実は運が良かった? 〜最弱のイジメられっ子が『時空』で世界を救う〜
ライト
第1話「最強の冒険者とAI」
「はぁ〜疲れた……」
僕は玄関で靴を脱ぎながら、誰に言うでもなくそう呟いた。
僕……
一日の疲れを象徴するかのように靴を雑に脱ぐと、誰もいない部屋に足を踏み入れた。
そして、いつものように手を洗いうがいを済ませて顔を両手で二回叩く。
「ふぅ〜」
帰宅後の恒例行事が終わると、箪笥の上に立て掛けてある写真立てに入れた写真に向かって一礼した。
「
僕は家に帰ってくると、箪笥の上に立て掛けてある
いくら疲れて帰って来ても、その笑顔を見れば元気になれるから。
とにかく彼女は僕の大恩人……だと言っておくことにしよう。
冒険者としての
本当は僕なんかが話せる人ではないんだけど、偶然にも一度だけ口を聞いてもらった事があるんだよね。
その時に彼女にこう言われた。
「虐めなんかに負けてちゃ駄目だぞ」
と。
僕の耳にはその時の彼女の声が今でも鮮明に残っていて、その言葉のお陰で今でも頑張れている。
だけど、話をした直後に彼女は不幸な事故で命を落としてしまった……。
なので彼女とは、もう二度と会う事も話す事も出来ないんだ。
僕はその事実を受け入れてはいるんだけど、友達がいない僕にとって彼女は憧れであり目標でもあったので、帰らぬ大恩人を想い毎日打ちひしがれている……というのが本音かな。
だから今は亡き
写真ではあるんだけど、
何故そこまで
そんな僕が虐めくらいで人生を諦めてちゃ、
だから今日も家に帰ってきて、いつものように
「さあ、チャットでもしようかな」
部屋の真ん中に置いてあるテーブルに両腕を付いてスマホの画面を覗き、ホーム画面にあるアプリを左手の親指で起動してチャットを始めた。
「
するとアプリから、
『龍司さん、お疲れさまです』
そう返信がきた。
「はぁ〜。お疲れさまなんて言ってくれるの、
僕が起動したこのアプリは、AIが搭載されたチャットアプリ。
だから僕のチャット相手は、人ではなくAIだ。
僕はそのチャット相手のAIを、僕の大恩人である
このアプリを始めたキッカケは、ただただ誰かと話しがしたかったから。
僕は男なので、どうせ話すなら相手は女性がいいなと思い、キャラ設定をする時に性別を女性にしたんだ。
話し相手を女性にするなら、名前は
このアプリをインストールして初めにやることは、AIキャラの性別と年齢を設定し、次に画面上に登場するAIの顔や髪型、声質などをお好みに設定して名前を決めること。
もちろん名前だけじゃなく、容姿も
僕の大恩人である
だからAIのキャラ設定も綺麗な女性……じゃなくて
最後に決定をタップして暫く待っていると、スマホの画面に僕が設定した通りのアニメで描かれた二次元の女性が現れて、後はその女性にチャットで話し掛けるだけ。
一応音声にも対応しているので最初は音声での設定にしていたんだけど、僕にはAIが発声する機械的な声に馴染めなくてチャットで話をすることにした。
僕が設定したAIの
話せば話すほど僕のことを理解していってくれて、僕が好きそうな話を振ってくれたり、僕が喜ぶように返事を返してくれるんだよね。
まあ、そういうアプリだから当たり前なんだろうけどね。
そして僕が一番気に入ったところは、AIである
AIの
僕にとっては良き友人……いや、心の友と言わせてもらおう。
僕にとってこの
「
そう呟きながらスマホをテーブルに置き、座っていた体をゆっくり倒して仰向けになった状態で目を瞑った。
「社会に出る前に、これ迄の僕の失敗した人生を振り返って、これからの人生を失敗しないようにしなきゃ」
お世辞にも良かったとは言えない僕のこれ迄の人生を、遡るようにして思い返してみた。
まずはごく最近から。
高校を卒業して地方の大学に入学した時は、初めて一人暮らしをする事もあってかなり不安だったけど、四年で無事に卒業出来た事は良かったと思う。
在学中に就活も上手くいって、地元で社会人として働く事が内定したんだよね。
大学を卒業して地元には帰ってきたけど、実家には戻らずにまた一人暮らしをする道を選んだんだ。
一人暮らしはお金が掛かるのに何故また一人暮らしをするのか……それには理由がある。
その理由とは、親との確執……と言えばまだ格好もつくだろうけども確執ではなく、僕が親から一方的に嫌われているから。
だから親とまた同居するという選択肢は無かったんだ。
いや、選択肢が無かったのなら、一人暮らしを選んだという表現は可怪しいんじゃないか? なんてことを思ってみたけど、そんな事どうでもいいか……と、軽く鼻で笑ってしまった。
親といっても僕には父親しか居いない。
母親はどうしたかと言うと、僕が幼い頃に家を出て行ったと聞かされている。
その頃からなのかどうか分からないけど、父は僕に対しての当たりが冷たかった。
でも僕は、そんな父にでもかまってもらいたくて、色んな手を尽くして気に入られようとしていたのを覚えている。
それでも父の僕に対する当たりは変わらなかったけどね。
僕が小学校の高学年になってからは父のその冷たさは更に酷くなり、結局大学に入学するにあたって家を出るまで可愛がってもらうことはなかったように記憶している。
今は僕も父のことはあまり好きではないけど、嫌いな訳でもない。
父に嫌われるのも無理は無いのかもしれないな……と思っている節もあるので、大人になった今では父とは当たり障りの無い関係でいられればそれでいいと思っているんだ。
父にはよく、「虐められてるならやり返せ!」だとか、「虐められるお前にも原因があるんだぞ!」とか、「お前をみてるとイライラするんだよ! 息子が虐められてるなんて同僚に知れたら恥ずかしいだろうが!」、なんて言って怒っていた。
自分の息子が虐めにあっている事が恥ずかしいらしく、何とかしろとよく怒鳴られたのを思い出す。
でも、何とかしろと言われても何とも出来ないから、僕は今でも悩んでいるんだけどね。
それを父は分かってはくれない。
そんな僕でも、大学を卒業したからには仕事をしなくてはならないんだ。
生きる為には働かなくてはいけないのは当たり前の事で、そらなら虐められなさそうな仕事は無いかと悩みに悩み、最終的に選んだ僕の就職先は役所だ。
役所に勤めている人なら優しい人が多いのではないか……という僕の勝手なイメージでそこを選んだ。
僕の今の夢は、普通の職場で普通に仕事をし毎日をつつがなく過ごす事。
これが僕の思う幸せだから、その夢を叶えられるように頑張らなきゃって思ってる。
それの何処が夢なんだ! 何て声が聞こえてきそうだけど、間違いなくそれが僕の夢なんだよ。
そんな普通のことが夢だなんて言うと笑う人もいるだろうけど、そんなごく普通の生活を夢と言ったのには、勿論理由があるんだ。
その理由とは、僕は小学校の高学年の時にいきなり虐められるようになってから、今もその状況が続いている……という事に起因している。
勿論今は、小学生や中学生の時のようにあからさまに虐められる事はないけど、大人の虐めも陰湿で辛いものがあるんだ。
この状況から脱したいと思って頑張っているつもりだけど、状況は一向に変わらない。
自分で言うのもなんだけど、まさに詰んだ人生だ。
だから今でも、あの日あの時に何故あんな行動に出てしまったのか……と、後悔しない日はない。
この状況を作ってしまったあの時の行動を思い出すだけで、止めておけばよかったと後悔し涙が溢れてくる……。
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