メンバー集め
昨日のことを思い出すと、いまだにイライラしてくる。でもこっちも悪かったし、申し訳なさも出てきて、モヤモヤが止まらない。
学校のベンチで座って、昨日のことを思い出していた。
そこに、昨日MMB部の勧誘をしていた女の子がいた、たしか日向そら、だったっけ?結局メンバーは集まったのだろうか、昨日の今日だし、さすがにまだか。
「あ、ひかりちゃん!」
日向さんは、誰かと待ち合わせしていたようだった。
「そらちゃんお待たせ~、話って何?」
どうやら待ち合わせの相手は、
「実は、ひかりちゃんにお願いがあって、一緒にMMBやらない?」
どうやら、MMB部への勧誘だったらしい、さすがにムリだろう、そう簡単にメンバーが集まったら苦労はしない。
「うーん、いいよ!」
ほら、やっぱりいいよって、え?いいよ?そんな簡単に?
「ほんとに!ありがとうひかりちゃん」
うそ、そんなことある?
「でも、毎日は部活に出れないかもだけど、放課後は友達と遊びに行きたいし、それでもいいなら」
「うん、全然いいよ、入ってくれるだけでもありがたいよ、ほんとにありがとう!」
「いいっていいって、それより他にメンバーって決まってるの?」
「う、それが誰も来てくれなくて⋯、でも当てはあるから、今からお願いに言ってみようと思ってるんだ」
「へ~、それって誰?あたしも一緒に行っていい?」
「 うん、いいよ、2年生の先輩で黒峰雪奈先輩って言うんだ、ものすごく強いMMBの選手なんだよ」
「へぇ~、そんな凄い人、うちの学校にいたんだ」
いま、黒峰雪奈と言っただろうか、そういえば同じ制服を来てたな、というかそのせいで巻き込まれたまである、確かに強かったし、仲間になってもらえればすごく強くなるだろう、まあ、私は部員でも何でもないんだけど。
「よし!じゃあ、早速行こう、黒峰先輩お昼はいつも図書室にいるらしいんだよ、昼休み終わる前に急がないと」
2人で図書室まで走る、ちょうど黒峰雪奈が図書室から出てきたところだった。
「あ、黒峰先輩!」
関係ないのに、気になってついてきてしまった、なにをやってるんだと自分でも思う。
「黒峰先輩、お願いがあって来ました!」
黒峰雪奈は、何も言わず、2人をじっと見つめている、ここからでもすごい圧力を感じる。
「MMB部を作ったので部員になってください、お願いします!」
あの圧力の中、あんな笑顔でよく言えたと思う、あの子には、怖いものがないのだろうか?
「何故、私が部員にならなくてはならないの?」
「それは、私が黒峰先輩と一緒にMMBをやりたいって思ったからです。一昨年のMMBの大会見ました!すごかったです。あの試合を見て、黒峰先輩と一緒に、MMBをやりたいと思ったんです。なので、MMB部に勧誘に来ました!」
日向さんが、目を輝かせながら話している、そんな中で、よくあんな無表情でいられるものだと、逆に感心してしまう。
「駄目ですか?」
「いま、部員は誰がいるの?」
「私日向そらと、この子三条ひかりちゃんの2人です」
「どうも、三条ひかりです。よろしくお願いします!」
2人のことを見て、表情を変えないまま、話を続ける。
「奏者は誰?」
「それが、奏者は決まっていなくて」
奏者なら見つかると思っていたが、まさか騎士のほうが早く見つかるとは、思っていなかった。
「それなら、
「ほんとですか!秋月春香さんのこと、MMB部に誘ってみます」
どうやら、秋月春香をMMB部に入部させるつもりらしい、秋月春香、凄く懐かしい名前を聞いて、私は昔のことを思い出していた。
あれは、私が小学校1年生の時の事だった。その日は、放課後先生の手伝いをしていて、帰りが少し遅くなっていた、どこからかヴァイオリンの音が聞こえてきた、何となく足がそっちに向いて、気が付いたら教室の前まで来ていた。
「私、何してんだろう、さっさと帰ろう」
帰ろうと思った、その時だった。
「ひっくっなんでう…うっ」
鳴き声が聞こえてきた、流石に気になって、教室のドアを少し開けて覗いてみる、そこには泣きながら演奏をしている、茶色の長い髪の女の子がいた。
「なんで、う…なんでっみんなはっ出来るのに」
何で泣きながら練習しているのだろう、一瞬昔の自分と重なって見えた、演奏は決してうまいというわけではないけれど、だけど心が温かくなる、そんな演奏だった。自分でも、きずかないうちに夢中になっていたのだろう、手を動かして、扉を開けてしまった。
「だれ?」
女の子は、一瞬ビクッとさせてこちらを見る。
「あ、えっと、ごめんなさい、音がきこえてきたから」
「ご、ごめんなさい、うるさかったですか?」
女の子は、凄く小さな声でしゃべっている。少しでも油断したら、聞き逃してしまいそうだ。
「うるさくはなかったけですけど、なんで泣きながら弾いてたんですか?」
「えっと、あの」
あの、と言ったきり、下を向いて何も話さなくなってしまった、まあ泣いていた理由なんて、普通は言いたくはないだろう。そう思ったが、私の無神経な質問にも答えてくれる。
「うまく弾けなくて、他の人は弾けてるの、でも私だけ弾けないの」
泣きながら弾いていたこの子が、自分と重なって、何か私に出来ることはないだろうか、そう思ったんだ。
「名前は、何て言うんですか?」
つい気持ちだけが前に出て、いきなり名前を聞いてしまった。どこかでこんな場面を見た気がする、いきなり名前を聞かれたら困惑するだろう、それでも女の子は答えてくれた。
「え、えっと2年生の、秋月春香です」
「私は1年生の結城あかねです、よかったらヴァイオリン教えましょうか?そこそこ上手いので」
「え、でも私なんかに教えても」
「私なんかって、言わないほうがいいですよ、自分をもっと、信じてみてもいいとおもいますよ」
「私、上手くなれますか?」
「私が教えたら、世界で一番にだってなれますよ」
秋月春香と名乗った女の子は、しばらく下を向いていたが、顔を上げて、今までで1番の大きな声で私に言った。
「私に、ヴァイオリンを教えてください!」
覚悟を決めたこの子の瞳が、私をまっすぐ見つめている、もっと自分に自信をもってほしい。
「1つ約束があるの、私が教えるからには、これは守ってほしい」
「約束?」
「そう、私が教えるからには、もう自分なんかって言わないこと、自分を下に見たら、師匠である私まで下に見てるってことだから」
「わかりました」
「あと、はるのほうが年上なんだから、ヴァイオリンの練習してるとき以外、敬語使わないで」
「わ、わかった、あのはるって?」
「春香だからはる、はるも私の事すきに呼んで」
「うん、あかねちゃんこれからよろしく」
これが、私と秋月春香の、はるとの出会いだった。
中学時代は、この辺を離れていたから、会うのは久々になる。元気にしていただろうか。
放課後になって、結局またついてきてしまった、これじゃあはたから見たらストーカーと一緒だ。
「えっと、話って何かな?」
お昼の、黒峰雪奈の無表情対応と比べると、まるで反対、すごく優しい笑顔で接している。
「私たち、MMB部を作ったんです。ぜひ秋月先輩に入ってほしくて、お願いに来ました」
「MMB部、あの1つ聞いてもいいかな?」
「はい、何でも聞いてください!」
「何で、私をMMB部に勧誘に来たの?」
「実は、黒峰雪奈先輩にも勧誘に行ったんです、そしたら、秋月先輩が部員になったら自分も入っていいって言ってくれて」
「黒峰さんが……」
「はい!」
「えっと、今の説明だと、黒峰さんにMMB部に入って欲しいから、私をMMB部に入れたいってことよね?」
「いえ、あの秋月先輩にもちゃんと入って欲しいと思っています」
「私は、私が欲しいって、そう言ってくれる人と一緒にやりたいと思ってるの、昔私の師匠が、自分に自信を持てって言ってくれたの、私が自分を卑下したら、師匠まで卑下していることになる。私は自分を自分の師匠を誇りに思ってる、だから私を下に見ることは絶対にしない、秋月春香だから欲しいって言ってくれる人と一緒にいたい、だからMMB部に入ることは出来ない、ごめんなさい」
そう言って、去っていってしまった、昔は泣いてばかりいたのに、ほんとに成長した。こんな私を誇りに思ってるって言ってもらえて、嬉しくなっていた。
あの2人は、これからどうするつもりだろう。
「ひかりちゃん、秋月先輩の演奏、どっかで聴けないかな」
なるほど、確かに一回聴いてみるのは大事なことだろう。
「えーどうだろう、映像保管石と魔法投影機があれば見られるんじゃない?」
「なるほど、ちょっと映像保管石ないか探してくる!」
「えっ、どこ行くの~」
「その辺の人にきいてみるー」
「えー、うーん、ちょっとおもしろそうかも、そらちゃんまって~あたしも行く~」
なんでやねん!いや明らかにおかしいじゃん、その辺の人って、2人で走って行っちゃったし、そう言えば、はるからコンクールの映像送られてきてたっけ。一応明日持ってきておこうかな。
次の日学校で一応声を掛けてみる。
「三条さん」
「ん、あかねちゃんだよね、どうしたの?」
「あー、あの、友達から三条さんたちが、秋月春香先輩の演奏してる映像探してるって聞いたんだけど」
「そうなんだよ~、でもぜんっぜん持ってる人見つかんなくて、結局昨日は諦めて帰っちゃったんだよね~」
「えっと、私持ってるんだけど、貸そうか?」
「え!いいの」
「うん、これ」
「ありがとう!絶対そらちゃん喜ぶよ、早速行ってくる~」
お礼を言いながら走って行ってしまった。
まあ、ついていくんだけど、もう完全にストーカーだ、でもここまで来たら気になるじゃん!
「あ、そらちゃーん!」
「ん?ひかりちゃんどうしたの?そんな急いで」
「これ」
そう言って、三条さんは日向さんに、映像保管石をみせる。
「え!もしかしてそれって」
「そう、秋月先輩の映像が入った映像保管石!」
「ひかりちゃーん、ありがとう!」
日向さんは、三条さんを抱きしめて喜んでいる。
「あたしのクラスの、結城あかねちゃんって子が、貸してくれたの、だからお礼はその子に言ってあげて」
「うん!後で紹介して」
「じゃあ、お昼にでも一緒にお礼に行こう」
「うん!、とりあえずはこの映像を観てみよう」
2人は視聴覚室に向かって行く、これ以上ついていくのはまずい、大人しく教室に戻ることにする。
お昼休みになって、2人が私のもとにお礼を言いに来た。
「あかねちゃん!ありがとう、ほんっとにたすかったよ」
「役に立ったのならよかった」
「ものすっごく役に立ったよ!」
「あかねちゃんってヴァイオリンとか何か楽器やってるの?」
「え!?な、なんで?」
「こういう映像持ってる人ってなかなかいないから、何かやってるのかと思って」
「昨日も全然見つかんなかったもんね~」
「あー、いやお母さんがこういうの好きで」
「へ~、そうなんだお母さんが」
はるの演奏はどうだったのだろう、なんとなく気になって聞いてみた。
「演奏どうだった?」
さっきまで笑っていた2人が、少し申し訳なさそうな真剣な顔になる。
「すごかった、私先輩に失礼なこと言っちゃった」
「あたしもおんなじだよ、2人で謝りに行こう」
確かに、あの発言は失礼だったけど、ちゃんと今の思いを伝えれば、はるはわかってくれるだろう。
「じゃあ、ほんとにありがとね」
「あかねちゃんもMMB興味あったらいつでも来てね」
「うん、その時はよろしく」
その時は来ないと思うけど。
放課後、まあ、やっぱり一応はるの師匠でもあるし、映像貸したの私だし、最後まで見届ける責任がある、そう私には責任があるんだよ。
「あの、秋月先輩、昨日はすみませんでした!」
2人で頭を下げて謝っている。
「え、あの、頭上げて、えっと私別に怒ってないから大丈夫だよ」
はるは、凄い困惑してるみたいだ。
「秋月先輩の演奏聴きました。すごかったです。あんなに心が暖かくなって、幸せな気持ちになる演奏初めて聴きました」
「あたしも、演奏聴いて勝手に涙が溢れてきて、あんなに感動したの初めてです」
「ありがとう、そう言ってもらえて凄く嬉しい」
よかった、なんとかなりそう。
「改めて、お願いします。秋月先輩の演奏を聞いてこの演奏しかないって思いました、この演奏で戦いたいです、ぜひMMB部に入ってください」
「あたしもMMBは初心者だけど、秋月先輩の演奏で戦いたい!お願いしますMMB部に入ってください」
ふたりは、真剣に秋月春香が欲しいんだ、その気持ちは凄い伝わってくる、でも秋月春香の表情は曇っていく。
「ごめんなさい」
「そうですよね、あんなに酷いこと言っちゃいましたし」
「そうじゃないんです、そうじゃなくて私の問題なんです」
「秋月先輩の?」
どうやら、また別の問題があるらしい、一体何なんだろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます