3「探索」

次の日。


香苗は、とある山に来ていた。

カブトムシを逃がすためだ。

山には、とても紅葉が綺麗で、とても赤く咲いている。


「さて、君は、どの樹がいい?」


すると、目の前にはクマがいた。

香苗は「あ、ここで私、亡くなる。」と瞬間的に思った。

その場で動けずにいて、クマが襲ってきそうにしている。


駄目だって思った瞬間。


「昆虫達。クマを退治しろ!」


その一言と共に現れたのは、沢山の昆虫に囲まれた阜部であった。

クマを見ると、沢山の昆虫達に襲われ、逃げて行った。

襲われたといっても、警告なだけでクマには怪我はない。


阜部は、香苗に声を掛ける。


「大丈夫ですか?」

「貴方、どうして?」

「実は、香苗さんの同僚達に怒られちゃいまして。」




阜部は、香苗の部署へと行くと、そこで一緒に働いていた人ににらまれた。

香苗の姿はなかった。


「君、秋元香苗さんは?」


訊かれたまい子は、眉間にしわを寄せていて、嫌な顔をしている。


「もしかして、香苗に何かしたの、あんた?」

「え?」

「香苗、会社、昨日付けで辞めたのよ。」

「なんで?」

「昨日、午後からの仕事来なかったから、気になったの。私、香苗とは、この会社でとても仲良かったからね。お昼ご飯は、香苗、お弁当持って来ていたし、私は料理下手だからお弁当作ってなくて、社食だったから、その時は一緒にはいかなったけれど。それでも、私は香苗を好きで、これからも一緒にやっていけると思っていたのに。」


まい子は、いきなり、理由もなく消えた香苗を、とても好きで、大切に思っていたのが阜部には伝わっていた。

阜部は、まい子に向かって。


「一発、殴って欲しい。」


と頼むと。


「嫌よ。それで済まそうとしているなんて、許さない。もし、許して欲しいと思うなら、香苗を見つけて連れて来て!」


すると、この部屋にいる人も、まい子と同じように思っていた。

香苗にマッサージをされて以来、とても身体が軽くて、健康的になり、悩んでいた鼻水とか、咳に、かゆみなどが消えたという人が多くいたからだ。

その中にも辞表を受け取った上司もいた。


「まだ、辞表は出していないんだ。私の所で止めてある。時間は、そうだな。三日間。三日経っても、香苗さんが戻らなければ、この辞表は効果発動する。すると、もう、この会社には戻ってこれない。どうするかね?昆虫研究をしている阜部杏里さん?」


思い当たる事が多いため、阜部は、その部屋を出た。

香苗を探すために必要なのは、香苗が住んでいた所に行く。

その為には、研究室に入ると、クワガタを出した。

このクワガタは、阜部と長い付き合いだ。


「昨日、この部屋に来た女性を探したい。協力してくれ。」


すると、クワガタは飛び始めた。

研究室の扉に付くと、阜部が扉を開ける。

クワガタは、会社の外へと行くために、数多くの扉を開ける。

外に出ると、クワガタは、右へと進む。

クワガタを追って、阜部は行くと、一軒のアパートに着いた。


「ここが、香苗さんがいるアパート。」


クワガタは、アパートの一室にある扉に張り付く。

その前に来て、阜部は一息吐くと、チャイムを鳴らした。

だが、返答がない。

何度も鳴らすから、隣の人が出て来た。


「そこの人、今日、朝早く、車で出かけたわよ。」

「え?どこへ行くとかは?」

「訊いていないわよ。今の時代、そういうの個人情報でしょ?知っていても、私は言わないわ。」


阜部は、ここまでかと思い、クワガタを見ると、そういえば、カブトムシを大切にしていたな。

その時、決意して、会社に戻り、有給休暇が消化していないなって思い、上司に三日間の有給を願い出て、研究室にある昆虫達を一緒に研究している同僚に任せた。


香苗を見つける為に、住んでいたアパートに再度着て見ると、そこにはまい子がいた。

まい子は、阜部を見ると。


「本当はみせたくないんだけれど。」


といいながら、香苗が唯一、書いた手紙を見せる。

手紙には、勝手に相談もなしに会社を辞めた事の謝罪と、次の住む地域が書いてあった。

香苗は、この会社に勤める前に、色々な会社へと面接に行っている。

その時に、いつでも連絡くれれば、内定にするという香苗を気に入った会社があり、そこへと向かったのである。


「唯一私だけに教えてくれたのよ。香苗を探してきて。」

「分かった。」


住む地域は、ここからは遠かった。

車で行くと、五時間はかかるのでは?と思っていた。


どんな地域なのかを、インターネットで調べると、とても田舎であった。

植わっている木々が、とても健康そうで、この自然なら昆虫達も楽しそうに過ごせるだろう。


阜部は、そこで連れて来たクワガタに、一緒にいたカブトムシを探すようにいうと、クワガタは何かを察したのか、飛び始めた。

阜部は、その後を追いかけると、クマに襲われそうになっている香苗を見つけたのである。






「わかりました。助けて下さりありがとうございます。」

「いえ、私が悪かったのですよ。さ、会社に帰りましょう。今なら、まだ、間に合います。それに、同僚達も心配していますよ。鬼怒川まい子さんが、一番心配をされています。」


すると、香苗は拒否をした。

だが、阜部は負けなかった。


「会社へは、一度、顔を合わせて、話をしたらいい。心配をかけたのだからね。」

「わかりました。その前に。」


香苗は、カブトムシを自然へと帰した。


「おつかれさまです。」


その帰した姿は、とても切なそうにしていた。


阜部は、この地へ公共交通機関で来ていた為、香苗の車で一緒に帰る。

一度、アパートに行ってから、次の日に会社へと思って居たのだが、そうすると香苗はまた逃げて行きそうだったから、まい子に連絡をして、皆に会社で待つように言ってもらった。


会社へ着くと、もうすっかり定時時間は過ぎており、残業時間となっていたが、それでも香苗の同僚全て待機して待っていた。

阜部につれてこられた香苗を見て、まい子は抱き着いた。


「心配かけて。」

「ごめん。」


香苗は、まい子を見ると、後ろにいる同僚達を見る。


「勝手に抜けてごめんなさい。」


すると、同僚達も謝ってきた。


「何かを隠している様だったけれど、何も言わずに、辛さだけを秋元さんに背負わせていた。」

「私達、香苗さんにマッサージされた時から、とても、身体の調子がいいの。でも、香苗さん自身は、変わらない体調だったから、何かあるんじゃないかって思って居たの。」

「だけど、隠していたから、触れずにいたんだ。」


そんな言葉が聞こえて来た。

確かに言えない事がある。


前に来た上司が。


「何を隠して生きていかないといけないのかは、分かっているから、この会社に戻って来てくれないか?秋元さんの隠し事は、私達が隠すから、安心して欲しい。」


そこまで言われると、香苗は、一気に涙を浮かべた。

そして、会社へと戻ってきた。


それから、二年経った時、相変わらず、会社はイベントを開いて、着ぐるみを香苗に任せていた。

夏のイベントが終わった後、香苗は自分の借りているアパートへと帰ってきた。

瞬間、身体がふらつき、めまいもしていた。

どうしても、立っていられなくなり、玄関先で大きな音を立てて倒れた。






「あれ?この空間は?」


周りが暗い空間に、香苗はいた。

香苗は、周りを見ると、そこには黒神がいた。

黒神は、カブトムシを手のひらに乗せていた。


「この子を助けてくれてありがとうね。秋元香苗さん。そして、少し話をしなければなりません。」


黒神は、カブトムシを香苗に渡すと。


「香苗さんは、数多くのアレルギーを持っている人を助けました。でも、それは、香苗さんの寿命を減らす行為でもあったのです。」


香苗は黙って聞いている。


「血の能力を持っている人は、その力を使いすぎると、自分の寿命を減らします。ですので、極力使わない方向で香苗さんに圧をかけたつもりでした。でも、生をまっとうするという力が強く、自分の力を発揮してしまったのでしょう。」


黒神が、そこまで話すと、黒神の後ろから来たのは、最高神であった。

最高神は、微笑んでいた。


「黒神。言いにくい説明ありがとう。下がっていいよ。」

「はい。」


黒神は、月神が待っている住まいに帰っていく。

この空間に残されたのは、香苗と最高神だけであった。


「さて、今の地上を見せます。」


下を見ると、玄関で倒れた音で、隣の人が気づいて香苗が借りているアパートの扉を開いた。

帰ってきたばかりで鍵は掛けていなかった。

隣の人が救急車を呼び、手袋をして、香苗が持っていたスマートフォンを、香苗の指紋を借りて操作すると、連絡先に弟とあった。

その弟に連絡をし、受けた弟が婚約者と両親を連れて、病院へと行く。


それを見ていたアパート付近にいた昆虫達が、一斉に香苗の勤めている会社へと飛んでいき、阜部を見つけて声を掛けた。

阜部は、まい子についてこいと言って、病院へと行くと、既に香苗は息を引き取っていた。


家族と同僚は、悲しみにくれている。


「さて、ここまで見て来て、どうだ?」

「人を助けるには、覚悟が必要だとわかりました。」

「そうだね。でも、香苗さんは、とても多くの人を助けて来ました。その褒美を、神としては授けたいのですが、何がいいですか?」


すると、香苗は当然。


「畑野冬至に合わせてください。」


すると、最高神は曇った顔をさせた。


「いないの?」


香苗は訊くと。


「畑野冬至の魂が、転生をしたいといってきてな。つい、一昨日、転生をしたばかりじゃ。」

「すれ違ってしまったのね。」

「一日ずれていれば、転生しなくても良かったのかもしれないな。」

「だったら、今の召喚士はいないの?」

「候補はいるから、声をかけてみるよ。で、お主はどうする?ここには、畑野冬至はいないよ。」


だけど、最高神は何か褒美をあげたくなり、紅葉の神にならないかと持ち掛けた。

それからは、香苗は紅葉の神になり、地上にいると転生した畑野冬至と再会し、一緒に過ごし始めた。


ふと、紅葉の神となり、少し経った時。

一匹のカブトムシとクワガタが、香苗が宿っている紅葉に止まった。

そのカブトムシとクワガタは、黒神が放った昆虫であった。


「すみません。」


その様に言ってかけて来た二人の人物がいた。

香苗は、その二人を知っている。

老けていてはいるが、神になったのか魂でわかる。


阜部杏里と鬼怒川まい子だ。

二人の左手の薬指には、お揃いの指輪があった。


「あの、私達と暮らしているカブトムシとクワガタが、お宅の紅葉にくっついてしまって、取らせてください。」


まい子が言うと、畑野冬至の転生した名前黄田銀羽きだぎんはが出向いて。


「いいですよ。」


門を開けた。

近くに来たまい子と阜部は、紅葉を見ると、ふと。


「「香苗。」」


その言葉を言っていた。

銀羽は、その言葉で驚いていると、そこから、秋元香苗の事で畑野冬至、鬼怒川まい子、阜部杏里は、昔話をし始めた。


今では、会社のイベントでの出来事は、都市伝説となっているが、それが手伝い、就職先へと志願する人が増えていた話もあった。


秋元香苗の話をしている間、香苗は、その手に似た葉っぱを数多くの人を救う様に、太陽に向かって伸ばしていた。


終わり

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