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Nora_

01

 小さい頃は考えなしでそのくせ、なんでも言ってきたから呆れられることも多かった

 残ってくれていた友達だって時間が経過し、我慢の限界がくれば離れていく。

 そういうのもあって高校一年生現在の友達はゼロだった。

 自業自得、被害者面もできないから静かに学校に通っている。


「あれ、まだ残っていたのか?」

「はい」


 意味もなく遅い時間まで残って帰るのが常のことだった。

 大崎唯おおさきゆい、私は昔と違って友達に迷惑をかけないこの過ごし方を気に入っていた。


「よっこいしょっと」

「今日はやらなければいけないことはないんですか?」

「あるけど……朝から忙しかったから少し休憩だ」


 この人は白坂陽治しらさかようじ先生、私の担任の先生だ。


「唐突だけど大崎、まだ駄目なのか?」

「まだ動いていません」

「でも、もう六月になるところだぞ?」

「自由に生きすぎて一人になってそれで反省したのでこのままでいいですよ」


 友達ができたらまた失敗してしまう可能性が高い。

 過去と違って気を付けているからこそいま離れられたら駄目になる、つまり怖いのだ。


「家では味方がいてくれていますから、なので白坂先生も自分のことか他に困っている人のことを優先してあげてください」


 挨拶をして教室をあとにする。

 先生が苦手でも嫌いでもないけどそれこそ甘えるようになってしまったら不味いから考えて行動している。

 その結果、六月になりかけている現在でも先生はこちらのことを気にしてくれている――もちろん、これはあの人にとっていいことではないから褒められたことではないけど。


「ただいま」

「おかえり姉ちゃん」


 弟の隼人はやとだ、中学生だからいつも私よりも早い時間に家にいる。

 まあ、最低でも一時間は残ってくるから中学生でなくても、という話になってしまうけど。


「ご飯作っておいたよ」

「いつもありがとう」

「姉ちゃんはすぐに帰ってきてよ」

「自分の席が好きだから無理かな」


 そう、反省するまで隼人にも結構自由にやってしまっていたから少し顔を合わせづらかった。

 自分勝手で面倒くさい私を外にいる人達よりも身近で見てきたのに、被害を受けてきたのに優しくしてくれているから辛いのもある。

 とはいえ、教室でも考えたように被害者面はできないからなんとか露骨なそれを出さずに頑張っている状態だった。

 あと絶望的に無理ではなくても隼人の方が家事を上手にできてしまうのも微妙だ。


「お父さんかお母さんが帰ってくるまでは部屋にいるね」

「え、もう食べようよ」

「分かった、だけどお風呂には先に入ってね」

「まあ、姉ちゃんはそればっかりだから俺も抵抗したりしないよ、疲れるだけだからね」


 私が入るのは最後だ、流石にお風呂掃除ぐらいはできるからそれはやらせてもらう。

 だけどこれは寝てしまうと一気に駄目になるから自分との戦いだった。

 自分勝手に振る舞わずに昔から静かに過ごしてきていたら自分に苦しめられることもなかったのに私はアホだと思う。


「「いただきます」」


 隼人の作ってくれたご飯はいつも濃すぎず薄すぎずで落ち着く味だった。

 こういうことは完食するだけでは上手く伝わらないため、食べ終えた後は必ず美味しかったと言うようにしている。

 昔の私は……これ薄い! これ濃い! と自由に……なにもしないくせに屑だろう。


「じゃ、部屋に戻るね」

「うん」


 あと、何回も繰り返してからでなければ気づけないようになっているようで、先生が教室に来た途端に帰るあれも失礼だから場所を変えようと決めた。

 でも、空き教室なんかはほとんど開放されていないからどうするか……って、家が嫌いなわけでもないのだから帰ればいいか。

 本来、部活動をやっていない身として十七時までに帰るのが正しいのだ。


「姉ちゃん入っていい?」

「もう入っているけどね」

「もう風呂にも入ったから文句は受け付けないから」


 なにをそんなに気に入っているんだか。


「最近部活があんまり楽しくないんだ」

「運動大好き少年の隼人が珍しいね」

「うん、なんでか分からないんだけど最近はそうなんだよ」

「友達と微妙になってしまっているとか?」

「いや、友達とは仲良くやれているから」


 それなら他にやりたいことが多くあって活動している場合ではないとなったのかも。

 隼人と同じの中学二年生のときには変えて静かにいるようになったから部活動は結構辛かった。

 強制的になんらかの部に所属しなければならなかったし、辞めるのもほとんどの先生の許可を貰えなければ無理だったから我慢するしかなかった。

 やりづらかったのは調子に乗っていた時期に迷惑をかけてしまった相手が同じクラス、同じ部活動だったことだ。


「だから姉ちゃんのためだけじゃないけどご飯を作っているときの方が楽しいんだ」

「家庭的な男の子だね」


 例えば調理実習なんかではその効率のいいところに女の子が惹かれたりしそうだ。

 もう友達ではないけど中には小学生の頃からご飯やお菓子を作ってよく食べさせてくれていた子もいたからね。


「隼人、お姉ちゃんみたいにならないようにね」

「全部が悪いわけじゃないから別に」


 優しい弟だ。

 でも、家族ならするスキンシップなんかもしないでおいた。




「「あ」」


 現実でもこういうことがあるんだなと他人事のように思った。

 放課後になってからも結局すぐに帰ることはせずに教室で本を読んでいたら涙が出てしまった、そしてそれを拭っているときに先生が来てしまった形になる。


「いま来たばかりの白坂先生でも分かると思いますが本の内容が良かったので感動して涙が出ただけなんです」

「自由にやられてどうにかしたくて本を読んでいたわけじゃないよな?」

「そんなのありませんよ」


 担任の先生でもずっとこの教室にいられるわけではないから信じられなくても無理はないか。


「それよりもいつも白坂先生が来てくれたときに出ていってすみませんでした」

「お、おう」

「苦手とかそういうことではないんです、私はただ昔のように調子に乗りたくないんです。白坂先生もまるで友達みたいに甘えられたら嫌ですよね? だから自分自身と白坂先生のことを考えて行動しているんです」


 今日は先生が教室から出ていってからにすると決めているので動いたりはしなかった。

 とはいえ、いま丁度いいところで本を読もうものならまた泣いてしまうかもしれないからそれも選べないと。


「昔の大崎はどんな感じだったんだ?」

「なんでもはっきりと言う人間でした、わがままもいっぱい言ってきました」

「はは、はっきり言うところは変わっていないみたいだな、わがままは言わなくなっているのかもしれないけど」

「いえ、家族にも色々と隠して生きていますから変わっていますよ」


 隼人の頭を撫でたり、抱きしめたりすることができなくなったのは寂しいことだと言える。

 私はあれだ、とにかく気を付けているだけで人を拒絶しているわけではないからそういうズレが出てきてしまうのだ。


「テンションを一定に保つようにしていると人って近づいてきてくれませんよね」


 うざ絡みをしていたときはそれでも人が近づいてきていたのに静かに過ごすようにしてからは誰も近づいてこなくなった。


「そうか? ずっと見ているわけじゃないから合っているか分からないけどさ、大崎からは拒絶オーラが出ているんじゃないかって思うんだ」

「でも、こうして白坂先生とは普通にお話ししていますよね?」


 ああ、すぐに帰っていたことが分かりやすく効果を発揮したということか。

 もちろん、悪い方に、だけどね。


「相手がなにも発生しようがない教師だからじゃないか? 身近にいる同級生とかだとまだ違うかもしれないだろ?」

「私はその身近な人達に対して失敗して反省をしているのでやりづらいのはそうですね」


 友達が去っていく怖さを知ってしまったから、心の底から友達が欲しいと思えていないからこその結果なのかもしれない。

 そうなると気を付けつつ生きていく私は益々……まあ、上手くやっていくしかないか。


「同性でもいいから大崎に興味を持ってくれる子がいるといいんだけどなあ」

「同性に対して失敗したので異性の男の子の方がいいですね」

「はは、流石に大崎でもそういうことに興味があるんだな」

「え、あ、恋がしたいとかそういうことではないですよ? それこそなにも発生しようがないので落ち着けると思うんです」


 あ、でも、男の子と話していたら「媚を売っている」なんて言われたことがあるからそれも問題かな?

 難しい、だけど同性ならではの距離感を見誤ってこうなっているわけだからやはり男の子の方が慎重になっていいはずだった。


「まあ、俺と話せているから男性恐怖症とかでもないだろうしな」

「白坂先生は……」

「お、おい、そこで黙られると不安になるんだけど」

「四月に初めてお話しして……」


 駄目だ、なんて言ったらいいのか分からない。

 ただ、こうして逃げずにいられているように他の先生と違うのは確かなことだ。

 とはいえ、ろくに関わったことがないからこうなっているだけなのかもしれない、だからまだ〇〇だと判断するには早すぎるのだ。


「いつも気にかけてくれてありがとうございます、それとすみません」

「気にしなくていい」


 なんか急にご飯を作りたくなってきた。

 まああれだ、中学生で部活もやっている隼人に頼るのもありえないので頑張って勉強していこうと思う。


「唐突ですけど、白坂先生って一人暮らしですか?」

「そうだな、休みとかに実家に帰ったりするけど基本は一人だ」

「今日のご飯はなににする予定ですか?」

「俺は自炊とかしないからコンビニとかスーパーのカップ麺とか弁当だな」

「参考になります、ありがとうございました」


 麺、麺か、うどんとかも美味しいよね。

 余程のことがない限りはインスタント麺とかに頼ったりもしないからたまにはラーメンなんていいかもしれない。

 麺類なら既定の時間茹でるだけ、味付けなんかもほとんど決まっているから初心者が手を出しても問題はないだろう。


「大崎が作るのか?」

「いえ、いつもは中学生の弟が作ってくれているんです。でも、急にそれでは駄目だという考えになりまして」


 いや失敗を重ねて中学生中盤になってから気づいたときもそうだけど遅すぎる。

 なんで私はこうなのだろうか、隼人も不満ぐらい家族なのだからなんでもぶつけてきてほしい。

 自分が作って当たり前なんてそんなことはないのだ、暇人のお姉ちゃんに任せておくぐらいがいいのだ。


「弟君も大崎も偉いな、俺も見習わなきゃなあ……」

「私はまだなにもしていないので偉くなんかないですよ。ということでお買い物をしていくのでこれで失礼します」

「ああ、気をつけろよ」

「白坂先生もお気を付けてくださいね」


 あれだ、人選終了間際に気づいたけどもう遅い、なんてことにならなかっただけ良しとしよう。

 今日は珍しくやる気と楽しさがそこにはあった。




「え……姉ちゃんがご飯を作ってる……」

「おかえり隼人」


 麺類だから帰宅してもいないのに作ったところで伸びてしまうだけだからこれは試作だ、全部ちゃんと私が食べるから心配しないでいい。


「これからは私が頑張るからね、隼人は休んでくれればいいよ」

「え、だけど教室に残っていたいんでしょ?」

「ほら、少し残っても隼人には部活があって丁度いい時間になるから大丈夫だよ」

「交代交代でやろうよ、姉ちゃんだけが頑張る必要はないんだよ」


 いやいや、これまで隼人がやってくれていたのだからそれこそ隼人だけが頑張る必要はないんだよ……。


「それに俺は言ったでしょ、ご飯を作っていられる方が楽しいって」

「あ、そういえば部活の方は大丈夫なの?」

「まあ、文句を言っていても部活がなくなるわけじゃないし……怒られない程度にやるだけだよ」


 そっか、文句を言ってなくなるのは友達との関係ぐらいだよね。


「今日はレアなラーメンにしたよ、隼人は何玉食べる?」

「え、一つだけでいいよ、いっぱい作られてもあんまり食べられないから」

「分かった、すぐにできるからここにいてね」

「そもそも離れるつもりなんてないけど」


 心配だったのかソファに座ったりもせずに近くに立ってじっと見てきている隼人がいる、いまこのときばかりは親になったつもりで見ているのかもしれない。


「っと、これで大丈夫だよね?」

「うん、これは待っていても伸びちゃうから先に食べさせてもらうね」

「うん」


 そうか、両親がまだだから一旦休憩することになるのか。

 私は二回試作をしてそのどちらも食べてしまっているから自分に作る必要はないのが楽でいいけどね。

 手を洗ってソファに座って違うところに意識を向けていると「たまにはこういうのもいいね」と隼人が言ってきたので頷く。


「お米を洗うのも炊くのもできるから明日はカレーかな」


 市販のルーに頼るだけで美味しくできてしまうから初心者にも優しい。


「カレーライスもいいけどカレーうどんも美味しいよ」

「今日少し悩んだんだけどうどんもいいよね」

「ま、明日は俺の番だけどね」

「隼人、意地を張ってもいいことなんてなにもないよ?」

「駄目、姉ちゃんに連続でやらせたりしない、信用できないとかじゃなくて俺が嫌なんだよ」


 こういうところは駄目だったときの私に似てしまっていて悲しくなった。

 だってそれはつまり悪影響を与えてしまっているということだ、やっぱり一緒にいること自体が悪いことなのかもしれない。


「それに姉ちゃんはまだ友達がいないでしょ? 家事なんか俺に任せてそっちに集中するべきだと思うけどね」

「担任の先生とは話せているんだけど友達は確かにいないね」


 表情筋が劣化せずに済んでいるのは先生と家族、主に隼人のおかげだった。


「担任の先生って男の人?」

「うん、入学したときから気にかけてくれているんだ」

「なんか怪しくない? 姉ちゃんだからかもしれないよ」


 うん、あのクラスの人達は上手にやれているからお姉ちゃんだからこそなのだ。

 過去の失敗がなければみんなと楽しくやれていて先生の時間を無駄にしなくて済んだのに。


「同じ学校、同じ学年だったら確かめにいけるのに……」

「恥ずかしいからそうじゃなくて助かったよ」


 一緒の学校にいてもひとりぼっちの姉を見ることになるだけだ。

 それこそ時間の無駄になるからやっぱりそうではなくて助かったとしか思えなかった。

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