第12話 草食系だと思っていた親友が
——その二人の顔を見た瞬間。
僕は、この世の無情を知った。
「……え……ゆ、雪村、さん?」
「うそ……っていうか、天野、くんも? なんで?」
「……」
「……あー……」
震える指でこちらを指す二人。
三山蓮二と、柏木琴羽。
なぜここに、とか。
なんでこの二人が、とか。
聞きたいことは色々あるけど、とりあえず。
(……これ、詰んだ?)
僕は天井を仰いだ。
ああ、もうダメじゃん……なんでだよ。
ここ学校からかなり離れてるのに、なんで察知してくるんだよ。
どうせ蓮二だろ。こいつの美女に対する嗅覚を舐めてた。ちくしょう。
もはや仕事のことなどカケラも頭にない僕に対し、美月は。
「……えっと。二名様で、よろしいですか?」
……なんか普通に接客してた。
すごい。さすがは雪村美月。この状況にすら動じないとは。
いや、この子らしいと言えばらしいけど。
いつも通りと言えば、いつも通りだけども。
……でも普通、ちょっとぐらい慌てない?
「え、あ、はい……」
「二名、です……」
そんなニュートラルな美月に、二人もとりあえず頷いた。
「では、こちらの席へどうぞ」
と、勧められるがままに席に着く二人。
そしてその直後、僕に向けて凄まじい視線を飛ばしてくる。
(……伊織)
(……天野くん)
((ちょっとこっちこいや))
……ですよね。
その眼光に、僕は洗い物の手を止め、肩を落として席に向かう。
「……はい」
「おいどういうことだ? なんでお前が雪村さんと働いてんだ!?」
「うん、説明。説明して。早く」
「……あー……」
さてどうしよう。
いや、どうしようもないんだけど。
説明……しなきゃダメかな……?
「……バイト、終わってからでもいいでしょうか……?」
とりあえず僕は、そう言って執行猶予をいただくことにした。
——そしてバイト終了後、近くのファミレスにて。
「……そっかー! たまたま偶然バイト先が一緒になっただけだったのかー!」
「そ、そうそう、そうなんだよ」
僕達四人は、角のボックス席に集まっていた。
蓮二と柏木さんは、結局僕達のバイトが終わるまで店に居座り続けた。
血走った目で僕らを見る蓮二。
酷く複雑そうな目で見る柏木さん。
……そんな中で働く二時間は、本当に地獄のような時間だった。
そして、バイト終了後に、ファミレスで尋問を受けることになったのだが……
「……なんて言い訳が苦しいのは、さすがに分かってるよな? 伊織くん?」
「ぐっ……」
もしかしたら、ワンチャン誤魔化せるかなー……?
なんて思って言ってみたが、ダメだった。
目が全く笑っていない蓮二が、ぐいっと身を乗り出してくる。
「もうこの際だ。全部吐け。俺には分かる。お前と雪村さんの距離感は”普通じゃない”」
「……」
「ぶっちゃけ俺も聞くのが怖い。今もちびりかけてる。でもここで聞かずに帰って悶々とする方がもっと嫌だ。なあ柏木ちゃん?」
「……まあ、うん。さすがに、説明は欲しいかな」
柏木さんは、僕の隣に座る美月の方をちらり、と見る。
しかし彼女は、すん、とした顔で座っており、我関せずの態度を崩さない。
(……なるほど、つまり僕に任せる、と)
まあ……そうだろうな。
こいつはきっと、どちらでもいいのだ。
僕が話そうと、話すまいと。
改めて目の前の二人を見る。
赤の他人ならともかく、この二人なら。
(信用できる……なんて、甘いかな)
大きく深呼吸をする。
どの道言い逃れができる状況じゃない。
ここまできたら、覚悟を決めよう。
「分かった……話すよ」
「お、おう……こいや!」
「……」
緊迫感漂うファミレス。
あれ、ファミレスってこんな緊張するところだったっけ……? と疑問が浮かぶ。
そして、一通りの事情を話し終えた。
話している最中、二人は面白いぐらい百面相をしていた。
……やがて、最後まで話を聞き終えた二人は。
「……嘘……だろ?」
「……」
「なあ……柏木ちゃん? 俺の頬つねってくんない?」
「嫌」
蓮二は、唖然とした顔で固まった。
隣の柏木さんも、魂が抜けたような顔でソファに沈み込んでいた。
「つまり……まとめるとだ」
「……うん」
「お前と雪村さんは幼馴染で? 家が隣で? ずっと半同棲に近い生活をしてたけど? つい最近雪村さんの方から告白して、正式に付き合うことになった……と?」
「……うん」
「……ありえんの? そんなこと」
「……ありえないと、僕も思う」
「……」
「……」
ものすごく痛い沈黙。
たっぷり、メロンソーダ一杯が空になるだけの時間。
やがて、とうとう沈黙に耐えられなくなった僕が、声をかけようとすると……
「う……」
「う?」
「……う……うらやまじいいっっっ!!!!」
「……えぇ」
突如くわっ! と顔を見開いた蓮二が、ガタッ! と席を立った。
「お前……! おまえ!!! なんだそれ! なんだそのありえない幸運!? ズルいじゃんそんなんっ!!!??」
そのまま身を乗り出して僕の胸元を掴み、ガクガクと揺らしてくる。
「や、やめっ……! ちょ、おま……!」
「分かってんのか!? 雪村美月だぞ!!? 我が校の全男子の憧れだぞ!? お、おれ……俺だって……っ! ふんがぁぁぁあ!!!」
怖い。
完全に我を失っている蓮二を止めようとするが、暴走状態の蓮二は止まらない。
そのままガクガクとひたすら揺さぶられていると。
げしっ、と横から柏木さんが蓮二のふくらはぎを蹴った。
「いでっ!?」
「落ち着けバカ。ファミレスで暴れない」
「ぐっ……お、お前はいいのかよ!? 伊織の彼女が雪村さんとか! ありえねーだろ!?」
「私は……もちろん驚いたけど。その説明を今聞いてるんでしょうが」
「む、むぐぐ……」
比較的冷静な柏木さんにほっとする。
でも……なんだろう。ちょっと目が怖い。
「ち、ちなみにだが……」
「な、なに……?」
蓮二が、わなわなと震える手で僕を指差す。
「お前ら……もう、シてんのか……?」
「……?」
シ、てる? なんのこと……?
一瞬疑問符が浮かんだが、しかし、すぐに思い至った。
こいつ……なんつーことを。
同時にすっ……と目を逸らす僕と美月。
そして、それを見た蓮二は。
「……お、おまえぇぇぇぇ!!!」
「ふごぉぉ!!」
「マジか……マジかぁ!!? 嘘だろぉ!? 嘘だと言ってくれぇ!!!」
ガクガク! マグニチュード5ぐらいの揺れ。
さっき飲んだメロンソーダがせり上がってきた。やめて!
「い、伊織が……! 草食系男子だと思ってた俺の親友が……っ! いつの間にか学園のマドンナで童貞卒業してた件についてっ……!!」
「……」
……なに、その絶対売れないラブコメタイトルみたいなの。
てか大声やめろ。周りの人が見てるだろ。
「でも……私もびっくりした」
そんな蓮二へのツッコミすら忘れ、呆然とした様子で柏木さんが言う。
「まさかとは思ったけど、本当に……?」
その視線は、僕ではなく美月に向けられていた。
しかし美月は、それにも動じた様子はない。
いつも通りの無表情で、ただ黙ってその視線を受け止めていた。
そんな中、蓮二は恨めしそうな目で。
「い、伊織……! お前は親友だと思ってたのに……っ! 俺が雪村さんのこと好きなの知ってて……!」
「……っ」
その言葉に、僕は思わず顔を顰める。
……そこについてだけは……正直弱る。
僕自身、こいつに殴られても仕方のないことをしている自覚はあった。
謝って済むことではないが、こいつがそうしたいなら、一発くらいは甘んじるつもりだ。
「……蓮二」
そう思って、声をかけようとした時。
「あー天野くん。擁護するわけじゃないけど、こいつ雪村さんに告白した次の日に私にも告ってきたから、気にしなくていいよ」
「え」
「そ、それは今関係ねーだろ!?」
衝撃的な言葉に、一瞬思考が止まる。
え、うそ? 告白した? 蓮二が、柏木さんに……?
「こいつ基本可愛い子なら誰にでも告白するから、真に受けない方がいいって」
「ちょ、柏木ちゃん!? ひどくね!?」
「え……っていうか、蓮二と柏木さんって……」
どういう、関係なのだろうか。
そんなに仲のいいイメージもなかったけど。
「ああ……うん。中学が同じなの。ただの腐れ縁だから、間違っても変な勘違いはしないでね」
心底嫌そうにそう言う柏木さん。
それに崩れ落ちる蓮二。
「そ、そこまで言うことなくね!? 結構仲良い方だろ!?」
「まあ、他の男子よりは……でも恋愛感情とかカケラもないから」
はっきり切り捨てる柏木さん。
普段優しいだけに、ここまでばっさりいくのも珍しい。
……蓮二の日頃の行いゆえ、ということだろうか。
「けどまさか、恋敵がよりによって雪村さんなんて……勝ち目がないどころじゃなかったなぁ……」
美月の方を見て、柏木さんは苦笑する。
それに僕が、どう反応すべきか悩んでいると。
「ね、天野くん」
「え……? は、はい?」
「悪いんだけど、ちょっと雪村さんと二人にしてくれないかな?」
「え……」
「ちょっと話してみたくて。ダメ?」
その言葉に、固まる僕。
ついでに蓮二も固まった。
僕の彼女と、僕が振った女の子。
その二人を二人きりにするのはまずい。というのは、いくら僕でもわかる。
思わず美月の方を見ると。
「……うん。あたしはいいよ」
普段通りの無表情で、そう頷いた。
まじで? と思わず二度見する僕と蓮二。
「うん、じゃあそういうわけで。ほら蓮二、あんたも」
「お、おう……」
そうして。
僕と蓮二は、ファミレスから追い出されることとなった。
……え、やばいでしょ。これ。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
あとがき
皆様、新年あけましておめでとうございます!
昨年はたくさんのご支援、ご支持、誠にありがとうございました!
新年一発目、元旦に間に合わず申し訳ございません……!
今年もこの『顔の良すぎる幼馴染』を、何卒お楽しみにしていただけますと幸いです!
☆☆☆とフォローも、いつも大変ありがたく思っております……!
皆様、2025年も何卒、よろしくお願い致します!
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