あなたの好きな音を奏でたい

大和由愛

第一章

出会い

「さあ、始まりました!第38回MMB《エムエムビー》u18、世界大会決勝戦」

「勝負は依然として拮抗状態、両者戦いの手をゆるめません!!」 

「そんな中、ヴァロンテ大陸代表の、美しい五重奏の音色が、響きわたっております。ヴァロンテ大陸代表の能力値が上がっていく!」

「ここでチャンスがやってきた!仕掛けに行ったのは……、ヴァロンテ大陸・天王てんのう学園代表・神白勝華選手かみしろしょうか、一人敵陣に向かって走り出した!」


 ワーーーー!!


 会場中から、大きな歓声が上がる。


「なんということだ!神白勝華選手、5人の敵を瞬殺です。一瞬のうちに戦闘不能にしてしまったーーー!!!!」


 MMB《エムエムビー》、この世界で今注目を集めている、魔法magic音楽music、を駆使して、勝敗を決める競技だ。


 40年前から始まり、MMBの人気は徐々に上がり、今でもその人気は衰えることを知らない。


 近年、MMBのプロ選手が誕生し、より一層人気に拍車をかけている。

 

「じゃあ、お母さんいってきます」

「いってらっしゃい、きおつけて」 

「はーい」


 私、結城ゆうきあかねはこの春、音咲おとさきアース学園高等部に編入した、音咲アース学園は中高一貫校の進学校で、みんなアースを省略して、音咲学園と呼んでいる。


 入学して1週間、みんな中学からの友達、高校で出来た友達、それぞれの輪ができ始める、私も高校で出来た友達2人と、たわいない会話をして、お昼の時間を過ごす、この何もない平和な日々が、私には幸せな日常だ。


「そういえば、MMBって知っている?」


 友達の一人が、思い出したかのように聞く。


「そりゃあもちろん知ってるでしょ、この世界で生きてて知らない人いないよ」 

「だよねー、でもこの学校ってMMBの部活ってないよね?」

「確かに、でもうちって進学校で、部活はほぼ文化部だし、あっても入る人いないんじゃない?」


 友達がMMBの話をしてる中、会話に入れないでいた、MMBが嫌いなわけではない、でもMMBの音楽が聞こえるたびに思い出す、思い出したくないあのころのを…… 


 『何でこんな簡単なことができない』

 『コンクールはもうすぐなんだ、寝ている暇などない』

 『口答えするな』

 『泣くな』


 あ…  あ…ね  あかね


「あかね!」


 はっ、私が昔のことを思い出している間に、名前を呼ばれていたらしい、友達が心配そうに、私の顔を覗き込んでいる。


「ごめん、ボーとしてた」

「すごい深刻そうな顔してるから、心配したじゃん」

「あはは、次の時間私あてられるかなって、考えてて」

「なんだ、そんなことか、まあ何もないならいいんだけどさ、なんかあったら何でも言ってよ、話聞くくらいならできるからさ」

「ね、人というのは、人と人とが支えあってできている!って偉い人も言ってたしね」

「なにそれ、誰が言ってたのよそんなこと」

「えらいひと?」

「その偉い人がだれかって、話なんだけど」

「それは、偉い人は偉い人で、だからーもうそんなことどうだっていいんだよ、私が言いたいのは、話しぐらい聞くよってことだ!」 

「いや、私が言ったことと一緒じゃん」


 私が落ち込んでいると、2人はいつも励ましてくれる、まだ出会って1週間だけど、こんないい友達に出会えてよかったと思う、さっきまで冷たくなってた心と体に温かさが戻ってくる。心に落ち着きを取り戻したところで、2人が言い合ってるのを見て、つい笑ってしまった。


「あははははは!なにそれ」

「あんたが変なこというから笑われてるじゃん」

「え、わたしのせい?」 

「他に誰がいるのよ」

「ありがとう、なんか笑いすぎて涙出てきた」 


 滲んだ涙を拭きながら答える。


 そんな話を、ご飯を食べながら教室のはじで、していたら、教室の扉が勢いよく開き、明るめの黒髪でショートの女の子が入ってくる。


 さっきまでうるさかった教室が静まり返り、黒髪の女の子に視線が集まる、黒髪の女の子はそんなこと気にせずに喋りだす。


「私の名前は1年B組 日向ひなたそらです。MMB部を設立します。少しでも興味のある人はぜひ、話だけでも聞きに来てください!」


 教室中に、明るくて元気な声が響き渡る。 


「それでは、入部希望まってます!」


 日向そらと名乗った女の子は、そう言い残して、慌ただしく教室を後にする、きっと嵐のような人とは、彼女のことを言うのだろう。


 MMB部、たった今友達と話していた所に、なんてタイムリーな話だ、まさかこの進学校にMMBの部活を作ろうと思っているなんて驚きだ、この勉強1番の学校で、人が集まるものだろうか、演奏者ならともかく、戦闘ができる人をこの学校で集めるのは無理だろう。 


 まあ、私には関係のない話だ……。




 関係のない話だと思うだろう普通、どうしてこうなったのだろう。

 

「それでは、只今よりMMBの試合を開始いたします!」  


 どうしてこうなったのか、混乱している頭で記憶を思い返す。 


 私は、いつも通り友達と他愛もない話をしながら、寄り道をして家に帰っていた。


 途中、お母さんから連絡が来て、買い物を頼まれ、スーパーに向かって歩いていた、その時に、話し声が聞こえてきて、見に行ってしまった。


 それが間違えだった。


「ここがあなた達の場所だと、誰が決めたの?」


 肩より少ししたくらいの長さの、きれいな黒髪の女の子が、数人の女の子達と言い合いをしていた。


 黒髪の女の子は、同じ学校の生徒だろうか?同じ制服を着ている。


「あたしたちが決めたに決まってるだろが」 


 ソウダソウダー!!! 


 リーダーらしき人が言った言葉に、後ろにいた人たちがつづく、何というかすごくかっこ悪い、はたからみたら悪役みたいに見える。

 

 黒髪の少女は、少しけだるそうに、ため息交じりで話す。


「バカに付き合ってる暇はないの、この場所を最初に使っていたのは、私なのだから、はやく消えてくれないかしら」


 黒髪少女の物言いに、相手はあきらかにイラついてるのがわかる。


 今思えば、このあたりで帰ってしまえばよかったのだろう。


「何様だてめえ!調子に乗ってんじゃねーぞ」


 ソウダソウダー


 後ろの人は、それしか言えないのだろうか?


「どこに調子に乗った要素があったのか、わからないのだけれど」

「うるせーよ、ここは普段あたしらが使ってるんだ、勝手に使ってんじゃねーよ」

「あなたたちは、なわばりを荒らされた、猿か何かなのかしら?」


 わざとなのかわからないが、がんがんに煽っていく、ああいう性格なのだろうか?


「ふざけるなよ!おまえさっきから、完全に喧嘩売ってんだろう」

「先にケンカを売ってきたのは、そちらからだと思うのだけれど?」


 言い争いが続く、このままじゃ埒が明かない。


 このままずるずると、言い合いを続けるのかと思っていたら、マイクを持った女の子が、突然現れて話に割って入っていった。


「こういうのはどうでしょう!」


 突然現れた女の子に、この場にいる全員が思っただろう。


 誰?


 そんな周りのことなど、一切気にせず、女の子は話を続ける。


「MMBで決めるというのは、いかがですか?」

「それならば、両者異論はないでしょう、この場所はMMBの練習場なわけですから」


 ここMMBの練習場だったの?知らなかった、そのことにびっくりしている間に、話は進んでいく。


「こっちはそれでも全然いいぜ、逃げ出すなら今のうちだとおもうけどー」


 明らかに煽ってきている、そんな煽りに気にもせず、言葉を返す。


「いいわ、やりましょう」

「始まったら逃げることはできねーからな」


 どうやら、両者やる気のようだ。


 でもルールはどうするんだろう?MMBってたしか最低でも、奏者と騎士で、2人は人数必要だったはずだけど。


「それでは決まりですね」

「人数はどうするつもりだ、1人じゃできねーだろうが」


 どうやら、それも含めて、これからきめるらしい。


 お母さんの買い物を頼まれていたことを、思い出し、この辺でこの場を離れようとした時だった。


「あの人はお友達じゃないんですか?」


 突然現れた女の子は、こっちを指さして聞く。


 こっちを指さして?一瞬意味が分からず、思考が停止する、周りを見ても私以外に人はいない、完全に私を指さしている。


 私のことを指してると分かったとたん、パニックになる。


 な、な、なんで?なんで私?


「同じ制服みたいでしたので、お友達の方かと思ったのですが?」


 黒髪の女の子と、一瞬目が合う。


 すぐに視線を戻して


「友達です、こっちのチームはあの子と2人で出ます。」


 は?何を言ってるの?


「本当かよ、どー見てもあの子何言ってんだ?って顔してんだろうが」


 うんうんうんうん、全力で首を縦にふる。


 あの女は何を考えてるんだ。

  

 で、結局することになってしまった、なぜそうなるのかって?私が一番知りたいわよ!


「聞いている?」


 こんなことになったにもかかわらず、淡々と話を続けようとしいる、何か少しは掛ける言葉があるんじゃないだろうか。


 私は何も悪くないって顔が、余計にイライラしてくる。


「あなたは何もしなくていい、ただ立っていて」


 言われなくても何かするつもりはない、私には何も関係のない戦いだ。


「はぁー、はいはいここに立ってるだけでいいのね」

「えぇ、一応楽器を借りられるから、弾かなくても選らんで」


 ここは一応、楽器のレンタルもしているらしい、屋外なのに、すごい充実している。


 楽器を見渡す、ふとヴァイオリンが目に入る。


 もう辞めたはずなのに……


「決めた?弾かないのだから、はやくして」


 一言一言の言い方が、状況も相まって余計にむかつく、もう少し言い方ないの?まあ、心の中で思ったところでどうしようもない。


「このピアノにする」


 目の前にあったピアノを指さす、ヴァイオリン以外なら何でもよかったのかもしれない。楽器が決まり定位置につき、試合が始まるのをおとなしく待っていると、声を掛けられる。


「始まる前に、一つだけ言っておくわ、絶対に楽器に触らないで、例え1音でもかなりの影響力がある、どんなに騎士が強くても、奏者の演奏次第で勝敗が決まることもある、だから余計なことはしないで」


「言われなくたって触らないわよ!」


 ほんっとにむかつく、なんであんなに上から目線なのよ、言い方ってものがあるじゃない。彼女の物言いにイライラしているなか、試合は始まる。


「そろそろ試合のほう、始めていきます。実況は私、実況ねね《じっきょうねね》が行います、どんな白熱した試合を見せてくれるのでしょうか!」

 

 突然現れた、マイクを持った少女は、実況ねねと言うらしい、やっと分かった彼女の名前は、実況するために生まれてきたような名前だった。


「それでは、只今よりMMBの試合を開始いたします!」  


 で、こうなったわけだ、いつの間に巻き込まれて、こんなことになっていた、思い返しても意味が分からない、そう言っている間に試合は開始されてしまう。


「試合開始ー!!!!!!」


 試合開始の合図で飛び出す、あっちの演奏はヴァイオリンらしい、はっきり言って下手だ、少しずつ外れる音が気になってしょうがない。


「さあ、開始の合図とともに、両者一斉に飛び出したー!」 


「ここで、初めての方のために、MMBについて説明を挟みたいと思います!」


 私もあまり知らないから、説明は助かる。


「まず、MMBとはmagic、music、battleの略でMMBとなずけられ、今や世界中で人気の競技となっております。騎士と奏者に分かれて行う競技になっており、騎士はその名の通り、とは言え馬には乗っていませんが、騎士となって戦い、奏者は演奏をして、騎士のサポートを行います」


 どうしたら、勝敗が決まるのだろう?


「いい質問ですね!MMBの試合は、騎士がフィールド真ん中にある核を、40分間で奪い合って最後まで持っているか、相手チームを戦闘不能にしたチームが勝ちとなります」


 なるほど、シンプルでわかりやすい。でも騎士は何となくわかるけど、奏者ってどんな役割があるの?


「騎士というのは、基本的に戦闘がメインとなり、奏者というのは楽器を演奏し、騎士にバフを掛けたり、回復を掛けることが役割になります。奏者の演奏次第では、味方にバフではなくデバフが掛かってしまうことがあるので、注意が必要です」


 でも、演奏が重なってぐちゃぐちゃにならないの?


「このMMB専用機があれば解決なのです、この魔法が組み込まれている機械を頭に付ける事によって、音が混ざらないで綺麗に聞えるという優れものです」


 へー、勉強になる。あれ?私声に出してたっけ。


「まあー、細かいことは置いといて、おっと!ここで選手の情報が入ってきました」


 どこから入ってきたのよ!


「まずは北陣地、聖火せいか学園MMB部だ!!!!!!奏者は2年生佐藤のぞみ、騎士は3年生部長の鈴木渚すずきなぎさ、去年の大陸大会ベスト4で、どちらも実力のある選手になります」


 ベスト4、普通に強いとこなのね、勝てるのか少し不安になりながら見守る。


「そして南陣地、音咲アース学園奏者に、1年生結城あかね、騎士2年生黒峰雪奈くろみねゆきな、奏者に関する情報はありませんが、騎士の黒峰選手は、一昨年の中学MMB全国大会準優勝校のエース選手です」


 あの子強いの?全国大会って、しかもエース、本当に私は何もしなくてもよさそうね。


「どちらも実力者でしかも騎士、奏者ともに一人ずつしかいませんからね、これは短期決戦となるでしょう。」


 相手の演奏か下手とはいえ、こっちは奏者がいないから、少し不利な戦いになるだろう、だとしても演奏する気はない、私には関係のない戦いだ。


「おっと、鈴木選手が先に核にたどり着き、核を手に入れます、鈴木選手はスピードに定評がある選手ですからね、流石の速さです」


 核は先にとられたが、あの子黒峰雪奈は表情一つ変えない。


「ここで両選手が出会いました、最初に仕掛けたのは黒峰選手だ!氷の魔法で足を狙う、だが流石に鈴木選手速い、次々に繰り出される氷をよけていく!」

 

 あの氷の嵐をよけきっている、演奏でかなりのバフが掛かっているのと、黒峰雪奈の魔力と体力が落ちて、だんだん攻撃の手数も、スピードも減ってきてる。


「鈴木選手ここにきてスピードを上げていく!奏者との連携がうまくいっているようですね、バフでスピードを上げ、体力と魔力を回復してさらに速くなっている、これは黒峰選手追いつけないか」


 多分、ここにいる誰もが追いつけない、そう思っただろう、このまま終了時間まで逃げ切って、聖火学園側の勝ちだろうと。


「え、えっと今何があった?い、一体何があったのでしょうか、鈴木選手の足元が凍っている!!!」


 何かトリックがあるとか、そういうことではない、魔力で圧倒したんだ。


「凄まじい魔力だ!!!!!!まさかの奏者のバフも、回復も無しに、魔力で圧倒してきたーーー!!!」


 黒峰雪奈の顔が、一瞬だがモニター越しに見える、少し笑ってた?すごく楽しそうにMMBをやってる、私はあんなに楽しそうに、何かに夢中になったことがあっただろうか?昔ヴァイオリンを初めて触ったあの日⋯。


「黒峰選手が鈴木選手に迫る、ここで勝負が決まるか!!!!!!」


 黒峰雪奈が、とどめを刺すその瞬間。


ポーーーン


 ピアノの音が響く、その瞬間、黒峰雪奈の魔法が全てとけ膝が地面につく。


「あーっと、ここでまさかの黒峰選手にデバフがかかったーーー!」


 押してしまったのだ、昔のことを思い出していたら手が勝手に動いてしまっていた、無意識だった。


「ここで、すかさず鈴木選手が、黒峰選手にとどめを刺した---!!!」


「試合終了ーーーーーー!!!!!!」


「どうだ見たか、今日からここはあたしたちの場所だ」


 聖火学園の生徒たちは、そのまま練習に移る、黒峰雪奈は下を向いて動かない。


「あの」


 流石に今回の負けは、完全に私のせいだし、謝ろうと近ずいて声を掛けた。


「……な……よ」

「えっと」


 何か言っているが聞こえない。


「ふざけないでよ!!!!!!」


 突然、怒鳴られて固まってしまう。


「触らないでって言ったわよね、あなたは言ったことも理解できない、猿以下の人間なのかしら」

「な、確かに触った私が悪いけど、元はと言えばあんたが、無理やり私を試合に出したのが、悪いんじゃない」


 謝ろうと思っていたのに、ムカついてつい言い返してしまった、無理やり試合に出しておいて、その言い方はないんじゃないだろうか。


「嫌なら、さっさと帰ればよかったんじゃないかしら、本当に動物以下の知能しか持ち合わせていないようね」

「試合に出てやったのに、その態度は何なのよ!」

「はあ、もう目ざわりだから、目の前から消えてくれないかしら」

「言われなくたって、もう帰るわよ」


 ホントに何なの、確かに触ってしまった私も悪いけど、言い方って物があるんじゃないの?イライラしながら帰っていると連絡が入る。


「あ、やばい買い物!」


 買い物をしに、スーパーに向かって走る。


 この時はもう、絶対にMMBはやらないと心に決めていた、なのにまさかあんなことになるなんて思いもしなかった。


 


 




 





 


 





 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

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