第一曲目 第四楽章〜中盤〜

原井はとにかく人の好き嫌いが激しい。


自分のお気に入りには猫撫で声の挨拶をかわし、一度嫌いになった者には声すらかけない。


特に、嫌いになったやつのことは正論をかざし、退路を塞いで、徹底的にその人物の正気を削ってくる。


実は今まで不登校を10人、教員の病欠を3人出してる。これで管理職なのだから、もはや笑えてくる。

そんな僕も、彼の嫌いに認定された。


熱出して休んだ後の挨拶がなかった。

だから、お前の人間性は疑わしい。人間としてどうかと思う。


原井に言われた一言一句からその日の表情まで、いまでも鮮明に思い出せる。



何より、教え子の森ちなつという生徒がいた。

自分の意見をもち、若人ながら正義感がしっかりとある、教え子でありながら、尊敬する人物だった。

原井はそんな彼女を無視という形でクラスから追放していく。

上司からの不登校調査でも、「生徒が勝手に休んでく」の一点張り。だれも原井を止められない。


それを止められない僕も、また、同じくらい腹立たしい。


次の潰すターゲットは、同僚であり恋人である紺屋千秋。

彼女は優しく、誰にでも分け隔てなく接する。

原井はそんな人物は嫌いだ。自分の言うことを聞かない可能性があったり、自分より人気があるやつのことは潰しにかかる。


ここまで一気にはなした。

溜まってた。黙ってた。それは情けなかった。

悔しかった。


ウォルフガングが何か慰めてくれるかもしれない。そんな淡い期待があった。


しかし、ウォルフガングはそんなやつじゃなかった。


「はっはっは!!まだそんな奴がいるのかぁ!君も災難だな。シェーンブルンに私が居た時はもっと愚か者の数があったがな。ただ1人だろ?なんとまぁ、アルマヴィーバみたいな奴はいつの世もいるものか」


「アルマヴィーバって?」


「なんだ、私の名作、フィガロの結婚を知らぬわけではあるまい。そうか、スコアにはConte と書いたからな。」


Conte つまりは伯爵


オペラ「フィガロの結婚」にて主人公フィガロと相対する色に欲に忠実な男性だ。


「ということは、ここはちと、物語の力を借りて復讐するとしようではないか、音楽の友よ」


初めてそんな呼び方された。

こころの友、的な?

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音楽室で天才にレッスンされたら人生変わってきた…? むーしゅ @kumabaritone

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