第2話 片翼の烏


私の旦那は職がなくて貧乏で、また変な人たった。いつも雨が降ったり、雪が降ったりすると大喜びで庭をかけ回っていた。

晴れの日はいつもつまらなそうな顔をして縁側に座っていて、私が洗濯物を干したりしていると、急に座り直して、雨や雨やと拝んでいた。


そんなもんだから、私はこれは変な人だなあと思っていた。

そして私たちにはなかなか子どもができなかったから、私には「普通にできることが出来ない」と泣いて過ごしたりする時もあって、そんな時は一層に旦那が狂っていた。


ある夜のこと、いつものように夕飯を作って、二人で食べていると、旦那が急に語り出した。


「今までお前はどんなにか俺のことを狂った人間だと思ったかもしれないけれど、それをお首にも出さないでいてくれたことは俺はとても嬉しかった。俺は子どもができなくてお前が泣いていたことを知っている。そして、そのことをずっと龍神様にお願いしていたのだ。」


と言って味噌汁を啜った。

急にそんな変なことを言うもんだけど、私はいつも変だと思ってたから、へえ、そうなのと聞いていた。


「そうしたら龍神様に祈りが通じて、今晩俺は雨になる。俺の上半身は雨と金になってお前の一生を見守り続ける。俺の下半身は子種となってお前に子どもを身ごもらせる。良かった本当に、お前が泣いて暮らさなくなることを俺は喜んでいる。金もない俺がお前を支えてやれる。なんと嬉しいことか」



そんなことをとうとうと喋ったから、私が


「でもあんたがいなくなったら私はなんか寂しいわ。」


と言ったら、驚いたような顔をして

「じゃあ、やめるか」とボソリと呟き、だまってしまった。



それから、結局雨の日に踊ったりしなくなった。


私たち夫婦は、貧乏は治らなかったけど、お互いを想いあうだけじゃなくて、思っていることを丁寧に言葉にして暮らすようになった。

そして、私は泣かなくなった。子どもはできなかったから、養子を何人も受けいれた。


そんなこんなで慎ましく幸せに暮らしている。

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短編集 かさかさたろう @kasakasatarou

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