第21話役人

 


 結婚なんて個人の自由だし、幸せになるのは素敵なことなんだけど、何故かくる、この置いていかれた孤独感! いいのよ? 勿論、祝福するわ!

 ああ、そう言えば社畜時代も、新人の若い女の子達が次から次へと結婚したな……結婚報告する時の、あの気まずい雰囲気! 『え、佐吉さんを置いて先に結婚してごめんなさい』みたいな、気を使わせる雰囲気! いいのよ!? 結婚して! 私を気に病まないで!?


「よく意味は分からないけど、一旦、落ち着こうか」


「ああ、ごめんなさい」


 つい、前世のことを思い出して興奮してしまったわ。でもそうか、イリアーナ、結婚していたのね。


「イリアーナが幸せで良かったわ」


「役所で彼女に冷たく追い払われたと聞きましたが、それでも彼女の幸せが嬉しいですか?」


「あら、当然よ。イリアーナのこと、大好きだもの」


 置いていかれたとか、取り残されたとか、寂しいとか、そう思ったりもするけど、一周回って、大好きな人が幸せになるのは、嬉しい。


 私がまだ幼い頃、お父様と一緒に役所に来た人見知りの私に、優しく声をかけてくれて、頭を撫でてくれたイリアーナ。お父様が亡くなった時には、私と一緒になって泣いてくれた。

 今は冷たく突き放されてしまったけど、私が不甲斐ないから見限っただけで、イリアーナは何も悪く無い。いつか、私を許してくれる日が来たら……その時は、また仲良くして欲しいわ。


「――だ、そうですよ、イリアーナ」


「え? イリアーナ!」


 いつからそこにいたのか、隠れるように部屋の外にいたイリアーナは、アルヴィンに名前を出されると、バツが悪そうに渋々姿を現した。


「どうしたの? いつからそこに?」


「そ、それは……」


「朝からずっとフィオナ様の様子を伺っていましたよ」


「朝からって、引越しの最初から? アルヴィン、それに気付いていたの?」


「ええ、最初から」


 言えよ。


「……お嬢様、申し訳ありません。私……お嬢様に失礼なことを……」


「イリアーナが謝る必要無いわ、私が悪いの」


「いいえ、私がもっとお嬢様を守っていれば、あんなロクでも無い男にお嬢様が引っ掛からなくてすんだのに……!」


「そうね、悪いのはローレイよ。それについて議論するつもりは微塵も無いわ」


 か弱くて純粋な私を誑かして騙して、好き放題したあいつが完全に悪い。ローレイと結婚していた事実を消し去りたいくらい、闇歴史だわ。

 あんなのと結婚するくらいなら、一生独身で結構。十分、一人で生きていけますしね。


「……お嬢様は、本当に変わられたんですね」


「ええ、頭を打って性格が変わりました」


「はい?」


 あら、これも駄目? 折角アルヴィンからもらった良い案だと思ったのに。


「はは、フィオナ様は面白い人ですね」


「お褒めの言葉と受け取っておくわ、アルヴィン」


「……フィオナ様、改めて謝罪します。先の無礼な態度、失礼しました。今後、私含むカルディアリアム領の役人は皆、フィオナ様に忠誠を誓います」


「ありがとうイリアーナ。イリアーナ達が力になってくれれば、こんなに心強いことはないわ」


 そこからは、イリアーナと一緒に来ていた他の役人と一緒に、孤児院の引越し作業を手伝った。

 私が進んで荷物を運び、周りに指示出しをしている姿を見て、成長に喜び涙ぐんでいる人が何人かいたが、もう見ないフリをした。



「結婚おめでとう、イリアーナ」


「ありがとうございます、フィオナ様」


 引越し作業を終え、帰りの馬車の前、私は改めてお祝いの言葉を口にした。

 聞くところによると、私宛に結婚式の招待状も送ったらしいのだが、私の手元には届かなかった。つまり、ローレイは私に招待状を渡さず、勝手に捨てたってことね、ふざけてんな。


「ところで、イリアーナにお願いがあるんだけど、私の補佐官になってくれない?」


「補佐官ですか?」


 前世、社畜として会社勤めしていたけど、お役所務めの経験は無い。勿論、今世、箱入り娘のフィオナが領地運営の勉強なんてしていたワケも無く、今はジェームズの力を借りながら手探り状態で領主としての仕事をこなしている。でも、本来ジェームズは執事長として家のことも任せてあるし、そこまで負担をかけたくないのが本音。

 信頼も出来て、役所勤めの経験を持つイリアーナが私の補佐官になってくれたら、とても助かる。


「ありがたいお話なのですが、私は役所でそれなりの地位がありますので、現場を離れることは難しいです」


「そう……そうよね」


 言われてみれば、立場のある人がほいほい抜けることなんて出来ないわよね、失念していたわ。


「では、イリアーナから見て誰か適切な人を寄越してくれない? イリアーナの推薦なら、私も信頼出来るわ」


「推薦……」


 私の言葉に、何故か怪訝な表情を浮かべるイリアーナ。どうしたのかしら? あ、もしかして、人が足りなくて誰も寄越したくないとか? それなら仕方ないわ。


「いないなら別にいいのよ、無理を言ってごめんなさい」


「いえ、いないわけではないのですが……」

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