第22話、ダイブ
月夜の砂漠に、巨大な船のシルエットが、二つ浮かび上がっている。
今、飛行艇空母“キサラギ”から、
潜砂艦“アマテラス”の後部には、’イザナミ“用の飛行甲板があり、そこから搬入している。
「たしかに、受領しました」
眼鏡をかけた20代前半の男が、書類にサインをする。
「もらってくぜえ」
横に並んだ艦長帽を被った大柄な男が答えた。
砂漠の民なのだろう、褐色に黒髪、青い目をしている。
歳は20代前半のように見える。
「なぜ、夜に受け渡すんだろう?」
イオリがけげんな表情ををする。
「あ~、うん、すぐにわかると思うよ」
ファラクがあいまいな表情で笑った。
受け渡しが終わった。
「じゃあ、元気にするのよ~」
メルル―テがファラクを軽く抱きしめた。
「しっかりな」
イナバが、イオリの肩を軽くたたく。
その後、”キサラギ“のクルーの手の空いているものは、イオリとファラクに手を振りながら、”キサラギ‘が浮上、月夜の空にゆっくりと離れて行った。
◆
「潜砂艦”アマテラス“へようこそ」
艦長帽を被った男が言った。
「とりあえず、中に入ろうか、すぐに移動するから」
中に入り分厚い扉を閉める。
ブリッジに移動した。
「はじめまして、艦長の、エルザード・シャラーム・アールヴ中佐だ」
「一応、王族だ。 上から七番目だけどな」
父親は一緒だが、子供が多すぎてファラクとは面識がない。
「飛行艇“イザナミ”の操縦者兼、船主のイオリ・ミナト少尉です」
ブリッジの後ろの壁にかかげてある旗を見た。
「うっ」
「飛行艇、“イザナミ”の船巫女、ファラク・シャリー・アールヴ中尉です」
「お初にお目にかかります」
頭を下げた。
「ん、とりあえずアジトに向かう、こまかいことはその後だ」
「野郎どもっ、潜航だっ」
伝声管に向かって大声で叫ぶ。
「アイアイ、キャプテンッ」
野太い声が帰って来た。
エルザードがいつの間にか、片目に白色で骸骨の描かれた、黒い眼帯を着けている。
イオリには、どう見てもかかげててある旗が、“海賊旗”にしか見えなかった。
ーーもしかして、私諒船なのか?
二人は、自分たちの居室に案内された。
「しばらく、潜るからよ、部屋の戸を閉めといてくれよな」
どう来ても海賊の手下にしか見えない男が、鋼鉄製の扉を指差した。
「えっ」
「やはり、も、潜るんですか?」
イオリが、青い顔をして聞いた。
やっと、砂の中を潜って移動するということが、実感できたようだ。
「そ、潜るんです」
厳つい男がにこやかに答えた。
ガコン
扉の隔壁が閉じられた。
◆
ブリッジだ。
大きな転輪が中央に備えられている。
その前には、大きなコンパスと、付近の地図がはられた台座。
地図の上には小さな、“アマテラス”のミニチュアが置かれている。
転輪を、エルザードが掴んだ。
伝声管にむかって叫ぶ。
「隔壁閉鎖」
「隔壁閉鎖~」
「潜航用意っ」
「ランダ、ワルダ、舞ってくれっ」
「「いいよう~、旦那様~」」
二人の少女の声が、伝声管から聞こえてくる。
双子だろうか、ほぼ同じ声をしていた。
「
ブリッジにある機関席に座った機関士が言った。
「機関正常」
「空気発生機、異常なし」
「操砂の魔紋、発動」
「ヘリウムガス、潜航レベルまで、排出っ」
艦上部の排出口からヘリウムガスの白い煙が出た。
艦の自重で砂にもぐり始める。
ザザザザザザ
「ダイブ、ダイブ、ダイブ」
艦の周りに、円形の波紋を描きながら、潜砂艦“アマテラス”が、砂の中に姿を消した。
「キャプテン、航行深度だ~」
「潜航停止」
ヘリウムガスを必要な分、気嚢(風船)の中に発生させる。
飛行船の技術の応用だ。
「暗車(スクリュー)に動力伝え」
ザンザンザン
後ろから、暗射(スクリュー)の回る振動が伝わってくる。
「速力、10にて、前進」
「進路を、アジトへ」
エルザードが、転輪を軽く回す。
地図の上の“アマテラス”のミニチュアが、艦の方向に対応して向きを変えた。
「各部異常なし」
『アマテラス』が砂の中を移動し始めた。
◆
ザザザザザ
イオリは、かすかに聞こえてくる音とともに、艦が下にしずんでいくのを感じた。
「ひうっ」
――いやいや、無理い
部屋の布団に震えながら頭を突っ込んだ。
「と、止まった?」
ザンザンザン
今度は、斜めに傾いて、移動し始める。
「ひい」
――す、すすす砂の中を進むなんて信じないぞ~
震えながら、布団の中で丸くなった。
その頃、隣の部屋のファラクは、
ザザザザザ
「あらあら~潜るのね~」
ザンザンザン
「進みだしたわ~」
――想像以上にゆれないわね~
しばらくした後、眠くなって布団に入って寝た。
よく眠れたそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます