第3話 信頼でも、失い。

テレビのニュースを見た俺たちは絶句していた。

特に莉子は絶望のあまりに、声も発すことすらできなかった。

「あぁぁぁぁ!!」

と莉子がいきなり大声で悲鳴を上げたと共に縮み込んでいた。


俺はすぐさま、莉子を抱きしめ、落ちかせた。


「俺がいるよ、莉子、泣くな泣くな、な?」

莉子の頭を撫でながら、必死に慰めようと優しく呼びかけた。


莉子は、橙弥の死から3日の間、水以外、食事も取らず、誰とでも喋らなかったそうだ。ずっと家で引きこもっていた。大事な息子の命が一瞬にて消えていたというのはあんまりにショック過ぎるからだ。

俺は当時の莉子をどうすれば元気にさせるか全くわからなかった。

そりゃ、俺も相当落ち込んでいたし、実際俺を最初に助けたのが莉子自身だったが、俺が莉子に何をしてあげられるかが肝だった。

そして思いついたのが「オッパイの実」作成だった。

ダメ元で怒られる覚悟だったのが、いざ実行しみたら、莉子は3日間ぶりに笑顔を見せた。

クスッと笑っていて、「ありがとう」って言ってくれた。

それから話をして、橙弥の死から5日後、全国の飲酒運転を2人で無くそうという夢を手がけた。


今の莉子はあの時のトラウマを呼び起こしたとも言えるだろう。


とにかく落ち着かせるのが先だ。

「よしよし、ダイジョブダイジョブだろう?」

「うん…ありがとう橙次郎さん…」

よっし、落ち着いたみたいだ!

とその瞬間、俺の携帯電話が鳴った。

「誰だろ?」

携帯電話はテレビの前のテーブルの家に置かれて、ブルブルと振動していた。着信音は当然俺の可愛い莉子ちゃんの「飲酒運転をやめよーよ」が響き渡った。

電話を出るのも嫌なぐらいうちのお嫁の歌声はきれいだった。けど今はそんなこと言ってられる場合ではない。


「知らない番号だな…」

とりあえず、電話に出てみた。

「はい、荒牧です。」

「荒牧さん、こちらが捜査一課の栗崎です。」

これが栗崎刑事の電話か…後で保存しておこうっと

「今のニュースをご覧になっておられますか?」

「栗崎さん…はい、島さんのことで間違いないのですか?」

と問いかけると、栗崎さんはこう話を始めた。

「はい。荒牧さんがくれた情報、つまり、名前と年齢、職場、後こちらで調べた住所と電話番号等、荒牧さんの知人の方で待ちがないでしょう。このニュースをご覧になっていない可能性があるので、電話を試みたのです。」

「そうですか…」

とある決意を勝手に決めたが、莉子に相談せずに、栗崎刑事にこう伺ってみた。

「あの、栗崎刑事、島さんとお話したいんですけど、それって可能ですか?」

それを聞いていた莉子が少し驚いた様子だった。

「橙次郎さん…」

栗崎刑事は話を続けた

「できなくはないが、まずは取り調べを行った後に面会出来るかどうかは島容疑者次第です。会えるかどうはその後でまた電話させていただきます。」


色々とややこしいけど、確かに事件の容疑者とすぐ面会出来るってなったら時間を取るのも至難の業だ。


「わかりました。よろしくお願いします。」


「では失礼いたします。」

と栗崎刑事との電話を切った。


「莉子ちゃん。」

「ん?」

莉子は「?」を浮かべながら首を傾げた。

「俺、島さんはなぜ飲酒運転なんかしたかを知りたい。これは俺たちの活動の一環でもあるから、俺が直接話してみる。」

「わかったよ!」

と莉子はとてつもなく可愛い笑顔を見せた。

「だから、いつになるかわからないけど、それまでに俺たちのやれることをやろうな!」

「うん!」

莉子ちゃん、元気を出したみたいだな!よかった!


と、思いも寄らない状況が発生した。


ブルブルブルブルブルブル…


え?また電話?

さっきと同じ番号だから、栗崎刑事か!登録し忘れたから後で追加しなくっちゃだ。

「はい、荒牧ですが?」

「荒牧さん、何度もすみません、捜査一課の栗崎です。」

と、信じられない言葉が電話越しで聞こえた。

「あの、荒牧さんと直接話をするまで取り調べを受けないと、島信三容疑者が…」


え?

俺と会話がしたい?なんで?わざわざ向こうから?

事件前まで話したこともないのに、なんでいきなり?

本当にわからないことが多すぎるけど、これがチャンスだ。絶好の機会だ。


「なるほどですね…ちょっとびっくりです。」

「ええ、こちら捜査一課もなぜわざわざ荒牧橙次郎さんと面会なんかと疑問に思う方も多いのですが、とにかく、大変お忙しい所で申し訳ないのですが、今すぐ、警視庁まで来ていただけますでしょうか?もちろん、強制ではありませんので、断っても結構です。」


答えは決まってる。


「今から行きます!多分警視庁まで着くのが1時間ぐらいかかります。」


「分かりました。お気をつけてお越しください。」

「はい、失礼します!」

と栗崎刑事との会話を終えて、莉子に話をかけた

「ということで、今から行くよ、莉子は振り付けとか、新しいアイデアとかあったら自分でいっぱい考えておいて」

「わかった…」

とちょっと寂しそうに言い返してくれた。

「すぐ戻るから」

と大胆かつ愛を込めて、ハグしながらキスをした。

「これをされたら、戻らないとかありえないよね…えへへへ」

とちょっと莉子らしくないド変態な笑顔を見せてくれた。


莉子のどんな笑顔は俺の救いでもあるんだ。


俺は準備を終え、すぐ車に乗り、警視庁へと向かった。安全運転でだ。


そして1時間後、警視庁へとたどり着いた。


「お待たしました。」

と栗崎刑事が迎えてくれた。

「急な呼び出し、大変失礼いたしました。来てくださってありがとうございます。」

とお礼とお辞儀もされ、面会室に案内された。


そこにはデカいガラス壁があり、刑事ドラマのように、会話が行えるように丸いマイクのようなものが用意された。向こう側はまだ誰もいない。ただぽっかりと両側に椅子が2脚があった。


俺はとりあえずその椅子に座り、何秒か待っていたら、向こう側から両手に手錠かけられ、今まで見たことのないような絶望と虚無感の島さんが現れた。


そして椅子に座り込んで、俺から話を始めた。

「島さん…本当に…」

「ヨハン・リーベルト」

「え?」

誰?

と島さんが話をし始めました。


「いや、すまん、君の世代ではわからんでも当然か…ちょっと一人語りするか…」

「そんなのどうでもいいんだよ!」

と強く言い返す俺に怒鳴りつける島さん。

「黙って聞け!若造が!」

と台パンをし、話を無理矢理続ける。

「1994年に出版された漫画の悪役の名じゃ。彼はわしが知っている実在するとしない悪者の中で最も残酷で卑劣な男じゃ。

彼は、椅子に座ったまま、人を殺し、何もせずに人を殺し、思うがままに人が死ぬ。そんな卑劣な男が描かれた。だがしかし彼にも酷い過去があった。彼が死ぬべきだったのじゃが、とある脳外科医の力によって蘇って再び悪事を働いた。まー何、所詮は漫画だ、空想の話だ。

だが、実際に人を指一本も動かさずに殺す方法があったら、それは一体なんだと思うかね?」

と長話に問いかけてきた島さん。

「犯罪者の思考なんてわかるわけねーよ、早く話済ませ」

「せっかちじゃなー」

と呆れた顔の島さんが自身の問い続けた。

「じゃー質問を変えるのじゃが、君は銃は扱えるか?」

「扱えない」

と答えた。

「じゃろうな、日本で銃を正確に扱える人は軍人でも難しかろ。」

「じゃー君は刀は扱えるのか?」

島さんは一体何がいいたいんだ?!

話は進まないが彼の話を素直に答えるしかないか…

「扱えない」

「それもそうじゃな、刀何かプロでないと扱いに困るんじゃ。」

「それじゃ、人を沢山、正確に、その場で死なせる一番手っ取り早い方法は、もう分かるかね?」

「車って言いたいだろう」

「正解じゃ。」

島さんはどんどん顔が悪者へと変換していく。

「この世で人の死は最も多いのは交通事故じゃ!

わしらがこうしてるのも誰だって車をもち、意思さえあれば人を殺せる犯罪者へと化けるのじゃ!」

高揚した島さんが言い放った。

「人はそんな簡単に犯罪者へとならないし、人もそんな簡単には死なない!ふざっけんな!ばかばかしい!」と大声で叫んだ

「じゃーわしを観ろ!見て悔め!俺が君の努力の結晶をぺちゃんこにした張本人だ!君がやろうとしていることは、無駄なんだよ!飲酒運転なんか減ることはないんじゃ!」

一瞬冷静になった。



なんで島さんはこんな必死で俺の意識を下げようとしてるんだ?島さんは今までの優しくて親切なおじいさんのイメージとは真逆というのは本性…本性に見えるけど本心ではない…何か裏が…それに、ヨハン・リーベルトの話…

「島さん…」

「ん?」



「誰だ?」



と島さんに素朴な質問をする。


「何のことじゃ?」

「君には墓場の管理人という仕事もありながら、他のひともあなたへ信頼も厚かった。それなのにあなたは飲酒運転なんかして、それは君の意識でやったとは合理的には考えられない!」

「人も獣と一緒じゃ!合理的ではなく本能によって動く生き物じゃ!」

「だから、誰だ!」

「誰だってなんじゃ、若人わこうど!」



「誰が、あなたを操った?」




「……」




島さんはそれに答えてなかった。


そして椅子から立ち上がり、島さんはこう小声で残して行った。


「君が思うより、もっとんじゃ。」

と話をそれからしなくなり、結局何のことか俺にはさっぱりだった。


栗崎刑事が後ろで話を聞き、面会室で話を終えた俺を迎えてくれた。

「面会、お疲れ様でした。大変貴重な情報もこちらで聞けたので、色々と調査もうまくいくそうです。」

「いえいえ、力になるだけでも、俺の使命なので。」

と栗崎刑事にお礼を言い、駐車場にある自分の車へと向かった。

【いつ戻るの?今日の夕飯は唐揚げだから一緒にスーパー行って買いに行こう!】15:50

とLINEが入った。

我が愛おしき莉子ちゃんからだ〜

【今面会が終わった!すぐ戻るからね!】16:05

既読はすぐに来るはずだけど、たぶん今お風呂かなんかか…とりあえず車を走らせる。


それにしても、島さんがあんなに必死で俺を絶望にさせようとしてたから、一体何が原動力なのか、もうちょっと調べる必要はあるか…

後、気になったことはやっぱり最後の小声で言ってた

「俺が思うよりもっと大きい」

それは飲酒運転のことだと思うけど、わざわざそれは小声で言う必要ある?

なんだったら叫ばいいじゃんそんな、あんなに盛り上がって喋ったんだから。


「車が人を殺す最適な道具」か…


家に帰るまでに道を気をつけないと…


車を走行中にあることを考える…


「大きい…大きい……大きいってなんだろう」


【回想】「誰が、あなたを操った?」


「…!」


もしかして、島さん、あの時にわざわざヒントを?

なぜだ?

やっぱり本能で動くって言ったからそうしたのか?

だったら説明がつくけど、それなら…



家に着いた。


「莉子ちゃーーーん!たっだいま〜唐揚げ買いに行こう〜!」

と機嫌を取り直して、莉子を呼んだ。

俺たちの活動はここからが本番だからな!怖じけずに前を歩かないとな!

「おーい莉子ちゃん、かくれんぼか?」

台所、寝室、ソファーの下、裏庭、お風呂、どこを探しても莉子は家中には居なかった…


「今はもう17時10分、暗くなるし、もう一人で出歩くのも危険だしな、どこだ莉子ちゃん…」


段々と心配になってきた。


玄関までに行って、投下箱に手紙が置いてあった。

「なんだコレ、差出人名はない…不気味だな」

開封すると…


「嫁は預かった。返してほしくば、5億円を用意しろ、11月4日の23時00分ミカンスーパーの裏で待ってる」


……

「莉子っ!」



          次回へ続く







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