春の記憶

「はい、七沢ななさわさん」

 前の席から配られたプリント。春の遠足のお知らせ。行き先は、日帰りで行く東京ディズニーランド。千葉市民には近場のスポットだ。

「それでは、春の遠足で行動する班分けを決めます」

 先生が言った。教室は一瞬、静かに騒然となった。皆、友だちと同じ班になりたいのだ。

「はい、静かにしてください」

 とりあえず、いつものディベート班に分かれて、そこから微調整していきましょう。と先生は続けた。





 私の前の席は、はやしくん。

 私が高校に入学して、初めて喋った人。友だち…………てゆーか、クラスメイト。

りん! 同じ班で良かったねーー」

「うん! ランドって行くの、久しぶり。私、シーは行ったことないんだよね」

 ずっと美浜区に住んでいるけど、小さい頃ランドの方へ家族と行ったきりだ。

「私初めてだよ? ランドもシーも」

「え〜〜、じゃ、どこ行ってみたいー?」

鹿瀬かせさん、初めて? 俺のオススメはね〜」

「マップ見て! どこから回りたいとか、ある?」

 班が固定されて、教室は今度こそ騒然となった。





 …………林くん。席は私と、前の席次の席だけど、班は別々になっちゃったな…………





 別にね。いいんだ。普通に話すし。同じクラスで、席が近い…………てだけで奇跡みたいなんだから。









 四月。

 高校生活、第一日目。初日! 私は緊張していて、ばかみたいに早く登校して、七時台の教室に居た。もちろん、誰も居ない。

 と思ったら、居た! 窓辺に、私より早い人。カーテン越しにドキリとした。……誰なの? 私みたいに緊張し過ぎて、勢い余ってエクストリーム登校しちゃった感じ?

「! ……おはようございます」

 気付かれた!

「おはっ……ようございます」

 男子だ…………えぇ、気まずい。女子でも気まずいのに。人見知りを発揮してどうする。なんか話してみよう。なんか!

「あっ」

「あのさ」

 かぶった! お互い、何か話そうとした感じ。うわーー……

「えへへ……」

「はは……」

 私もその子も耐えきれなくなって、笑ってしまった。…………第一印象っ、かっこつかん!

「おはよう、私、七沢凛ななさわりんだよ」

「おはよう、僕は、林蓮はやしれん

 おもきし笑ったから、普通に喋れそう。

「林くん、早いね。私、緊張して、めっちゃ早いけど、一番乗りしたら落ち着くかなって」

「僕も。まさか二番乗りがこんな早いとは思わなかった」

 窓の外、グラウンドではトラックを走っている生徒が居る。

「部活の、朝練かな?」

「さっきから周回しているよ」

「陸上部、かなぁ」

「運動系、だろうねぇ」

 運動音痴……てほどじゃないけど、私は足が遅い。

「私、あんなに速く走れないよ」

「僕は、速くはないけど」

「けど?」

「持久走みたいの、あんまり疲れない」

「えぇ、すごーーい」

「見て、あの人ずっと早いまま走ってる」

 私が見たのは林くん。私と同じ新しい制服。私より目線が上の、背が高い男の子。…………なんだか急に、隣に立っているのを意識してしまう。

「七沢さん」

「はい!」

 吃驚びっくりしたーー。見てたの、バレてないよね?

「部活、決めてる?」

「部活…………文化系、かなーー」

「だよね~〜」

 う…………。なんだなんだ、その『にこっ』は!

「何部に入ろーかなーー」

 えぇ、笑っ…………え、あの、えーー……

「わ、私は天体観測が出来るところならって」

「わぁ……午前二時に?」

 弊害だ。あのロマンチックな歌がすぐに思い浮かんでしまう。

「♪見えないモノを見ようとして?」

「あはは……見える見える。ちゃんと見える星を観に行くんだよ」

「出来るとこ、あるといいね」

「うん」

 それから、次々新入生が登校してきて、教室は新一年生でいっぱいになった。









 春の遠足。

 私の班には、友だちも居て、ディベートの授業で沢山話したクラスメイトも居て…………林くんは居なくて、でも、楽しかったの。

 東京ディズニーランドに着いて入場してからは、班行動。時々、待機列で近くになったり、すれ違ったり、同じ制服のクラスメイトはすぐに見つけられる。

「凛、楽しいね!」

「うん!」

 そう、ほんとに楽しい。楽しいよ。

「七沢さん、行くよ! こっちこっち」

 ほんとに…………ほんとは…………

 やめよ。今はちゃんと今を楽しもう!

「はーい!」

 私、京葉線でランドにすぐのとこに住んでいるんだよ? これからいくらでも、行こうと思えば行けるじゃん。……行ける……よ、ね?


【終】

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制服デート 連休 @ho1idays

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