第41話 来客と救いの手

 最悪の目覚めだった。

 枕から顔を離したベルナルドの目に、陽光が突き刺さった。

 悲嘆に暮れた一夜が過ぎても、心はまだざわめいている。


 窓際に寄り掛かった彼は街道を見た。


 ヴァレリアあいつはやっぱり、帝国の人間なんだ。規則に従うマシーンじゃないか。

 そう頭の中で愚痴を広げてみる。


 だがつい最近まで、むしろ機械じみていたのは自分の方だったことを思い出す。

 そこから救ってくれたのは他でもないヴァレリアだったのに。

 店主の件についても、少なくとも彼女に悪意はなかった。


 ベルナルドはポツリと置かれたベンチに目を落とした。

 若い男女がくっついて座り、談笑している。

 盗み聞きするつもりはなかったが、不意に聞こえてきた言葉があった。


『私のこと、愛してる?』

『誰よりも』

、なに?』

『愛してるってことさ、誰よりもね』


 あいつらの頭上に吹雪でも降らせてやろうか、とベルナルドの心はささくれた。

 遅れて、羨ましさがふつふつと沸いてくる。

 あんな風に、自由に想いを伝えられるなんて。


「俺だって、さえなけりゃ……」


 ピン、と軽く青いそれを指で弾く。


「はぁ」と声に出してため息をした。「ヴァレリア、怒ってる……よなぁ~~やっぱり。酷いことを言ったし、けんか別れみたいになっちゃったし」


 扉が控え目にトントン、と叩かれた。

 扉をあけると、玄関前に二人が立っていた。


「我々のこと、覚えていらっしゃいますか。ベルナルドさん」


 小柄で落ち着いた雰囲気をまとう、ミディアムヘアの女性が言った。


「わたしはフレン、こちらはラムス」


 誰だっけ、とベルナルドが考え込む。

 フレンは苦笑しつつ言った。


「初めて将軍とあなたが『ロマンスのささやき』を試した時があったでしょう。わたしたちはそのイヤリングの開発者です」


 ベルナルドはようやく思い出した。

 宮殿の更衣室。

 イヤリングを着けたヴァレリア。

 彼女が「す」と言っただけで光り、音をまき散らしたイヤリング。

 大学から来た研究員二人。


「あんたらか!」


 ベルナルドはすぐに二人を招き入れた。

 といっても非常に狭い部屋故に、部屋の主がベッドの上であぐらをかき、研究員二人は縁に腰かける形となった。


 青年はその時、フレンとラムスの距離感に気が付く。


「あんたら、そんなに仲良かったっけ?」


 密着するレベルでくっついていた彼らは「あっ」。と二人で作った溝を覗き込んだ。


「実は……」フレンは言った。「私とラムスは、婚約したんです……」


「えっ」青年は口をあんぐりと開ける。「へ、へえ! そうだったのか……おめでとう」


 自分の恋愛が崖っぷちな時に人の色恋を祝福する、という複雑な気持ちだった。

 とはいえこの「研究以外に興味ありません」、と言いそうな二人が婚約までしたのだから、そこに関しては多大な興味を惹かれていた。


 ラムスがベルナルドの耳元を指しながら言った。


「覚えてますか、イヤリングを試した時のことを」


 ベルナルドは苦虫を噛みつぶしたような顔になる。


「そりゃあ……印象に残ったよ」

「でしょうね」ラムスが笑う。「あのとき私はデスイエロ将軍にこう頼みました、『ベルナルドさんに『好き』と言ってみてくれ』、と」

「そうそう。あいつが『す』って言っただけなのに反応してた」


 イヤリングに本心を読み取られて機械が反応してしまった、との話はヴァレリアから聞いてベルナルドも知っていた。

 だがその後の出来事は彼もすっかり忘れていた。


「そういえば、確かフレンさんが試しても、同じように光って反応してたと思うが」


 コクリ、とフレンが頷く。グレイの髪の下で頬が赤く染まっていた。


「わたし」フレンが言った。「あの直後、ふたりきりになったときに、ラムスに改めて告白したんです。四回繰り返してようやく信じてくれて、受け容れてくれました。――そして、、とも伝えました」


 ベルナルドは思わず背筋を伸ばし、前のめりになる。


「ちょっと待ってくれ。……てことは、あんたたちは知ってるのか? デスイエロが俺のことを……」


 ラムスが頷いた。


「はい、知っています。――デスイエロ将軍があなたを慕っている、と。……私たちはお二人を助けるためにここに来たんです」


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