第13話 かまどで作る最初のもの

-side ラルク-



「かまどができた」



 火は偉大だ。そして、それを効率よく利用するために使う文明の力も大変偉大なものだ。

 今、それが俺の目の前に現れた、その名もかまど。文明の力を作る道具をようやく手に入れた。ここからがスタートだ。



 かまどとは、火をためて、熱を利用して焼いたり蒸したり煮たりできる道具だ。ガスコンロ+オーブン+蒸し器をまとめた原始バージョン みたいな存在。

 これさえあれば、お肉や魚などの食材は焼けるし、スープなどの煮込み料理も作れるし、蒸し野菜などの料理も作れる。


 

 野菜以外にも、土器も作れるため盛り付けの道具も作れる。

 そうか。今気づいたけど、普段お皿を行商人から買ってるから、この村の外のどこかにかまどがあるのはほぼ確実だ。

 ただ、かまどの有用性をあまり知らないのか、この村にはあまりないのだろう。もしかしたら、危ないから子どもが発見できないところにあるのかもしれない。



「ふーむ。なにつくろー?」

「何やってるんだい?ラルク?--ってそれは!」



 うーんうーんと考えているとパパがやってきた。



「かまどー」

「だ、だよなあ……はあ、まさかラルク。自分でかまどを作ってしまったのかい?」

「うん」

「はあああああ……」



 パパが頭を抱えてこちらを見ている。


「簡単だったー」

「簡単だったって……、あのなあ……かまどって言ったら、普通職人がやってきて、数日かけて作るものなんだ。時間もお金もかかる。それをこんなに簡単に……」

「簡単だった」



 そう言って俺はかまどを指差すとパパは何も言えなくなる。

 確かに、前世いた日本でも江戸時代や明治時代には「かまど屋」と呼ばれる職人がいてその人たちが作ったとされるから、普通はそういう人たちが作るのが定番なのかもしれない。

 今作って思ったけど、素人が作るには危ない面も多いからね!

 俺もゲームの知識がなかったら、かまどなんて作れなかったかもしれない。



「あっ!それだっ!」



 ゲームの知識で思い出した!そうだよ!どうせかまどを作ったんだったら、できるだけ早めに、ダンジョンをもっと効率よく探索できるように道具や装備を整えるべきだよね!

 特に、長時間使っていても疲れにくく壊れにくい道具は必須である。



「ふっ……ふふふ……ぐへへへ……」

「ど、どうかしたのかい?」

「なんでもありません父上」



 やばっ!涎を垂らして笑っているのが父上にバレてしまった。一応貴族令息だし、しっかりしないと。



「とりあえず、かまどについては……一度、我が家専属のかまど屋さんにお願いして、見てもらおう」

「分かった〜」



 流石に、安全面を考えたらそれが一番か。



「と、まあ、それはそれ。実は私もラルクがかまどで何を作るか気になってくれるんだ。見せてくれないか?」

「あいっ!」



 ふむ。しかし、まだ、武器を作るには材料も準備も全然足りない。

 だから、今は家にある簡単なものだけで作ることにした。



「これとーこれ!」


 

 パパと一緒に台所に行き、料理人さんたちに貰った食料をパパに持って貰って、再びかまどに戻る。

 貰ってきたものは、麦粉の袋。



「はじめよー」

「楽しみだな」



 パパが興味深そうに覗き込んでいる。

 作るのはもちろん、パンだ。

 パンといっても、酵母を使わないパンなので、ピタパンやチャイに近いパンを作る。

 作り方は簡単だ。

 


「まずは麦粉をボウルに開けて、水と塩を混ぜる」


 

 俺はやや大げさに手でこねこねと混ぜ始めた。


 

「うん、良い感触……」


 

 そして、こねた生地を平たく伸ばす。厚さは指先で押したくらいの薄さ。発酵なしだから膨らまないけど、手軽に焼けるのだ。

 準備ができたら、生地をかまどの上に置く。じゅっと音が立ち、香ばしい匂いが広がる。

 


「おお……いい匂いだな」

「だねー」

 


 楽しみに待つこと数分後、生地は焦げ目を帯びて焼きあがった。見た目は少し硬めだが、確かにパンらしい。



「おおー!」



 そこに、台所から貰ってきた蜂蜜をちょっと塗る。おいしそ〜!


 

「いただきます!」


 

 ひとかじりすると、表面はカリッと、中はもちもち。塩の風味と麦の甘さが口に広がる。はちみつも甘くて美味しい。


 

「うん、うまい!」

「う、うまいっ!うますぎる!なんだこれは?」



 パパが驚きながら、味わっている。

 そこまで褒めてくれるとこっちもやってよかったなと思うよ。

 俺たちがそんな楽しい事をしていると、後ろから声がかかった。



「ゼクス様……いなくなったと思ったら、そんなところで何をしているんですか?」

「げっ……セバス!」

「げっ……ではありません、げっ……では。仕事中ですよ!それになんですか、その暴力的な香りは、なんて羨ましい!」



 どうやらパパは、仕事をサボってここにきていたようだ。そんなパパは、セバスのご機嫌を取ろうと、パンを渡す。

 --パクリと食べると、「美味しいです!」と驚いたように目を見開く。

 


「ほ、ほらな!このパン美味しいだろう?ラルクが作ったんだ!」

「ほう、流石はラルク様です!」



 褒められて嬉しい。これだけでも、かまどを作った甲斐があったというものだ。



「よしっ!では、お腹も満たされたという事で、サボってた分の仕事を取り戻しますよ、ゼクス様」

「えっ……もうちょっとここにいるのを許してくれないかい?」

「無理です」



 許されなかったみたい。

 パパがセバスに引き摺られているのを見送りながら、俺は他のものもを試しに作ってみる事にしたのだった。

 

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