第18話、リチャクサ
飛行艇空母”キサラギ”は、レンマ王国の西にある、”カティサーク工廠”に帰ってきた。
あと少しで、”イザナミ”のパイロットが決まることになる。
「それでは、”イザナミ”の、離着砂《りちゃくさ>訓練に入る~」
「”マーマト湾”の砂浜に着地してもらう~」
「これが最後だ、気合を入れるように~」
メルル―テ大佐だ。
「リチャクサ?」
「そ、離着砂」
「砂地に降りてもらうの」
ファラクが言った。
「魔紋には、”操砂の魔術”があって、船の周りの砂を操る力があるわ」
「船巫女のいない、砂上船にも装備される基本的なものよ」
「砂の上に降りるのか?」
クルックが心配そうに言う。
「ふーむ」
イオリは、腕を組んで考え込んでいた。
「理論上は大丈夫のはずよ~」
「これまで以上に、慎重に行きましょう~」
◆
砂上用飛行艇”イザナミ”が可変翼を最大に開いて、砂の上に浮かんでいる。
微かに振動しているのだろうか、機体を中心に丸く波紋のような模様が、砂に描かれていた。
”マーマト湾”の海岸には。簡易の滑走路が作られている。
「ジェットエンジンが縦に二機、装備されているのはこういう意味かな?」
イオリが、つぶやいた。
機体の周りの、砂の粘性は、水よりも少し高いくらいだ
上下のジェットエンジンは別個に操作可能である。
下のエンジンは、半ば砂に埋まっていた。
最初は、上のエンジンで前に進め、速度が出たら下のエンジンを吹かして離陸という感じである。
「イオリ機、離陸どうぞ」
管制から無線が来た。
「操砂の魔紋は十分よ」
シャラララン
ファラクが、魔紋を励起させた。
「分かった、離陸する」
上部ジェットのスロットルを開ける。
ゆっくりと機体が前に進み始めた。
「重い」
水上より粘りがある感じだ。
ザザザザザアア
離陸できる速度まで加速して、機体を持ち上げた。
「離陸成功っ」
――今度は、着陸(砂)か
普通は、離陸よりも着陸の方が難しい。
狭い滑走路めがけて、機体を下ろさなければいけないからだ。
墜落の危険も上がる。
「慎重に~、ゆっくり~」
イオリが、ランディングアプローチに入った。
高度をゆっくりと下げる。
滑走路が近づいてきた。
「危なくなったら、垂直離陸をしなさい~」
「了解」
「ファラクッ、行くよっ」
「はいっ」
「ランディングッ」
バンッバンッバンッ
「くっ」
砂の上を、水切りの石のように跳ねる。
結局、滑走路からオーバーランした。
砂地の海岸だから問題はないのだが。
最後の最後に、イオリとクルックはてこずった。
十分満足できるような”離着砂”が出来るようになるまで、約一か月かかった。
もはや季節は夏である。
”イザナミ”のパイロットが決まる。
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