第7話

それはやはり、凪沙が付き合っていた男で。



観衆の前でコケにされたこともそうだが、ポッと出のアリスから凪沙との別れを告げられたことが余程腹が立ったのだろう。



怒りで血走った目は、溢れ落ちそうなほど見開かれアリスだけを凝視している。



雄叫びと男のその様子に、道行く人達は男とアリスから慌てて距離を取り、二人の間にはなんの障害もない道が出来た。




「黙って引き下がっとれば良かったのに、アホが」




見た者が底冷えするような瞳で男を見たアリスが呟く。




「アリスッ」



「アリスちゃんっ」



「危ないから下がっとき」




雄叫びにビビって抱き合い、後退りしまくっていた正義と凪沙がアリスの元へ来ようとするのを言葉だけで止める。



視線は片時も男から放さない。



アリス自身は己の身に降りかかってくる厄災は己で振り払うことが出来る。



目には目を。


歯には歯を。


暴力には暴力を。


虹の家を出てから、そう生きてきたから。




だが後ろに居る弟達はそうではない。



男の暴力に抗う術を持っていない。



姉であるアリスが守るべき存在達。



怒り狂った男がそのままアリスに向かってくるならいい。



が、力量の差を感じ取り正義と凪沙、もしくは周りの全く関係のない人に矛先が向くかもしれない。



だから視線は外さない。




「凪沙ーっ!!」

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