メンバー集め

 昨日のことを思い出すと、いまだにイライラしてくる。でもこっちも悪かったし、申し訳なさも出てきて、モヤモヤが止まらない。 


 学校のベンチで座って、昨日のことを思い出していた。


 そこに、昨日MMB部の勧誘をしていた女の子がいた、たしか日向そら、だったっけ?結局メンバーは集まったのだろうか、昨日の今日だし、さすがにまだか。


 「あ、ひかりちゃん!」


 日向さんは、誰かと待ち合わせしていたようだった。


「そらちゃんお待たせ~、話って何?」


 どうやら待ち合わせの相手は、三条さんじょうひかりさんらしい、私と同じクラスで、いわゆるギャルだ、金髪ロングで、髪質はストレートというより、少しふわふわしている、誰にでも分け隔てなく接していて、クラスの中心的存在の女の子。


「実は、ひかりちゃんにお願いがあって、一緒にMMBやらない?」


 どうやら、MMB部への勧誘だったらしい、さすがにムリだろう、そう簡単にメンバーが集まったら苦労はしない。


「うーん、いいよ!」


  ほら、やっぱりいいよって、え?いいよ?そんな簡単に?


「ほんとに!ありがとうひかりちゃん」


 うそ、そんなことある?


「でも、毎日は部活に出れないかもだけど、放課後は友達と遊びに行きたいし、それでもいいなら」

「うん、全然いいよ、入ってくれるだけでもありがたいよ、ほんとにありがとう!」

「いいっていいって、それより他にメンバーって決まってるの?」

「う、それが誰も来てくれなくて⋯、でも当てはあるから、今からお願いに言ってみようと思ってるんだ」

「へ~、それって誰?あたしも一緒に行っていい?」

「 うん、いいよ、2年生の先輩で黒峰雪奈先輩って言うんだ、ものすごく強いMMBの選手なんだよ」

「へぇ~、そんな凄い人、うちの学校にいたんだ」


  いま、黒峰雪奈と言っただろうか、そういえば同じ制服を来てたな、というかそのせいで巻き込まれたまである、確かに強かったし、仲間になってもらえればすごく強くなるだろう、まあ、私は部員でも何でもないんだけど。


「よし!じゃあ、早速行こう、黒峰先輩お昼はいつも図書室にいるらしいんだよ、昼休み終わる前に急がないと」


 2人で図書室まで走る、ちょうど黒峰雪奈が図書室から出てきたところだった。


「あ、黒峰先輩!」


 関係ないのに、気になってついてきてしまった、なにをやってるんだと自分でも思う。


「黒峰先輩、お願いがあって来ました!」


 黒峰雪奈は、何も言わず、2人をじっと見つめている、ここからでもすごい圧力を感じる。


「MMB部を作ったので部員になってください、お願いします!」


 あの圧力の中、あんな笑顔でよく言えたと思う、あの子には、怖いものがないのだろうか?


「何故、私が部員にならなくてはならないの?」

「それは、私が黒峰先輩と一緒にMMBをやりたいって思ったからです。一昨年のMMBの大会見ました!すごかったです。あの試合を見て、黒峰先輩と一緒に、MMBをやりたいと思ったんです。なので、MMB部に勧誘に来ました!」


 日向さんが、目を輝かせながら話している、そんな中で、よくあんな無表情でいられるものだと、逆に感心してしまう。


「駄目ですか?」

「いま、部員は誰がいるの?」

「私日向そらと、この子三条ひかりちゃんの2人です」

「どうも、三条ひかりです。よろしくお願いします!」


 2人のことを見て、表情を変えないまま、話を続ける。


「奏者は誰?」

「それが、奏者は決まっていなくて」


  奏者なら見つかると思っていたが、まさか騎士のほうが早く見つかるとは、思っていなかった。


「それなら、秋月春香あきづきはるかはどうかしら?もし、秋月さんが入部するというなら、私も入部してもいいわ」

「ほんとですか!秋月春香さんのこと、MMB部に誘ってみます」


 どうやら、秋月春香をMMB部に入部させるつもりらしい、秋月春香、凄く懐かしい名前を聞いて、私は昔のことを思い出していた。



 あれは、私が小学校1年生の時の事だった。その日は、放課後先生の手伝いをしていて、帰りが少し遅くなっていた、どこからかヴァイオリンの音が聞こえてきた、何となく足がそっちに向いて、気が付いたら教室の前まで来ていた。


「私、何してんだろう、さっさと帰ろう」


 帰ろうと思った、その時だった。


「ひっくっなんでう…うっ」


 鳴き声が聞こえてきた、流石に気になって、教室のドアを少し開けて覗いてみる、そこには泣きながら演奏をしている、茶色の長い髪の女の子がいた。


「なんで、う…なんでっみんなはっ出来るのに」

 

 何で泣きながら練習しているのだろう、一瞬昔の自分と重なって見えた、演奏は決してうまいというわけではないけれど、だけど心が温かくなる、そんな演奏だった。自分でも、きずかないうちに夢中になっていたのだろう、手を動かして、扉を開けてしまった。


「だれ?」


 女の子は、一瞬ビクッとさせてこちらを見る。


「あ、えっと、ごめんなさい、音がきこえてきたから」

「ご、ごめんなさい、うるさかったですか?」


 女の子は、凄く小さな声でしゃべっている。少しでも油断したら、聞き逃してしまいそうだ。


「うるさくはなかったけですけど、なんで泣きながら弾いてたんですか?」

「えっと、あの」


 あの、と言ったきり、下を向いて何も話さなくなってしまった、まあ泣いていた理由なんて、普通は言いたくはないだろう。そう思ったが、私の無神経な質問にも答えてくれる。


「うまく弾けなくて、他の人は弾けてるの、でも私だけ弾けないの」


 泣きながら弾いていたこの子が、自分と重なって、何か私に出来ることはないだろうか、そう思ったんだ。


「名前は、何て言うんですか?」


 つい気持ちだけが前に出て、いきなり名前を聞いてしまった。どこかでこんな場面を見た気がする、いきなり名前を聞かれたら困惑するだろう、それでも女の子は答えてくれた。


「え、えっと2年生の、秋月春香です」

「私は1年生の結城あかねです、よかったらヴァイオリン教えましょうか?そこそこ上手いので」

「え、でも私なんかに教えても」

「私なんかって、言わないほうがいいですよ、自分をもっと、信じてみてもいいとおもいますよ」

「私、上手くなれますか?」

「私が教えたら、世界で一番にだってなれますよ」


 秋月春香と名乗った女の子は、しばらく下を向いていたが、顔を上げて、今までで1番の大きな声で私に言った。


「私に、ヴァイオリンを教えてください!」

 

 覚悟を決めたこの子の瞳が、私をまっすぐ見つめている、もっと自分に自信をもってほしい。


「1つ約束があるの、私が教えるからには、これは守ってほしい」

「約束?」

「そう、私が教えるからには、もう自分なんかって言わないこと、自分を下に見たら、師匠である私まで下に見てるってことだから」

「わかりました」

「あと、はるのほうが年上なんだから、ヴァイオリンの練習してるとき以外、敬語使わないで」

「わ、わかった、あのはるって?」

「春香だからはる、はるも私の事すきに呼んで」

「うん、あかねちゃんこれからよろしく」

 

 これが、私と秋月春香の、はるとの出会いだった。


 中学時代は、この辺を離れていたから、会うのは久々になる。元気にしていただろうか。


 放課後になって、結局またついてきてしまった、これじゃあはたから見たらストーカーと一緒だ。


「えっと、話って何かな?」


 お昼の、黒峰雪奈の無表情対応と比べると、まるで反対、すごく優しい笑顔で接している。


「私たち、MMB部を作ったんです。ぜひ秋月先輩に入ってほしくて、お願いに来ました」

「MMB部、あの1つ聞いてもいいかな?」

「はい、何でも聞いてください!」

「何で、私をMMB部に勧誘に来たの?」

「実は、黒峰雪奈先輩にも勧誘に行ったんです、そしたら、秋月先輩が部員になったら自分も入っていいって言ってくれて」

「黒峰さんが……」

「はい!」

「えっと、今の説明だと、黒峰さんにMMB部に入って欲しいから、私をMMB部に入れたいってことよね?」

「いえ、あの秋月先輩にもちゃんと入って欲しいと思っています」

「私は、私が欲しいって、そう言ってくれる人と一緒にやりたいと思ってるの、昔私の師匠が、自分に自信を持てって言ってくれたの、私が自分を卑下したら、師匠まで卑下していることになる。私は自分を自分の師匠を誇りに思ってる、だから私を下に見ることは絶対にしない、秋月春香だから欲しいって言ってくれる人と一緒にいたい、だからMMB部に入ることは出来ない、ごめんなさい」


 そう言って、去っていってしまった、昔は泣いてばかりいたのに、ほんとに成長した。こんな私を誇りに思ってるって言ってもらえて、嬉しくなっていた。


 あの2人は、これからどうするつもりだろう。


「ひかりちゃん、秋月先輩の演奏、どっかで聴けないかな」


 なるほど、確かに一回聴いてみるのは大事なことだろう。


「えーどうだろう、映像保管石と魔法投影機があれば見られるんじゃない?」

「なるほど、ちょっと映像保管石ないか探してくる!」

「えっ、どこ行くの~」

「その辺の人にきいてみるー」

「えー、うーん、ちょっとおもしろそうかも、そらちゃんまって~あたしも行く~」


 なんでやねん!いや明らかにおかしいじゃん、その辺の人って、2人で走って行っちゃったし、そう言えば、はるからコンクールの映像送られてきてたっけ。一応明日持ってきておこうかな。


 次の日学校で一応声を掛けてみる。


「三条さん」

「ん、あかねちゃんだよね、どうしたの?」

「あー、あの、友達から三条さんたちが、秋月春香先輩の演奏してる映像探してるって聞いたんだけど」

「そうなんだよ~、でもぜんっぜん持ってる人見つかんなくて、結局昨日は諦めて帰っちゃったんだよね~」

「えっと、私持ってるんだけど、貸そうか?」

「え!いいの」

「うん、これ」

「ありがとう!絶対そらちゃん喜ぶよ、早速行ってくる~」


 お礼を言いながら走って行ってしまった。


 まあ、ついていくんだけど、もう完全にストーカーだ、でもここまで来たら気になるじゃん!


「あ、そらちゃーん!」

「ん?ひかりちゃんどうしたの?そんな急いで」

「これ」


 そう言って、三条さんは日向さんに、映像保管石をみせる。


「え!もしかしてそれって」

「そう、秋月先輩の映像が入った映像保管石!」

「ひかりちゃーん、ありがとう!」


 日向さんは、三条さんを抱きしめて喜んでいる。


「あたしのクラスの、結城あかねちゃんって子が、貸してくれたの、だからお礼はその子に言ってあげて」

「うん!後で紹介して」

「じゃあ、お昼にでも一緒にお礼に行こう」

「うん!、とりあえずはこの映像を観てみよう」


 2人は視聴覚室に向かって行く、これ以上ついていくのはまずい、大人しく教室に戻ることにする。


 お昼休みになって、2人が私のもとにお礼を言いに来た。


「あかねちゃん!ありがとう、ほんっとにたすかったよ」

「役に立ったのならよかった」

「ものすっごく役に立ったよ!」

「あかねちゃんってヴァイオリンとか何か楽器やってるの?」

「え!?な、なんで?」

「こういう映像持ってる人ってなかなかいないから、何かやってるのかと思って」

「昨日も全然見つかんなかったもんね~」

「あー、いやお母さんがこういうの好きで」

「へ~、そうなんだお母さんが」


 はるの演奏はどうだったのだろう、なんとなく気になって聞いてみた。


「演奏どうだった?」


 さっきまで笑っていた2人が、少し申し訳なさそうな真剣な顔になる。


「すごかった、私先輩に失礼なこと言っちゃった」

「あたしもおんなじだよ、2人で謝りに行こう」


 確かに、あの発言は失礼だったけど、ちゃんと今の思いを伝えれば、はるはわかってくれるだろう。


「じゃあ、ほんとにありがとね」

「あかねちゃんもMMB興味あったらいつでも来てね」

「うん、その時はよろしく」


 その時は来ないと思うけど。


 放課後、まあ、やっぱり一応はるの師匠でもあるし、映像貸したの私だし、最後まで見届ける責任がある、そう私には責任があるんだよ。


「あの、秋月先輩、昨日はすみませんでした!」


 2人で頭を下げて謝っている。


「え、あの、頭上げて、えっと私別に怒ってないから大丈夫だよ」


 はるは、凄い困惑してるみたいだ。


「秋月先輩の演奏聴きました。すごかったです。あんなに心が暖かくなって、幸せな気持ちになる演奏初めて聴きました」

「あたしも、演奏聴いて勝手に涙が溢れてきて、あんなに感動したの初めてです」

「ありがとう、そう言ってもらえて凄く嬉しい」


 よかった、なんとかなりそう。


「改めて、お願いします。秋月先輩の演奏を聞いてこの演奏しかないって思いました、この演奏で戦いたいです、ぜひMMB部に入ってください」

「あたしもMMBは初心者だけど、秋月先輩の演奏で戦いたい!お願いしますMMB部に入ってください」


 ふたりは、真剣に秋月春香が欲しいんだ、その気持ちは凄い伝わってくる、でも秋月春香の表情は曇っていく。


「ごめんなさい」

「そうですよね、あんなに酷いこと言っちゃいましたし」

「そうじゃないんです、そうじゃなくて私の問題なんです」

「秋月先輩の?」


 どうやら、また別の問題があるらしい、一体何なんだろう?




















 

 










 














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