初、追手に見つかっていなかったが、誘導用にあげた照明弾で位置がばれた。
ローズヒップは、そのことを二人には言わなかった。
「今は、あまり使われなくなった航路を逃げている所さ」
図らずもこの航路は、イナホキャラバンが襲撃を受けた航路と同じであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます