第3話
「………………」
少しだけ視線をズラす。
扉越しでも目が合わないように気を付けながら。
そこに映ったのは1人の男。
サラリーマンなのか、グレーのスーツを着てる。 両足を広げ、だらしなく座る姿からは働いてるところなんて想像できないけど。
人が少ないからいいけど、いい大人がその座りかたは、どーよ?
それもだけど…。
縁なし眼鏡の奥に隠された目。
視線………。
10分前。
あたしより後に乗り込んできた、この男。
ただ何気なく人が乗り込んでくる様子を見てたら、男と目があった。
男は驚いた顔で目を見開き、あたしを凝視してきた。
何かと、あたしも男を見れば男はニターっと笑った。
それはそれは嬉しそうに…愉しくて仕方ないといったように満面の笑みを浮かべたんだ。
全身の毛という毛が逆立ち、鳥肌が立った。
今も立ってるけど…。
"ヤバい!!"
"アレはヤバい!!"
そう感じて、あからさまに視線を反らしたあたしの横を何事もなかったかのように男は通り過ぎて席についた。
声をかけられなくて、ホッとしたけど、それからずっと感じる視線。
ねっとりと、じっとりと全身を舐めまわされてるような…………。
ううう…(泣)
変なのに目をつけられたもんだ……(泣)
気持ち悪い…。
いつ男と目が合うかわからぬ怖さにあたしは扉から目を離す。
ケータイを開いて時間を確認すれば、午後14:23分。
後、5分もしないで目指す駅につく。
同じ駅で降りませんように!!
ゆっくり目を閉じ、視線をやり過ごしながら、ひたすらそれだけを祈った。
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